Dr.keiの研究室2-Contemplation of the B.L.U.E-

草村賢治 『奇跡のラーメン店は、どのように誕生したか』

久々に、素晴らしいラーメン本と出会えた。

草村賢治さんは、あの永福町大勝軒の店主さんで、
日本を代表するラーメン職人と言っていいだろう。

草村さんは現在80歳(昭和3年生まれ)。
1928年というと、日本でラジオ体操が放送された年、
イギリスで女性の参政権が認められた年、
アメリカでTVが始めて定期放送された年。

現在のラーメン界の中でも最高齢の店主さんの一人。

もちろん永福町大勝軒は日本屈指の有名老舗店。
「大勝軒」というと山岸さんの東池袋大勝軒が有名だが、
永福町大勝軒もそれはそれはとても有名なお店だ。

*直接、永福町大勝軒と東池袋大勝軒とは関係がない、
とされている。山岸さんの本を読んでも、草村さんの本を読んでも、
このお二人が何らかの関係があったということは書かれていない。
ちなみに、永福町大勝軒は昭和30年3月4日開業で、
東池袋大勝軒は、昭和36年6月6日(中野店は昭和26年~)

この本は、ラーメンファンというよりはラーメン店主の方に
読んでもらいたい本と言っていいだろう。
これは、まさにラーメン店主の極意が書かれた本だと思う。

草村さんは、次のような問題提起をする。

「ラーメン屋でも中華料理店でも、また居酒屋や大衆食堂でも、
いま個人店はたいへん厳しい状況で、苦戦を強いられています
私はよく外に出て、いろいろなお店を見て回ります。
この間も商店街を見て回りましたが、
個人店の元気のなさが目につきました」(p.8)

そして、その理由について、こう語る。

「(個人店が苦戦する)一番の大きな理由は、
お店を経営している人の心構えとか取り組む姿勢
また商売人としての知恵がいまひとつ欠けていることに
あるのではないでしょうか。私には、そう思えてなりません」

「例えば、商売に対する心構えということを一つとってみても、
いまの経営者はラクをして儲けようとする風潮が強くなっていると
いえないでしょうか」(p.10)

そういう心構えや姿勢は彼自身が貫いてきたものだった。
現在のタレント店主なんかを見ると、
「たしかに!」と思うことが多い。
そんな草村さんは、次のように忠告している。

「人と同じように休みをとり、ラクをしていたのでは、
決して他店に差をつけて自店にお客様を呼ぶことはできません。
人の2倍、3倍働いて初めて
他店に勝って繁盛を掴むことができるものです」(p.12)

これは、お店の定休日の話ではない。
経営者やラーメン店主(個人店)のことだ。
実際「有名店」では、店主さんや経営者を見ることはほとんどない。
ちょっと売れたら、現場から姿を消してしまう。
(斑鳩の店主さんなんかは、厨房に立つ率が高くて好き♪)

別の箇所でも、同じようなことを述べている。

「日本一のラーメン屋を目指すのなら、
人と同じことをやっていてはダメです。
人が休んでいるから、自分も休もう。
これでは商売は上手くいきません。
人が休んでいる時間に頑張るから、
人並み以上のことができるのです
」(p.26)

多分、これが草村さんのこの本での大きなメッセージなのだろう。
ラーメンフリークとしても、教育研究者としても、
この考え方は十分納得できるし、共感できるし、ぐっとくる。

上で「個人店の元気のなさ」というのがあったけど、
それは、ラクして稼ごうとする態度と無関係ではないだろう。
手を抜いて、適当に真似をして、そこそこのものを出して、
で、あんまり売れなくて、自信をなくして、元気をなくす・・・
(廃業するラーメン店の数を考えれば、これは深刻だ)

売れない理由を「景気」のせいにすることにも反対している。

「景気が悪いからお客様が来ないというけれど、
景気のせいにして、本当のところは
味づくりに対する努力をしていないのではないでしょうか

お客様が来ないのは、その店に行きたくなるような
魅力あふれる商品がないからです。」(p.49)

草村さんに言わせれば、売れないのは味が悪いから、
それに尽きる、ということになる。

草村さん自身、「味変え」(味作り)を200回以上してきたという。
何度も何度も味を変えて、そのつど最高の味を提供し続けてきたのだ。
こういう努力を(人が休んでいるときに)してきたかどうか、
これが、ラーメン店主にとってとても大切なことだ、と彼は言う。

草村さんは、こうしたことを「お客様との舌の競争」と呼ぶ。

「初めて食べて、“これは美味しい”と感動した味も、
何回も食べてくると、飽きてきて感動しなくなります。
お客様に常に感動していただくためには、
常にお客様よりも一歩先を行く味を提供することが必要で、
そのために“味変え”が大切になってくるわけです」(p.50)

もちろんそのためには、食材や食器や接客など、
味以外のところにも注意しておかなければならない。
(この点は、本書の重要なところなので、
是非読んでいただければと思います)

特に、今現在、迷っていたり、元気を失いつつある店主さんには
こういう本が一番の助けになるのでは、と思う。
小手先のマニュアル本とか流行のラーメン本を読んでも、
根本的には変わらない、というか、本質的に変わらない。
小手先の技術は時代と共に必ず廃れるからだ。

ラーメン店主として自分はどう在るか?
この問題にしっかりと向かっているのがこの本である。
「どうするか」ではなく、「どう在るか」が問題なのだ。

ラーメンを究めた80歳の賢者に耳を傾けて、
じっくりと草村哲学に浸ってみるのも悪くないのではないかな。
(ちょうどGWだし・・・汗)

***

問題点としては、こういう職人論が「家族論」とバッティングすることだ。
(草村さんがどうこうではないが)家庭を顧みないで、
仕事に没頭する職人をそのまま賛美することはできない。

仕事と家庭は共に人間社会にとって大切なこと。
休日に子どもと遊んだり、妻のために家事をしたり、
妻と会食をしたり、友人たちと楽しい時間を過ごしたり、
そういう時間もやはり必要不可欠である。

仕事だけに没頭して、家庭を顧みないというのは、
人間の本質からして、やはり問題があるといわざるを得ない。
しっかり休日はとるべきだし、
仕事から解放される日がしっかりと確保されておく必要はあるはず。

また、仕事から離れることで、新たな発想が生まれたりもする。
草村さんのラーメン哲学を学ぶのも大切だが、
それと同時に、仕事を離れる潔さも時には必要かなと思う。

コメント一覧

kei
ぽんさん

こんにちは。

永福町大勝軒は、このブログでは記事を書いてませんが、食べてます。(めときは未食です・・)

量が多い理由、
一杯1000円以上の理由、
これについては本にしっかり書いてありますよ!!

一杯が他店の二杯分なので、
値段は安いほうだ、と。
そういうことみたいです。。

修行の厳しさも分かる気がします。

是非是非この本を読んでいただきたいです。

amazonですぐに買えると思います。
店頭だと難しいかもしれませんね。。
ぽん
こんにちは。
 僕もこの本、立ち読みしたいと思っているのですが本屋では見当たりません。
 keiさんは永福町大勝軒には行ったことありますか? 僕はないのですが、同じ系列と言われてる新大久保の「めとき」は大好きでよく行きます。
 だから永福町も美味しいのではと思いますが量がかなり多いようなのであまり行く気にはなりません。しかも値段も1000円台ですし。 他のブログなどを見ると「麺が延びる」「最後の方は飽きる」「接客が無愛想」「客の前で従業員を怒鳴っている」などあまり良いことは書かれていないような気がします。
 これも僕のお気に入りの幡ヶ谷の不如帰の店主さんは永福町で修業していますが、ものすごく厳しかったそうです。
 永福町大勝軒の人気・成功の理由を知りに、いつかは一度行ってみたいと思っています(長々と失礼いたしました)。
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「ラーメン・グルメのコラム」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事