オセンタルカの太陽帝国

私的設定では遠州地方はだらハッパ文化圏
信州がドラゴンパスで
柏崎辺りが聖ファラオの国と思ってます

『比叡山炎上』。

2006年06月01日 13時21分23秒 |   ゲーム本

神聖ローマ時代のドイツを舞台にした『ダークエイジ(暗黒時代)』、太平洋戦争直前の日本を舞台にした『クトゥルフと帝国』に続く、ゲーム『クトゥルフの呼び声』の設定資料集です。著者は朱鷺田祐介。このクトゥルフの呼び声ってゲームは、そもそもは現代を舞台に遊ぶ恐怖ゲームだったと思うんですが、歴史的題材を積極的にもてあそぶことに路線変更したのかしらん? ま、もともとこのゲームで言う「現代」というのは「1920年代の禁酒法時代のアメリカ」だったんですけどね(原作者のH.P.L.という人がその時代の生まれだから)

さてさてさて。
「戦国時代の日本」、歴史好きならば誰もが一度は遊んでみたい時代です。しかもテーマが「魔王信長」だという。ゾクゾクします。どんな物語だって思いつけます。しかし、『ダークエイジ』(西暦998年11月1日)の時もそうだったんですけど、このシリーズは“戦国時代”という長い時代のすべての時期を対象とすることにはせず、「元亀2年前後の比叡山」という極めて限定された局点をピンポイントに題材としています。テーマを広げすぎて印象が雑多になる事を避けているんですね。おかげで説明が適度に深い(?)一方で、その他の領域にそこそこの説明過少によるナゾも生まれ、読んでいる方としても妄想が広がって、いい感じ。足りない部分は自分で作れってことですね。

≪一読した感想≫
おもしろい。おもしろいっすが、これって『クトゥルフの呼び声』としてはどうかなー。と思った。理由は2つ。ひとつめは、『クトゥルフの呼び声』というゲームは、「何の特殊な能力も持たない一般人が、突然の恐怖に直面して狂って死んでいくさまを描いていくゲーム」だと思うのですが、戦国時代の日本は地獄のような世界で、確かに恐怖の題材には事欠かないだろうけど、プレイヤーとしてはキャラクターを、武士、武芸者、修験者、忍者、旅芸人など強くて逞しいのに無意識のうちにしてしまうと思う。イメージしやすいですし。しかし、それで本当に「無力な一般人」となりきれるでしょうか? 厳しい時代に生きているって事は、その時代を生き延びていく精神力を持っているってことで、それがこのゲームには不必要な(笑)サバイバル魂を生み出してしまう気がするなー。さらに「修羅」というこのサプリ独自の特別技能も、その感を強くしています。 (※ゲームに用意されているキャラクター用職業は、武将/地侍/兵法者/鉄砲衆/足軽/農民/僧侶/僧兵/聖・法師・比丘尼/神官・巫女/陰陽師/山伏・修験者/忍者・細作・乱破・素破/商人(大原女・桂女)/狩人、マタギ/道々の輩/白拍子・歩き巫女/神人/職人/たたら師・山師/馬喰/伴天連/切支丹/公家/茶人/船頭があります) 2点目は、この資料集だけの特別ルールとして、「術」というものが存在している事。術ったって特技・技能のちょっと高度なもの程度な扱いなのですが、例えば武士の持っている「術」のひとつの剣術だけでも《居合い》、《二刀流》、《一の太刀》、《牙突》、《もがり笛》、《奥義》、《連続攻撃》、《神速の払い》、《滝落とし》、《妙剣切り落とし》、《峰打ち》、《介者の剣》、《摩利支天の太刀》など異様にたくさんあって、どれもがそこそこ強力です。「巫女さんの使える術」は、《神楽(悪魔祓い)》、《神の剣》、《神鳴り(雷)》、《迦具土》、《界渡り》、うりゃーー。「忍術」なんかでは、《火炎》、《伝心》、《隠形》、《幻術》、《変わり身の術》、《蜘蛛の糸》、《火遁の術》、《猿飛び》、《影縫い》など、、。そんなのできるのは一般人とは言わーーんっ。ゲームだから確かにそういうの使いたくなるけどさー。もはや『クトゥルフの呼び声』とは別のゲームです。これまでの『クトゥルフの呼び声』でも「魔術・呪文集」とかはありましたけどね、クトゥルフの魔術って特殊な用途に応じて使う大がかりでめんどくさくて時間の掛かる例外的なものって感じで、使う一回ごとに正気度が減りますしね、一回使っても次のシナリオでは役に立たないのも多いし、使うとしても最後の最後の大秘密兵器なイベントって感じ。ところがこのゲームの「術」は、キャラクター作成時に取得する。取得するのは「技能ポイントを50点消費する」と決められていて、取得に(整合性以外)制限も無いみたい。 (※技能ポイントとは、「教養×20の数値を自分の職業に関係のある技能に自由に割り振る」というものです。教養の平均値は12ですから、240点、一般技能を少し犠牲にすれば(←一般技能は冒険中に少しずつ上昇していくものだし)、術は2つ3つは取れるね) 農民や商人には術は無いみたいですが、「蠱毒の知識に詳しい行商人」とか「狐に取り憑かれたお百姓さん」とか「風水と式神使いに長けているマタギのおっさん」いう設定もできるんでしょうね。

≪信長とクトゥルフ≫
そして、一番の関心はクトゥルフ神話と戦国時代の日本をどのように絡めているのか。もしかしたら、織田信長の正体が破壊神アザトースだったりするのかなぁ。この分野の偉大な先駆としては、栗本薫の『魔界水滸伝の外伝・白銀の神話』という偉大な作品があるんですよなぁ。で、この『比叡山炎上』では巻末に20ページほどの冒険シナリオ(第1話『比叡山炎上』、第2話『松永弾正謀反始末』、第3話『安土黄金城卍返し』)がありまして、この本の設定はすべてその物語に用意された物となっているのでした。設定は特化されているし、変更も自由。つまり、「今回の信長の正体は○○だけど、次に例えば長曽我部元親の物語を遊ぶ時は信長の正体は△△だったということにしてもよい」ということです。そのあたりの自在さもクトゥルフ神話のウリです。私の興味を惹いた箇所は、●信長はルドウィク・プリンの『妖蛆の秘密』を読んで強くなった。明智光秀はそれを防ごうとしている ●『妖蛆の秘密』を日本に持ってきたのはゲオルク・ザミャーヒというドイツ人。聖フランシスコ・ザビエルはその捕縛のために日本に送られた。ヴァリニャーノが善人 ●忍者のいろんな流派が一覧になっているのですが、ほとんどがまっとうな説明である中で、唯一「風魔」だけが「箱根で北極星を象徴する北辰妙見菩薩を信仰し、ハスターの影響下にある」と書かれている(笑) ●世界に十数冊しかないはずの『ネクロノミコン』が何冊か、日本にあることになっている。ギリシャ語の原本のほか、写本として『黒蓮蟲聲教』、漢本として『朱誅龍教』(←訳者は鳩摩羅什)漢本『屍龍教典』、琉球本『ぶすぴろーまぬぱいかじ』、『ザビエル版屍教典儀』などがある ●聖徳太子の『未来記』は「ナアカル碑文」と「ヨハネ黙示録」を原型としている ●倭寇が南海に遠征して持ち帰った石碑文の翻訳が『和寇草子』。原本は『ルルイエ異本』である ●ルルイエの深き者は「観音衆」「河童」、アザトースは「大暗黒天」、アザトースの眷属は「黒仏」、“千匹の仔を孕む黒山羊”シュブ=ニグラスが「シシ神」で、「狐狸」は仔山羊の眷属、東北の「アラハバキ」とは“巨大な石の輪”ヨグ=ソトースで、ニャルラトテップは「黒い鬼武者」「闇将軍」「黒坊主」、美味しそうなカニのミ=ゴが「鬼や天狗」の正体で、ティンダロスの猟犬は「天魔」、「大物主」の正体は蛇神イグ、その本拠・三輪山はヘビの山ですってさ(諏訪の地じゃないのか)

≪ちょっとだけ気になったこと≫
このシリーズ、すでに6冊出てるんですが、基本ルールブックとキーパーコンパニオンを除いて、『アーカムのすべて』、『ダークエイジ』、『クトゥルフと帝国』、『比叡山炎上』は、ほとんど厚さが同じなのに、値段が大分違います。『アーカム』が3000円、『比叡山』と『帝国』は3800円なのに、『ダークエイジ』は4762円なのです。同じシリーズなのに、なんでだろ? 版権とかいろいろ難しい事があるんでしょうが、困りますね、高いと。なお、朱鷺田氏によると、次回作は『比叡山炎上』の売り上げ如何によって決まるのだそうです(笑)

[クトゥルフ神話TRPG] 比叡山炎上
著者; 朱鷺田祐介
エンターブレイン、2006年5月31日、¥3,800


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