中野雄氏監修の「クラシック名盤 この1枚」(光文社)という本のなかで、エネスコのバッハ無伴奏についての記事があり、以前から是非一度聴いてみたいと思っていました。この演奏、コンチネンタルというアメリカのマイナーレーベルからLPで発売された箱入りの初期盤は、何でも中古市場で数百万円の値がついているそうです。ただ、既に何度か「板おこし」の方法でCD化されたものの復刻の状態はうまくいっていないようで、前述の本では唯一「La Voce - Ton Rede CCD104/5」という盤がオリジナルの95点のできばえと評価されていました。
こんな話を聞いてしまうと、これは探すしかありません。私なりにかなりがんばって探したのですが「La Voce - Ton Rede CCD104/5」には出会いませんでした。たとえばフィリップス盤は今も現役ですので比較的容易に入手することができますが、店頭で何度か迷ったあげくあきらめました。(「CDで迷ったらまず買ってみる」私にしては本当に珍しいことです!)
そんなわけで、「機会があれば出会うだろう」とひとまず自分に言い聞かせていたところ、先週CDショップで何気なくバッハの輸入盤のコーナーを見ていたら、エネスコの演奏がありました。例によって板おこしの失敗作のひとつなんだろうなと、あまり期待せずCDを手にとってびっくり。まぎれもない、赤いジャケットの「La Voce - Ton Rede」盤じゃないですか。もちろん、即ゲットです。
以下、その試聴記を。
<曲目>
J.S.バッハ : 無伴奏バイオリンのためのソナタとパルティータ(全曲)
<演奏>
ジョルジュ・エネスコ
(録音:1948年、49年 ニューヨーク CONTINENTAL原盤)
正直に告白します。
最初に全曲聴いたときには、「何でこの演奏が、またこの録音が、こんなに世評高いんだろう。」と感じました。
私なりに一生懸命聴いたつもりでしたが、そんな印象だったんです。しかし、過去の経験から得た「気に入らなかった演奏でも黙って3回聴いてみる」をとにかく実践してみました。
幸い木曜日から大阪へ出張だったので、ipodに入れて車中でもじっくり聴くことができました。
その結果、ようやく、ようやくですが、エネスコのバッハの素晴らしさが見えてきました。
エネスコのバッハは、基本的にインテンポでオーバーな表現は皆無です。
技術的にはさすがに年齢的な衰えが見え始めており、音程もあやしい部分が散見されます。
最初に聴いたときは、この部分がやはり気になったんでしょうね。
しかし、何度か聴いているうちに、パーツパーツにとらわれず全体の見通しが素晴らしいことが分かりはじめ、どんなフレーズもおろそかにしない真摯さが聴き手にひしひしと伝わってきました。
もっとも感動したのは、やはりパルティータ第2番の終曲シャコンヌです。
この曲は変奏曲として古今最高の作品ですが、エネスコの演奏ではオスティナートバスの扱い・アクセントの使い方が素晴らしく、ポリフォニックな部分が見事に再現されています。
第一の難所である前半の長大なスケールでは、下降フレーズの部分で一音一音楔を打ち込むような表現が印象に残りました。つづくレガートな表現との対比も見事。
また、中間部から再び転調する部分にかけて聴かせてくれる静謐感と美しさには、ただただ感動です。
シャコンヌ全体から醸しだされるこの「気品」は、やはり別格のものですね。
もう1曲あげると、ソナタ第3番のフーガです。
10分以上かかる大変な難曲ですから、どうしても技術的な衰えや音程の不安定さが目立ってしまいます。しかし、音楽の最も高いところを常に見据えながら「私はこう弾くんだ。私のバッハはこうなんだ」ということを、どんなときでも感じさせてくれます。
聴いているうちに、エネスコの音楽に奉仕するひたむきな姿に何度も涙がでそうになりました。
この真摯さ、気品こそがエネスコの何よりの魅力なんですね。
ただ不思議なことに、真摯なんですがストイックさをあまり感じさせません。
この点が、晩年のシゲティ等と異なるような気がします。
人間的な優しさというか、ある種の人懐っこさもエネスコ特有の魅力なのかもしれません。
こんな話を聞いてしまうと、これは探すしかありません。私なりにかなりがんばって探したのですが「La Voce - Ton Rede CCD104/5」には出会いませんでした。たとえばフィリップス盤は今も現役ですので比較的容易に入手することができますが、店頭で何度か迷ったあげくあきらめました。(「CDで迷ったらまず買ってみる」私にしては本当に珍しいことです!)
そんなわけで、「機会があれば出会うだろう」とひとまず自分に言い聞かせていたところ、先週CDショップで何気なくバッハの輸入盤のコーナーを見ていたら、エネスコの演奏がありました。例によって板おこしの失敗作のひとつなんだろうなと、あまり期待せずCDを手にとってびっくり。まぎれもない、赤いジャケットの「La Voce - Ton Rede」盤じゃないですか。もちろん、即ゲットです。
以下、その試聴記を。
<曲目>
J.S.バッハ : 無伴奏バイオリンのためのソナタとパルティータ(全曲)
<演奏>
ジョルジュ・エネスコ
(録音:1948年、49年 ニューヨーク CONTINENTAL原盤)
正直に告白します。
最初に全曲聴いたときには、「何でこの演奏が、またこの録音が、こんなに世評高いんだろう。」と感じました。
私なりに一生懸命聴いたつもりでしたが、そんな印象だったんです。しかし、過去の経験から得た「気に入らなかった演奏でも黙って3回聴いてみる」をとにかく実践してみました。
幸い木曜日から大阪へ出張だったので、ipodに入れて車中でもじっくり聴くことができました。
その結果、ようやく、ようやくですが、エネスコのバッハの素晴らしさが見えてきました。
エネスコのバッハは、基本的にインテンポでオーバーな表現は皆無です。
技術的にはさすがに年齢的な衰えが見え始めており、音程もあやしい部分が散見されます。
最初に聴いたときは、この部分がやはり気になったんでしょうね。
しかし、何度か聴いているうちに、パーツパーツにとらわれず全体の見通しが素晴らしいことが分かりはじめ、どんなフレーズもおろそかにしない真摯さが聴き手にひしひしと伝わってきました。
もっとも感動したのは、やはりパルティータ第2番の終曲シャコンヌです。
この曲は変奏曲として古今最高の作品ですが、エネスコの演奏ではオスティナートバスの扱い・アクセントの使い方が素晴らしく、ポリフォニックな部分が見事に再現されています。
第一の難所である前半の長大なスケールでは、下降フレーズの部分で一音一音楔を打ち込むような表現が印象に残りました。つづくレガートな表現との対比も見事。
また、中間部から再び転調する部分にかけて聴かせてくれる静謐感と美しさには、ただただ感動です。
シャコンヌ全体から醸しだされるこの「気品」は、やはり別格のものですね。
もう1曲あげると、ソナタ第3番のフーガです。
10分以上かかる大変な難曲ですから、どうしても技術的な衰えや音程の不安定さが目立ってしまいます。しかし、音楽の最も高いところを常に見据えながら「私はこう弾くんだ。私のバッハはこうなんだ」ということを、どんなときでも感じさせてくれます。
聴いているうちに、エネスコの音楽に奉仕するひたむきな姿に何度も涙がでそうになりました。
この真摯さ、気品こそがエネスコの何よりの魅力なんですね。
ただ不思議なことに、真摯なんですがストイックさをあまり感じさせません。
この点が、晩年のシゲティ等と異なるような気がします。
人間的な優しさというか、ある種の人懐っこさもエネスコ特有の魅力なのかもしれません。
こんばんは。
コメントありがとうございました。
このエネスコのバッハは、yurikamomeさんにとっても想い出の曲だったのですねぇ。
いわゆる「語るバッハ」ではなく「歌うバッハ」でありながら、べたつくところは全くありません。本文でも書きましたが、正直3回目にようやく良さが分かってきましたが、この漂ってくる気品には参ってしまいました。
チェロのフルニエとある意味で似ているような気がしています。
是非、またお聴きになっていただけたらと思います。
せっかく購入先まで教えていただき、なしのつぶては非礼かと思い、お粗末ながら感想をちょっとつぶやきました。今回はTBもちゃんとできたようです。
romaniさまの感想を読んでしまうと先入観にとらわれそうで、今回じっくり読ませていただきました。同じような印象をもたれていることに、やはりバッハのこの曲は演奏家の人間性が表れると思いました。だからヴァイオリニストにとっては、大変難しい曲なのですね。
近頃は、メニューヒン、オイストラフのような往年の大家の演奏を聴いております。驚くほど安価で売られていて、音に個性があり、味わいがあります。
ごていねいにありがとうございます。
気に入ってくださったようで良かったです。
私も週に1回は聴いています。高貴としか言いようのない素晴らしい演奏ですが、なぜかほっとさせてくれます。ありがとうございました。
すごくよくわかります。エネスコには人間としての大きさ、を感じます。カザルスのようなエキセントリックさとも無縁です。
彼は混沌をも咀嚼して昇華する術を持ち合わせていたように思います。
こんばんは。
同じように感じていただける方がいらして、良かった!
エネスコは、気品があってかつ冷たくないという本来両立しない資質を併せ持った素晴らしい芸術家ですね。
>孤高の提琴家・エネスコ
まさにぴったりの表現だと思います。彼の遺してくれた録音がいかにも少ないのが本当に残念です。
この本をお持ちですか・・・お恥ずかしい話で恐縮ですが、東京のあるLPショップの店長にノセられて拙文を少々寄稿しております。ご笑覧ください。
今改めて拝見しました。
いやー、驚きました。そうだったんですか。
実はヴェルナーのご紹介の記事が、以前からとても好きだったんです。
もう一度じっくり読ませていただきます。
貴重なコメント、ありがとうございました。
エネスコの無伴奏は、凛とした格調の高さと志の高さを感じさせてくれる稀有の名演だと思います。
ひとつ気になっているのが録音の貧しさなのですが、
最近グリーン・ドアからもリリースされたようで、そちらのほうの録音具合はどんな感じなんでしょうね。
またレイチェル・ポッジャーも、私の大のお薦めヴァイオリニストの1人で、録音共々最高の無伴奏だと思います。