テレビ番組で放映されたヴァンクリのジュエリースクールの紹介で、職人さんが石留めをするシーンが印象的というコメントをいただきました。
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何がすごいかというと、石留めをする対象物を固定せず、手に持って作業しているということなのです。
日本では、一般的に”彫刻台”という道具を使って、対象物を固定します。
(HARPさんのHPより借用)
ある宝飾専門学校の短期講座で、洋彫りとパヴェセッティングのさわりを学ぶコースがあり、参加してみました。座学と実技のたったの2日間でしたので、ほんとに、”こうやるのかぁ。なるほどー”といった程度の浅い理解を得るのみで、当然、技術の習得までには至りませんでしたが、本場のイタリアから講師をお迎えし、大変有意義なお話が聞けました。
参加者は私以外、全員がプロの職人さんで、私のような興味本位ではなく、本気で洋彫りを覚えたいという人たちが集まっていました。
洋彫りでは、”グレーバー”という、木の丸いホルダーに刃を挿して使用します。
このコースでは、新品の刃株を適する長さにして研ぐ方法から教えてくれました。
右側の洗濯はさみのでかいバージョンのようなものは、日本でもおなじみですが、対象物が非常に小さい場合にはさんで固定する道具です。
基本的に、彫りや石留めの地金は、木片や木の棒にヤニやコンパウンドで固定して、それを左手に持って、右手で作業します。
この片手だけで固定するというスタイルが非常にキツイ。なにせ、左手がブレてしまい、まったく正確に作業できないのです。上の写真のようにガイド(印)をつけたところをドリルで穴を開ける作業だけでも、ドリル刃がまっすぐ入らず斜めになったり、思うようにコントロールができません。
先生いわく、本物のイタリアの修行ではひたすらひたすら、3ヶ月間、銅版に線を引く練習ばかりさせらたるそうです。まっすぐな線が引けるようになるのだけでも相当練習が必要なのだそうです。
この講座は体験なので、いきなりシルバーを使わせてくれましたが、この惨憺たる成果をみてやってください。(恥) 約2cmx1cmの小さな板です。
上の板の右側が、線を引く練習。左側は、パヴェの爪となる部分を地金から起す練習。
下が、爪をナナコで丸めたり、メレを実際に留める体験の痕。キッタナイっすねぇ~。(^^;
爪を起してナナコで留めるところまではこれまで習った方法と同じなのですが、洋彫りでは、留めた後に、石の周り(石と石のすきま)の地金をすべてこそげ取るというか、彫り起しながら余分な地金を除去するという作業があります。その作業によって石と石の間の彫り跡がキラキラとして、あたかも隙間なく石で埋まっているようにパヴェ全体にさらに輝きを増す効果を与えるのだそうです。
この地金をこそげる、という作業が最も難しいらしく、(まちがって石を飛ばしてしまったりすれば、もう爪を起すべき地金がないのでやり直しが利かない)全くのド素人がやった結果として、上の写真のごとくめちゃめちゃに汚くなった次第ですね。(^^;;
まあ、本当の修行では石を留めさせてもらうのは、グレーバーの使い方をカンペキにマスターしてからとのことでしたので、先生は、”私なんて師匠に怒られながら、毎日毎日、繰り返し彫りの練習を続けさせられ、3年目になってようやく商品を扱わせてもらえました。それくらい修行が必要なのです。今日うまくできなかったからといって落ち込まないでください”と生徒を慰めていました。(ちなみにちゃんとできた人は一人もいませんでした)
とにかく、左手をきちんと固定することが正確な作業のコツのようです。(その左手は、作業台にぴったりつけて、体を手にもたれさせるようにして体重をかけることでしっかりと固定できるようです)
私はこの作業中に、右手が滑ってグレーバーを思いっきり左手の甲に刺してしまい、流血事件となりました。 同じように怪我をしている生徒さんがほかにもいて、先生もこころえたもので、絆創膏とマキロンを最初から用意していました。