磯野鱧男Blog [平和・読書日記・創作・etc.]

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渡り鳥サブ

2005年11月24日 | 短編など
渡り鳥サブ

鳥は空を飛んでちゅうを舞う。
ここに一匹の渡り鳥がいました。
名前はサブ。

空を舞うことは楽しいことだろうと
人間は思うことでしょう。

でもサブはどんな安全だという時でも
寂しくって寂しくって……。

それにいつ自分の敵があらわれて、
自分が虫をパックと食べるのと同じように
食べられるのではないかと、
そんなふうに空を飛んでいます。

鳥は愛を告げる時、
ちゅうを舞って告げることがありますが、
この鳥はそんなことに使ったことがありません。
どうにかして、恋人を見つけたいとサブは思いました。

サブは一度、心ないハンターに撃たれ、
傷ついて、老人に助けられことがあります。

そして種族から離れてしまったのです。
サブは自分の種族だったプピー属を捜しています。

北風が吹きます。
これは仲間か移動する季節だから、
きっと会えるとサブは思いました。

と、そこに、
工場の近くで死んでいる同種の鳥を
見つけておりました。

一羽の鳥に近づいてみると、虫の息でした。
「おい、どうしたんだ」
「もう、僕はダメなんだ。
この川の魚を食べ水を飲んでしまったから」

「みんなも、それで死んでいるのか」
「うん、そうだ」
 と言いながら、その鳥は死んでいきました。

サブは寂しさが悲しみにかわりました。
この種族の渡り鳥のすべてが死んだ。

サブが捜しているプピー族もこのように
死にたえているんじゃいか?
とサブは不安になりました。

でもサブはあきらめずに、
翼をつかつて空に舞い上がりました。

また寂しい旅が続きます。
ときどき渡り鳥に会います。

でも、みんな人間にいじめられて
疲れているようです。

サブもやっと飛べるようになった時、
ハンターに撃たれて傷ついたのです。
人間って本当に恐ろしい悪魔だとサブは思いました。

沼地のようなところに
また死にかけている渡り鳥がいました。

サブは「飛ぶんだ!」といっても、そんな気力もなく、
「最後に魚を食べさせくれ、新鮮でうまいのを」と、
もう生きることをあきらめていました。

サブは少し遠い海までいって帰ってくると、
その鳥は生きていませんでした。

サブは泣きました。
そして、その魚を食べたいといった鳥の前において、
また鉛のような翼を動かせて、空に飛び立ちました。

死んだと思ったその鳥はかすむ目で
サブが飛んでゆくのを見て、
「あ・り・が・と・う」といって、
水中に顔を落としました。
そのとき、チャプンと音がしました。

サブはでも生きなければなりません。
サブは飛ぶ、鉛のような翼をと心をもって、
生きるために飛ぶ、種族と会う希望と
大きな勇気で飛ぶ、渡り鳥サブ。

そしてサブは三か月すごしました。
でも、鉛のような心でも、まだ希望を捨てません。

サブは嵐の日、岩のところに隠れていると、
一羽のケガをした渡り鳥がいました。

サブと同じ種族のチャーです。
「チャー、おまえじゃないか」
でも、チャーはうなずくと
すぐ安心したのか眠りました。
よほど疲れていたのでしょう。

翌日も嵐はやみ、おだやかな日和でした。
「チャーよ、プピー族はどこにいるんだ」
「そう近くにいるんだ。昨日の嵐で
俺ちょっと魚をとろうして迷子になったんだ。
それにしてもよく生きていたなあー。
あの時死んだと思ったよ」

「ところでチャーよ、チルチはどうした」
「死んだ」
サブの恋していたチルチが死んだ。

「チャーよ、チルチはどうして死んだの」
「おまえがハンターに撃たれのを見て、後を追ってさ」
「あの時か」
「そう、あの時だよ」

「チャーよ、種族の所へ行こうよ」
「でも、サブ。そんなにあせる必要はないよ。
ここから近くだよ。ここでしばらくいる予定なんだからなあ」

サブは元のプピー族に帰れた喜びと、
しかしそれ以上にチルチの死による悲しみで
心は落ち込んだ。

「チャー、ここの水は大丈夫だよ」
「でも安心はできない」
 とサブはいい自分があちらこちらで、
こんな状況を見てきたことを話した。

「俺もさ。人間はあちこちで工場と
いうものを建ててるからなあー」

「安全な定住地はハンターの来ない、
きれいな水のところに限る」

「でもここは透き通っているよ。
わりとだかネェー。
それに工場はここから遠いから大丈夫だよ」

でも、その言葉はみごとに裏切られました。
みんな死にかけて動けません。

「こんなジワジワくるから、
病気かと思っていたら、
みんな同じようにこんなふうに、
痙攣をおこしてはじめて……」

子どもの一人が最初に死んだ。

サブは片目をつぶりながら、
しかし力強くみんなに言った。

「飛び立とう。この地を、飛ぶんだ。
そして、体をなおしてまた最初からやり直すんだ」

チャポン。
年老いた渡り鳥サンダが死んだ。

チャポン。
子どものシンチダが死んだ。

サブは言った。
「みんな最後の力をふりしぼろう。希望を捨てるな!
希望は……。
俺死んだと思っただろう。
そして俺はもう皆と会えないと思っただろう。
でも希望を捨てずに、夢みたんだ。
夢みて、そして会えたんだ。
みんなも夢を見るんだ。そしてつかんだ。
幸せを、希望を捨てるんじゃない」

みんな夢を見始めた。
一羽が翼をひろげた。

鉛より重い重い翼を、
そして二羽が三羽が、

それから一匹飛んだ。

チャポン、チャポン……。

でもサブは鉛より重い。
しかし前よりは力づよく
飛んでいる。

サブは飛ぶ。
サブは夢みる。
サブは希望を捨てない。
サブは……。

チャポン……。




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もくじ[メルへん]



【本人評】僕は小学校五六年のころ、学習発表会で一人で「公害」を論じました。小さなころから、環境問題に関心がありました。そのときも、「水俣病」を「みずまたびょう」と呼んでいて、
しばらく悪友から、「おい、みずまた」と呼ばれていました。「何かしでかしてくれるかと思っていたけど、やっぱりやってくれたねえー」と彼は喜んでましたね。エヘヘへ……。
そのころ、渡り鳥サブは考えたものですが、誰にも見せませんでしたね。中学生のおわりに書き直して、高一のとき、植物人間と医者からいわれた母に読んできかせました。母にきかせた自作の童話は2作だけでした。あとは自信がないので、読めなかったです。

これは高二のときの文化祭でクラスでとった「黄昏時に」という映画のなかで、主人公の女の子が童話をかいていて、がんばって生きてゆくときのストーリーとして使いました。その映画の脚本は僕がかきました。

まあ、思い出深い作品でございます。

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