弱虫・強虫 2005年09月29日 | 短編など これを書いたのは小学生でした。 斎藤隆介のファンでした。 弱虫・強虫(よわむし・つよむし) (1) むかし権太という少年がおった。 何かいわれるとすぐ泣き出してしまう。 ほ~ら~。また、弱虫権太の泣き虫が村中に響いている。 おかあさんはいいます。 「むかしは、権太はあんなに弱虫ではありませんでした。 ある夏の日、権太は弱虫になったのです」 一つはとっても、とっても大切なおじいさんが死んだのです。 脳卒中という病気で、権太は 「くそじじい、くそじじいー」 と、死ぬ前に言ったことを覚えています。 寝たきりのおじいさんだから、ずっと権太のお母さんが、 おじいさんの面倒をみていたからです。 「権太、すまんのう。おまえのかあちゃん、すっかりとってしまって」 と、おじいさんを床についたまま、目頭に涙を浮かべていました。 それを見ていると権太は息がつまりました。 でいう言葉が出てこないので、ついこんなことを言ってしまったのです。 「おじいー。はよー。死ね!」 と、おじいさんにいってしまった。 そして泣きながら家を飛び出しました。 そして河のところに行きました。 すると同級生の三平が釣りをしていました。 静かに近寄っていいました。 「ねぇ、三ちゃん、何釣っているの?」 「何でもいいんだ。エビでも、鮒でも、ナマズでも」 権太と三平は水面で浮きながら流れているウキをじっと見ていました。 「釣れないね」 「うん、釣れない」 三平は権太の顔をみて、 「今まで鮒一匹」 と、言いました。 「ところで、権太、おまえ泣いたろう」 「泣いてないよ」 「うそつけ」 「うそなんて……」 「何言っている、ほ~ら。目の下に涙の跡が残っているよ」 「うそだ~い」 と、いいながら権太は目の下をあわててこすりました。 「ほ~ら、やっぱり泣いたんだ」 「……」 「何で泣いたんだ。泣いちゃいけないよ。誰に叱られたの」 「うそだ~い」 「うそつけ」 「なに!」 三平と権太は大喧嘩になりました。 魚が釣れないから気のたっている三平。 おじいさんのことで寂しくって、むしゃくしゃしている権太。 二人のその感情が爆発したのです。 三平は髪をつかんだり、爪でひっかいたり、 でも権太も負けていません。 「コーン」と、突然変な音がしました。 それに続いて、「ドボーン」と変な音をたてました。 権太が三平を押し、そのいきおいで、 三平はバケツにつまずいてしまったのです。 そして、河にはまってしまったのです。 「権太、助けてくれ~。権太……、うわー!」 権太は一瞬ボーとしました。 何をすればいいか、わかりませんでした。 権太は泳げません。 そして権太はとにかく走り出しました。 「誰か誰か、いないかー。三ちゃんが……」 真っ赤な顔して走りました。 そして、そこに呑気な保さんがいました。 「おじさん、おじさん、助けて、助けて」 「三平、どうしたんじゃ」 「おじさん、おじさん、助けて、助けて」 「何を助けるんじゃ」 「三平、三平だよ、おじさん」 「三平がどうしたんじゃ」 「バケツにバケツに」 「バケツに顔を入れて取れなくなっちゃったのか。アハハ。 俺も前にや~た。アハハ」 呑気な保さんは大きな口を開けて大笑いしました。 権太はあせってしまって、足をドタバタ、手を左右にぶらぶらとせわしなく振った。 「違うよ、違うよ」 「なら、どうしたんだ。落ち着いていえ」 権太は悲しくなりました。だって三平ちゃんの命がかかっているんです。 でも悲しんでいても、三平は助からないということも権太はわかっているので、 精一杯考えて、 「つまずいたんだよ、バケツに。そして河に落ちて、おぼれているんだよ」 「そういえば、昨日の雨で水かさが増えているから、流れも早いから、流されてしまうなー。うん」 と、保さんは左手でアゴをなで、右手で鍬によりかかって考えました。 「おじさん、早く、早く」 「よし、急ごう」 「三平、死ぬな、死ぬな」 権太も保さんもひた走りました。 でも、元のところにつくと誰も見えませんでした。 「権太、それ本当の話ケ」 「本当だよ-。こんな悪い冗談なんていわないよ。ほら、あそこに三ちゃんが釣りをしていた。竿とバケツがあるだろう」 バケツから水がこぼれ、一匹の鮒が飛び跳ねていた。 「三平ちゃん死んじゃう」 「三平はどこぞにおよぎついたんじゃないかー」 「うーん、それならバケツと竿をもって帰るよ」 「そうじゃなあー。しっかり者の三平のことだからのう。 三平は下流の方に流されたのかもしれん。わしは村の人を連れてくる」 「うん」と、権太は返事した。 「三平~、三平ちゃん」 もう辺りは暮れかかっていました。でも、権太は、 「三平、三平ー」と泣きじゃくりました。 そこに権太の母と、消防団の人が来て、 「保さんから話は聞いた。三平は本当におぼれたんだね」 「本当だよ」 「まあ暗くて、もう晩だから、子どもは帰れ!」 「でも三平ちゃんがー」 「そうしょうね、権太」 と、母は言いました。 「でも三ちゃんがー」 と、いってみたものの、権太はお腹が減ってたまりません。 「権太、大人にまかせ」 「そうだよ、権太。家に帰れ!」 「暗いから家に帰れ!」 「また河に落ちたら大変じゃ」 「そう、おまえみたいな子どもがいても仕方がない。帰れ」 そんなことを大人にいわれた権太は、小さな声で、 「じゃ、帰る」 と、つぶやくように話した。 権太が一人家に帰り、家に入ると、奥の部屋から人のうめき声がしました。 おじいさんがまた脳卒中になったのです。 権太は泣いていたのさえ忘れて、近所のお医者を呼びに行きました。 五分ぐらいしてから家に帰ると、おじいさんは静かにしていました。 「おじい、おじい、医者つれてきたぞー。しっかりせえー」 脈を医者はとりはじめました。 「何! カンフルを」 「はい」 看護婦(看護師)さんはあわてて注射器と小さな瓶をとりだしました。注射器にうつしている時、おじいさんの脈をみていた医者は脈をみるのをやめて、まぶたを裏返しにして、懐中電灯を照らした。 そして、看護婦さんに、 「もういい、ご臨終です……」 そして医者は目のところに手をやり、まぶたを閉ざしました。 権太も目の前が真っ暗になり、まぶたを閉じ、涙はたらたらと流れました。 (二) 権太の母は悩みます。あの日から権太はすっかり変わってしまいました。引っ込み思案になり、泣き虫になりました。 暗闇の中で一人でいることができません。 きっとあのことを思い起こすからでしょう。 権太の母は悩みます。どうすれば権太は普通の子にもどることができるのかと。 今日、学校に行きました。 また、友達にからわかれているのでは? 「ゴン、ゴン、ゴンタ、ごんたはゴンタで、悪たれ小僧」 4~5人の子どもたちに囲まれて権太は泣き出しました。 先生も権太のことを心配しています。 「あの日まであの子はあんな子ではありませんでしたよ。そう頭はいうほどよくありませんでした。」 でも活発な無邪気な子どもでした。 あんなに変わってしまうなんてのも無理ないことです。 あんなに一度で変わってしまうなんてのも無理ないことです。 ただ、一教師として、できることは、ただあの子はどのように奮起するか、やさしく見守るだけです」 「オーイ、幸ちゃん。権太、権太をねらえ」 「権太なら、すぐ当たるぞ」 「そうだ、そうだ権太をやっちえ」 ドッチボールする権太はすぐに当たりました。 「権太、権太、権太のバーカー。女に当てられてらあー」 「権太、権太のバーカー」 先生が言いました。 「権太のドッチボールや、みんなで何かすることはパッとしませんね。 でも、水泳の時間になると違います。うーん、カナヅチだったあの子が、小学三年なのに500メートルは軽く泳ぎますからね」 私は深く、あの子のことは知りませんが、何か心にわだかまりがあるんじゃいないですか。 権太の母さんは学校に来て先生の話を聞くと、とても権太をいじらしく思いました。 そして、このままではいけない。権太を元の権太のようにすると心に決めました。 白い雪が降っています。 権太の心も昔はこの白い雪のように清らかで、さも楽しそうだったのに、今はその雪がふってくるあの雲のように、なってしまった。でも、雲になったのなら、必ずまた地面におりてきますと。それが自然だから……。と母は思いました。 (三) 権太は小学四年生になりました。 いくらおかあさんが、わだかまりをとろうとしてもとれず、約八か月が過ぎました。 権太は八か月たっても、三平とおじいさんのお墓に毎日一回は行きました。 だから、おあかさんは引っ越しを考えたのです。が、お父さんが「いや、ますます、知らない人たちの間に行くと、権太はダメになる。ほら、裕美ちゃんみたいな友達がいるではないか。あの子と遊んでいるうちに、きっと昔の権太にもどる」と言いました。 春です。だから土筆(つくし)とりに学校の友達同士でハイキングに行きました。写生をしたり、蝶々をとったり、お弁当を食べたあと、権太と裕美ちゃんが座っていると、一匹の蝶が飛んできました。 「まあ、きれいな蝶々」といって、裕美ちゃんは立ちました。 「権太、蝶々とらない」 「うん、いいよ。僕、お空の雲、みている方がいいや」 「じゃ、私はとるわよ」 ドボーンと大きな音がしました。 裕美ちゃんが落ちたのです。 「オーイ、大変だ」 「どうしょう」 「やっぱり、権太なんかと仲良くするから、こんなめにあうんだ」 わいわいと、みんなは勝手なことを話します。 級長はあわてて遠い所にしかいない大人を呼びにいきました。 「雪のとけた水で、ほら、裕美ちゃん流されていくよ」 と、気の抜けた声で花子が言いました。 「おーい、権太、何をしてるんだ。服なんかぬいで」 ドボーン。 「権太」 「権太、権太、権太、がんばれ」 裕美ちゃんのところまで来ましたが、雪どけ水で泳ぐのが難しいのです。 「裕美ちゃん、がんばれ。権太、がんばれ」 いままで、あんにいじめてばかりいた友人です。 みんなが権太を応援します。 それでも、権太の耳には入りません。 (四) 権太は死にました。 裕美ちゃんは何とか、健一君が差し出してくれました 竿(さお)につかまって、助かりました。 権太は力つきて竿を握ることもできずにいました。 母は思いました。 権太はこの日のため、水泳の時間がんばったのだと。 三平ちゃんがおぼれた時、自分で助けられれば、泳げたらと強く思ったのでしょう。 裕美ちゃんは涙浮かべてみんなに言いました。 「権太のどこが弱虫なの。私が蝶々をおっていって、蝶々が橋の手すりにとまってい、それをとろうと飛びかかって、おぼれた時たすけてれたのは、権太くんだけだった。私なんか、ほっておいてくれたら、良かったのに……。もう何をいってもダメなのね」 みんなは思いました。 権太は弱虫ではないと、そして強虫だったんじゃないかと、いじめたことを罪に感じました。 権太は罪を感じて思いつめていって、あんな風にのなっていた。 権太、弱虫だったのだろうか。 罪を感じても忘れてしまう子が弱虫だったのだろうか。 それはわかりません。 でも、私には権太は弱虫なんかじゃなく、 きっと、きっと、心のやさしい少年だったのです。 (五) 権太の墓のまわりには、一年目くらいまでは、 友達の花や供物がありました。 二年目には花だけがありました。 そしてみんなが中学校を出るころになると、 花一輪が……。半紙に包んだ手製のビスケットがありました。 それを見ると、権太の母は心が救われるような思いになりました。 --弱虫・強虫--終わり-- 「権太のような人間だけなら、決して二度と戦争はおこらない」 と、先生のノートに書かれてありました。 下、1日1回クリックお願いいたします。 ありがとうございます。 « A010.無農薬? | トップ | AB011.雲の上の家 »
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