遊煩悩林

住職のつぶやき

生きる悲しみ

2011年12月19日 | ブログ

原発事故について12月16日に首相が「原子炉は冷温停止状態に達し、事故そのものが収束に至ったと確認された」と語る前日、東本願寺の視聴覚ホールで「原子力問題に関する公開研修会」が開催されhttp://higashihonganji.or.jp、インターネットで中継されました。
今回の研修では、福島第一原発から50kmに位置する福島県二本松市の眞行寺の佐々木道範さんから「被災地に生きる」という現地の報告を聞かせていただきました。
原発から50km離れている二本松市は避難対象区域に指定されていませんが、放射線量の高い環境のため、眞行寺が運営する同朋幼稚園の園児らは真夏でもフードつきのウィンドブレーカーを着てマスクをして通園したといいます。
内部被曝を避けるために屋外活動は全くできず、閉め切った屋内でしか遊べない子どもたちのストレス。どうして外で遊んではいけないのかも分からない子どもたちを、目に見えず、匂いもしない放射能から守っていくことの困難さに耐えきれない保護者の苦悩。
県外に避難した福島ナンバーの車には「福島に帰れ!」と落書きされ、ガソリンスタンドで給油をしてもらえないといった嫌がらせもあったという。
震災後、多くの学者や専門家という人がやってきて、様々な場所で「大丈夫ですよ、安全ですよ」と言ってまわった。次々に地元を離れる人々の中で、様々なしがらみによって地元を離れられない人々は、何とかそのことを信じたいという思いでいたといいます。
しかし、子どもたちの尿からセシウムが検出された。乳児の母親の母乳からも出た。佐々木さん自身、父親としてどんなことがあっても子どもたちを守ってやると思っていた、その子どもたちの尿からも放射性物質がでた。
ある中学生は母親に「私は子ども産めるのかな」と聞くそうです。
またある少女は「私たちもう結婚できないね」と話しているともいいます。
離婚と自殺が増えているといいます。
佐々木さんは、子どもたちの「何でこんなに悲しまなくちゃいけないの?」「何でこんなに苦しい思いをしなくちゃいけないの?」「僕たちが悪いことをしたの?」 「誰がわるいの?」という問いかけに「当初は国や東電に怒りを向けるばかりでしたが、今は『このオレ』自分自身のせいだったと、子どもたちによって気づかされた」と語られました。
子どもたちが生まれる前から、放射能の危険性や原発の問題は言われていた。指摘されながら関心を持つこともなく、耳を傾けることもなく、知ろうともしなかったこの自分が、子どもたちが外で遊ぶこともできなくさせた、子どもたちを被曝させた超本人だと。
そう教えられたときにふっ切れたところもある、と。
園庭や境内の除染が行われたものの、子どもたちの積算被曝量を押さえるためにはデッキブラシでこするような除染ではなく、グラインダーで屋根を削ったり、外壁を剥がしたりという作業が必要だそうですが、今は「子どもたちと楽しく除染作業をやってます」と。
このことばを私をどう受けとっていくのかと問われました。

佐々木さんは現在、二本松市で「市民の放射能測定室」を運営する「NPO法人TEAM二本松http://team-nihonmatsu」の理事長もつとめています。
SPEEDIの情報は公開されず、食品放射能基準値が引き上げられ、「大丈夫です」「安全です」と言われて・・・「それでは大切な人の命が守れない」、だから「自分で考えて!自分で勉強して!自分で測って!自分で守る!」その為に飲食物の放射能測定装置を購入して「市民放射能測定室」を設置した。
秋田県の主婦から粉ミルクの検査の依頼が来た。それが「明治ステップ」だった。http://business.nikkeibp.co.jp/
それがきっかけで最終的には36万缶が交換されることになり、取材が殺到した。その報道のありさまは「明治」をただ悪者にしているだけの報道で中身がない、といいます。

質疑の時間。参加者から「いま、必要なものはありますか?」との問いに「ホールボディカウンターが欲しいと思っています」と言っておられました。佐々木さんの報告の後で「内部被曝の危険性」について講演された村田三郎阪南中央病院副院長の指摘によれば、この装置による医療機関の検査は数千人待ちで、しかも一般の医療行為の妨げになるとしてほとんど行われてないといってもいい現状だといいます。そしてそこにはデータを残したくない国の意図があるとも。放射性物質の量が減少する時間稼ぎだともいわれています。
また国が、どの時期に、どういった意志で、どんな情報の操作や隠蔽を行ったかについても言及されました。それを受けて佐々木さんは、事故の当初から被爆限度の操作やデータの隠蔽をやる間に「どうしてひと言『妊婦や子ども、授乳期の女性だけでも避難しろ』と言ってくれなかったのか」と悲しみを表現されました。

それでも子どもたちが被爆したのは自分のせいだと、悲しみに立たれた人がいます。
「こんなことになる」と教えられながら無視し続けたのは彼だけではないにもかかわらず、その悲しみさえも無視しようとしている自分を教えられます。
佐々木さんは「福島さえ、福島の人だけ騒がずにおってくれれば・・・」という空気を感じるともいいます。
少なくとも、この研修会の翌日の「原発事故は収束」宣言は自作自演にしか思えません。?悲しみを覆い隠していくことで、ますます悲しさが膨らんでいきます。?同じ悲しみに立つことができない私は、悲しみに立って生きておられる方々の声を騒音のなかでいつまでも聞き漏らさないようにしなくてはならないことを思います。

次回の「原子力問題に関する公開研修会」は、2012年2月10日(金)14:00から東本願寺視聴覚ホールで行われる予定ということです。

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