つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

年取ったよなぁ……

2006-12-01 23:28:10 | 文学
さて、しみじみと思ったりもするの第731回は、

タイトル:レキシントンの幽霊
著者:村上春樹
出版社:文藝春秋 文春文庫(初版:H11)

であります。

ファンのひとには悪い……とも思わないが、高校、大学とこの人の作品を読んで、二度と読むかと思っていたほど嫌いな作家だったのだが、ふとしたことで読んでみることに。
いきなり長編はきついので、短編で……と言うことで、表題作を含む7作が収録された短編集。
では、例の如く、各話ごとに。

「レキシントンの幽霊」
ケンブリッジに住んでいた「僕」(著者)は、親しく付き合うようになったケイシー(仮名)が家を空けることになり、その留守番を頼まれた。
貴重なジャズのレコードを聴きながら、静かな夜を過ごしてきた留守番の初日。
夜半に目が覚めた僕は、階下でパーティをしているらしき音を聞き、その様子を窺っていたとき、そのパーティは幽霊たちがしていることに気付く。

「緑色の獣」
夫が仕事に出てから、何もすることがない「私」のもとへ、椎の木の根元から緑色の鱗に覆われた、心を読む獣が現れる。
「私」のことを好きだと言う獣に、「私」は獣を苦しめるような想像をし、そのことで同じように苦しんでいく獣を眺める。

「沈黙」
僕は、大沢さんに「これまで喧嘩をして誰かを殴ったことはありますか」と訊ねた。
それをきっかけに、大沢さんはボクシングジムに通い、習っていたことや学生時代に唯一ひとを殴ったことがあることなどを語ってくれた。

「氷男」
私は、友人に連れられて行ったスキー場で氷男に出会い、その人柄に惹かれ、ついには結婚をする。
順調な結婚生活だったが、退屈な日々……それを紛らわすために提案した夫婦での旅行で、夫となった氷男の変化を知る。

「トニー滝谷」
ジャズミュージシャンの仕事で生計を立てていた、気楽な独り身となった父のもとに生まれたトニー滝谷は、父とおなじようにイラストレーターの仕事で生計を立て、気楽な独り身を過ごしていた。
そこに現れた出版者のアルバイトの女性に恋をし、結婚することになる。

「七番目の男」
その夜、最後に話すことになった七番目の男は、幼いころ、仲のよかった年下の友達が台風の際の高潮に浚われて以来、その影をずっと引きずっていることを淡々と語り始めた。

「めくらやなぎと、眠る女」
僕はいとこの少年が病院で行く付き添いのために、一緒にバスに乗って目的の病院に向かっていた。
病院で、いとこの診察を待つ間、僕は食堂から見える庭から、高校時代の友人の彼女が入院した病院に、連れだって見舞いに行ったことを思い出す。

やはり短編を選んで正解だった、と思うのと、あれほど昔嫌っていたと言うのに、おもしろく読めた作品がいくつかあったのが意外だったなぁ。
おもしろかったのは、「緑色の獣」「沈黙」「トニー滝谷」の3作。
特に「緑色の獣」は、10ページくらいの短い作品ながら、獣を責める女性の姿と、冒頭の一文からいろんな想像が出来ておもしろかった。

「沈黙」は、ほとんどが大沢という人物の語りで占められ、読むのははっきり言ってうざいだけだが、話の内容はすとんと落ちてくれる作品だったので読後感は良好。
「トニー滝谷」も落ちてくれる作品で、「沈黙」のような語りでなかっただけ、読みやすく、2番目によかったかな。

文章は……簡潔且つ明瞭だが、描写は緻密。
しかし受ける印象はやや硬質なぶん、くどさは感じさせないのは興味深い。
ただ、「沈黙」や「七番目の男」のような独白の文章は、まったくおもしろみのない講演を聴いているみたいで、読むのに苦労するし、眠くなるしでいいところはない。
また、傍点が多用されているところもうざったい。

この気に入らない部分を除けば、このひとの文章はすごいと思うんだけどなぁ。

……しかし、○年前まではあれほど嫌いだった作家だと言うのに、読めて、しかもおもしろかったのがあったりするなんて……年取ったなぁ……と、ホントしみじみ、思うよなぁ。