ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

シュタルケルのバッハ:無伴奏チェロ組曲第1番、第4番

2007-08-19 | CDの試聴記
連日の猛暑の中、甲子園では高校球児たちが本当に熱い戦いを繰り広げています。
今年は、中田翔選手擁する大阪桐蔭は大阪府大会決勝で早々と涙をのみ、155キロ右腕の仙台育英:佐藤投手も2回戦で姿を消しました。準々決勝まで勝ち上がったチームをみていると、スター選手がいるチームというよりも、チームワークに秀でたところが多いようです。
昨年の早稲田実業vs駒大苫小牧のような、超ど級のエースを中心としてがっぷり四つの横綱相撲も面白いけど、今年のように、文字通り「ひたすら白球を追って、全員一丸で戦っている」ゲームも、感動を与えてくれます。
とにかく悔いが残らないように、平常心で頑張ってください。

さて、今日は仕事も一段落したので、ゆったりした気分でバッハを聴いています。
曲は無伴奏チェロ組曲。
チェロの神様カザルスが楽譜店でたまたま譜面を見つけて、ライフワークとしてとりくんだ作品としてあまりにも有名です。
今日、CD棚から取り出して聴いたのは、ハンガリー生まれの巨匠シュタルケルの録音。
シュタルケルは、何と4回に亘って無伴奏の全曲(年代順にEMI、マーキュリー、SEFEL、RCA)を録音しており、彼にとってもこの音楽がどれだけ大切なものであるかが分かります。
ところで、第一回目の全集であるEMI盤(1958年頃の録音)より前にも、シュタルケルは1951年に無伴奏を録音していました。
残念ながらこのときの録音は4曲にとどまり全集にはならなかったのですが、今日ご紹介するディスクは、先月アインザッツレーベルからリリースされた、まさにこの最初の録音です。

シュタルケルの最初期の録音というと、なんと言ってもコダーイの無伴奏。
ピリオドレーベルに録音されたその演奏は、演奏の迫真性もさることながら録音の生々しさで、「松ヤニが飛び散るのが分かる音」と評されました。
この録音を担当したのが、偉大な作曲家ベラ・バルトークの次男のピーター・バルトーク。
このバッハの無伴奏も、コダーイの無伴奏が録音された翌年に同じコンビで収録されました。
(ちなみに、シュタルケルとピーター・バルトークは、同じ1924年生まれです!)

一聴して感じるのは、音の生々しさ。
その後に録音された全集以上に、シュタルケルの熱い思いがよりストレートに伝わってきます。
第1番では、雄渾なプレリュード、音が実に溌剌と動くクーラント、躍動感に溢れたジーグ等、シュタルケルの特長がここでも存分に発揮されていますが、私がとくに感動したのが第2曲のアルマンド。
ときに「達者だけど、面白みに欠ける」というような評も聞きますが、このアルマンドを聴いたら誰もそんなことは言わなくなるでしょう。
「この曲を何とか美しく演奏しよう」ではなくて、「もとから美しい音楽なのだから、そのまま表現しよう」とシュタルケルは考えていたのではないでしょうか。
こんなに深々とした、そしてピュアな美しさを持ったアルマンドは、聴いたことがありません。

それから、この演奏で強く感じることがあります。
それは、知と情のバランスでいうと、シュタルケルにしては珍しく「情」の部分がやや強めに出ているのではないかと。
もちろん、ロマンティックなバッハという意味ではありません。
むしろテンポは全体に速くなっているのですが、節度を持った様式感の中で、自分の思いをかなりストレートに表現しているように思うのです。
たとえば、プレリュードの後半、カンパネラを伴って上昇して箇所の熱さを持った描写や、登りつめたあとの微妙なテンポの揺れに、私はそれを感じます。
さきほどのアルマンドの美しさやサラバンドの伸びやかさも、この思い切りのよさゆえかもしれません。

このようなことをつらつら考えておりますと、これは、録音当時シュタルケルがメトロポリタン歌劇場管弦楽団の首席チェロ奏者だったことと関係があるかもしれません。
その後、彼はシカゴ交響楽団の首席を経て、いよいよ1958年からはソリストとしての道を歩むわけですが、当時この名門歌劇場で日々演奏してきたオペラが、自然にこの「情」の表現につながったのではないでしょうか。
邪推かもしれませんが、そんなことを考えると、ますますこの最初のバッハ無伴奏というのは貴重に思えるのです。

<曲目>
J.S.バッハ作曲
■無伴奏チェロ組曲第1番ト長調 BWV.1007
■無伴奏チェロ組曲第4番ヘ長調 BWV.1010
<演奏>
■ヤーノシュ・シュタルケル(チェロ)
<録音>1951年


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4 コメント

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マーキュリーのを持っています (よし)
2007-08-20 12:44:45
私が最初にチェロ無伴奏を聴いたのはシュタルケルのマーキュリー盤でした。布張りの豪華な箱に入っていました。演奏は確かに豪壮なもので5番などインパクトが大きかったのを覚えています。後でフルニエなど聴くと力なく聴こえたものでした。いや、シュタルケルに比べるとですが(笑)。しかし最初の無伴奏に興味ありますね。
>よしさま (romani)
2007-08-22 06:07:44
おはようございます。

マーキュリー盤のシュタルケルは、本当に素晴らしいですね。「力強いバッハ」というのは、なかなかお目にかかれないですが、シュタルケルの演奏はその代表格だと思います。
あらためて偉大なチェリストだったと実感しました。

ありがとうございました。
シュタルケル ( emi)
2007-09-01 21:48:05
こんばんは。

シュタルケルはブラームスのピアノトリオのスークとカッチェンの録音を聴くかぎりでは ちょっと変わっているように思います。途中で抜くんですよね。音を、フレーズの終わりにかけて。
・・・というわけですが romaniさまのこのページを拝見して
いつかこの録音も聴いてみたくなりました。

ご友人の他界の記事、のページにコメントを書く言葉が見つからず・・・。

フォーレのレクイエムの4曲目、ピエ イエーズを・・・。
>emiさま (romani)
2007-09-02 17:41:39
こんにちは。

シュタルケルは、ときに感情を押さえすぎる演奏をするときがありますが、この最初のバッハは本当に素晴らしいです。

なりふり構わず突き進む若いエネルギーと、歌心、そして圧倒的な技巧の冴えを見せてくれます。
こんなに夢中になって弾いているのは、残念ながらこの時期だけだったかもしれません。

>途中で抜くんですよね。音を、フレーズの終わりにかけて・・・
そうなんですか。少し意外な気がします。でもスーク・カッチェンとのトリオというのは、なかなか面白そうですね。
一度聴いてみたいなあ。

>「ピエ イエーズ」を・・・
痛み入ります。
いま、友人の奥様はきっと「イン・パラディズム」だと思います。
ありがとうございました。

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