多摩川の堤に這い上がったもののタム・ソーヤにも次の行動予定があるわけではない。
もたもたしているうちに大学生が近づいてきて「君たちぼくのお手伝いをしてくれないかな」と笑いかけた。
「お礼はできないけど、個人的に多摩川に生息している魚や甲殻類を調査する仕事もしているんだ。世界の学会に発表するかもしれないんです」
「はあ・・」タム・ソーヤがつられたように返事をした。
世界という言葉に弱い田村一郎は仲間を見回して「どうせ暇だし暑いから水遊びしてみようか」と積極的になった。
昼過ぎの一番暑い時間帯にタム・ソーヤたちはズボンもシャツも脱ぎ捨て、パンツ一丁で川に入った。
川といっても本流に沿って流れる人工の支流である。
本来は飲料水や灌漑用水にするための取水口で、詳しい人の話では自治体ごとにそうした工夫をしているらしい。
タム・ソーヤたちは大学生に渡された網と七分目まで水を入れたバケツを土砂の上において交代で採集した。
2時間ほど過ぎたとき大学生がタム・ソーヤに声をかけた。
「君ちょっとまっすぐ行ったところの駅前にひとっ走りして来々軒で中華そばを5人前出前するよう頼んでくれないか」
「いいですけど、代金は?」
「大丈夫、来々軒の親父はいつもツケで配達してくれるから」
「この場所わかるんですか」
「見通しがいいからバイクにまたがったままオーイと声かけてくれるんだ」
タム・ソーヤは駅前目指して急ぎながら、あの大学生は最初お礼はできないと言っていたのに案外ボンボンなんだと得心した。
注文が済んで急いで帰るとすぐ後から出前のバイクがやってきた。
「へい、まいど。先月分の代金はお父さんから送ってきましたよ。今月もよろしくお願いしますね」
この陽気な大学生は、想像以上に恵まれた環境に置かれているようだ。
「ありがとう。丼はこのあたりに置いておきますから」
5人はさっそく中華そばを腹に収めた。
「ごちそうさまでした」
タム・ソーヤたちは口々にお礼を言った。
「さて、それじゃ何が採集されたのか見てみようか。
大学生がバケツに手を入れて掬い上げながら「君は几帳面そうだから僕のノートに記帳してくれないか」とジミーを指名した。
まずはウグイ、オイカワ、タカハヤ、カジカもいる。それにカマツカ・・すごいじゃないか」
「これで学会ですか」ジミーが聞いた。
「ハハ、新種が混じっていればネ。・・今日は手伝ってくれてありがとう。ちゃんと身支度して帰ってね」
大学生とはそこで別れた。
身支度はしたけれど家に帰るわけにはいかない。
4人はあてもなく土手を歩き、上流を目指した。
「暗くなってきたな。食料も調達しながら寝床にもなるムロ〈室〉を探そう」
タム・ソーヤが畑のほうへみんなを誘導した。
〈つづく〉