三、タイベン
27.横綱ジョンさん
翌日、幸江が蝋石(ろうせき)で別館の前にかわいいコックさんの大きな絵を書いている。
蝋石は駄菓子屋さんで買ったものだ。別館の前はコンクリートで固められていたので、蝋石で絵をかくのにあっている。
「この絵は歌があってね。♪棒が一本あったとさ……」
と幸江が歌い出した。
みんなもつられて歌い始める。
「そういや、幼稚園のころのお絵書きにこのコックさんよく書いたなあー」
「絵書き歌、おもしろいですね。タコの絵書き歌を知っています」
ジョンさんはうれしそうに話した。
「ぼくも知っているよ」
幼稚園に通っているころによく書いたと雄二は思い出した。
「でも、かわいいコックさんは、お絵書き歌だけでは終わらないのよ。これで、ケンケンパをするのよ」
「ほおー、おもしろそうですね」
ジョンさんはケンケンパに興味をおぼえたようである。
雄二は分校でグリコをしたのを思い出した。
「みんな、それぞれ気に入った石をもってきてね」
幸江はもうきれいな緑色の石をもっている。
「最初はコックさんの左の靴に石を投げ入れるんだよ」
「石のあるところは、足を置いたらいけないんだ」
「石がなければ、両足で着地できるのよ。今、コックさんの足のところには石ないでしょう。両足で着地できるのよ。コックさんの靴は左に石が置かれているから、私たちの足は置けないのよ。左の靴のところは石がないんで足を置いていいから、片足で着地するのよ」
「ケンケンするわけやあー」
雄二はわかりやすいようにと教えた。
「両足はパなんや、両足でパと着地するからね」
と幸江は教えた。
「だからケンケンとパでケンケンパなんや」
池山は明るく話した。
「ほおー、それでケンケンパなのですね」
ジョンさんはすごく納得していた。
石を置いて、幸江はコックさんの右足にケンケンでいき、両足ではパで着地してリズムよく折り返してきて、右足で片足立ちして石を拾い元のところにもどってきた。
幸江は成功したので、石を次の右の靴に石を投げ入れる。次は恭子の番だ。
この遊びは女の子が好きな遊びだった。ジョンさんは足が長いので、ケンケンパは上手い。
「ジョンさん、ジョンさん、お電話です」
幸江の母の声がした。それは新館のスピーカーから聞こえてきた。アパートには電話が管理人室の前に一台あって、電話がかかってきたら放送された。
ジョンさんは遊びをやめて、管理人室へ向かった。
何度かしているとあきてきた。
「次なにする」
「たんす長持(ながもち)したい」
「うん、やろう、やろう」
みんなで、本館の共同炊事場の前に行く。
「♪たんす長持 どなたがほしい」
「♪お兄ちゃんがほしい」
「♪どうしていくの」
「♪お嫁さんになっておいで」
「ぷっ、池山がお嫁さんやって」
みんなは大笑いである。池山は頬に手をあて、内股で歩いてくる。さらに、爆笑。
「何をしているのですか」
それは、ジョンさんだった。
「たんす長持や」
「そうですか。日本に古くからある遊びですね」
「そのとおりです。ジョンさんも入れていいわよねえ」
「いいよ」
池山は青空を見ていた。
「じゃ、ルールを教えないとね」
幸江が詳しく教えた。
「♪たんす長持 どなたが欲しい」
「♪ジョンさんがほしい」
「♪どうしていくの」
「♪大鵬になって」
「大鵬って横綱のですか」
「そうです」
「わかったでごわす」
ジョンさんは、しこを踏みはじめた。
「ジョンさん、うまいなあー」
「ほんまや」
みんな、うれしそうに笑った。
しばらくたんす長持をした。
雄二は最初のころジョンさんはこの遊びに入りたがったけど、池山はいやがって駄菓子屋に行ったのを思い出した。
ジョンさんはとても楽しそうだった。
「次なにする」
「タイベンしようや」
「おお、しよう、しよう」
「うん、私らの楽しいのやったから、今度はお兄ちゃんらので仕方ないわ」
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