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弁護士・元ロースクール教授宮武嶺の社会派リベラルブログです。

刑事司法関連法案の通信傍受法=盗聴法拡大、司法取引はもちろん、中途半端な取調べ可視化にも反対する。

2015年06月10日 | 刑事司法のありかた
冤罪を生まない刑事司法へ (GENJINブックレット)
水谷 規男 (編集), 現代人文社編集部 (編集)
現代人文社

志布志事件、氷見事件、足利事件、郵便不正事件、布川事件…2000年代に相次いだ、再審無罪事件の数々は、「冤罪を生まない」刑事司法改革という大きな課題を突き付けた。社会の関心の高まりの一方で、改革のために作られた法制審議会の「新時代の刑事司法制度特別部会」では、取調べの可視化をはじめとする数々の改革項目が後退していると言われている。本書では、「特別部会」での議論を検証するとともに、「冤罪を生まない」刑事司法改革のために、何が必要かを提起する。
 
 
 
 
 
 第一次安倍政権もあれだけ短い間に、日本の宝ともいうべき教育基本法を改悪して愛国心教育を入れてしまうなどしたわけですが、大惨事、いや第三次安倍政権が今国会に出している法案のひどいこと、ひどいこと。
 
 「平和安全法制」=戦争法案11本、マイナンバー法「改正」案、労働基準法「改正」案=残業代ゼロ+裁量労働制の拡大、労働者派遣法「改正」、とカッコをつけないといけない法案ばかりです。これで漏れがないか心配なくらい。
 
 そして、本日、2015年6月10日に衆院法務委員会で参考人質疑が行われたのが、刑事司法「改革」関連法案です。
 
 そもそも、刑事司法をどうして見直さないといけないという機運が高まったかというと、検察庁による証拠隠滅、証拠ねつ造が明らかになった「郵便不正」事件がきっかけでした。
 
 
 
 
 
 この事件は、厚生労働省の元局長である村木厚子さんが障害保健福祉部の企画課長だった2004年、実体のない障害者団体「凛の会」が郵便割引を受けるためのうその証明書を部下に指示して作らせたとして、虚偽有印公文書作成などの罪に問われた事件でした。

 しかし、私もこの事件はなんかおかしい感じがしてですね、2010年1月27日に第一回公判が行なわれた段階で、たぶん冤罪だろうという記事を書いたほどです。

無罪の香りが濃厚 村木元厚生労働省局長 2010年2月1日

 その後もどんどんおかしな話が明るみに出まして、私も次々と後追い記事を書きました。

 まず、取り調べを担当した6人の検察官が、2009年2月から2010年3月にかけて取り調べの際のメモを破棄していたことが発覚しています。

 また、大阪地検特捜部検事を務めていた上田敏晴が、本事件の被告人である相手企業取締役に対し、脅迫的な取り調べをした疑いがあるとして、大阪地方裁判所は証拠採用請求されていた供述調書のうち、上田が作成した12通を却下しました。

 こうして無事、2010年9月10日に村木さんに無罪判決が出て、村木さんは復職し、国家賠償請求事件でも勝訴しました。

おいおい 検察庁がメモ廃棄 郵便不正事件

郵便不正事件 「村木元局長は冤罪」 前任係長「指示」否定 

上司 被告人本人 部下 業者全員否定 郵便不正事件

 
無罪となったあと記者会見に臨む、郵政不正事件の村木さん


 
 

 さらに、2010年9月21日に朝日新聞は朝刊の1面で、本事件の証拠物件であるフロッピーディスクの内容が改竄されていたことをスクープし、同日夜、大阪地検特捜部検事で本事件の主任検事・前田恒彦を証拠隠滅容疑で逮捕されました。

 また、この前田検事をかばっていたということで同年10月1日には大阪地検元特捜部長・大坪弘道及び大阪地検元特捜部副部長・佐賀元明が犯人隠匿容疑で逮捕されました。

 つまり、警察の違法捜査はよくある話ですが、検察庁も特捜検事が証拠を偽造・ねつ造したり、自分に不利な証拠を捨てて隠蔽したり、被疑者を脅迫して自白調書を取ったり、そんな違法捜査をした担当者をかばうようなところだということが白日の下にさらけだされたわけです。

 

 

 また、この事件と同じ時期に、2010年3月26日には、1990年5月に起きた殺人事件で誤認逮捕され、誤ったDNA鑑定と無理やりとられた自白調書で有罪とされ、17年も刑務所にいた菅家利和さんが再審で無罪になりました。
 
 この事件でも無実の菅家さんが自白させられており、それを裁判所が盲信して有罪にし、あとでDNA鑑定の誤りがわかってえん罪とわかったわけで、強引な自白採取が問題となりました。

鑑定の恐怖

取調べの可視化の何がそんなに怖いのか?

捜査機関が取り調べ全面可視化をいやがる理由。

「謝ってください」「非常に深刻に受け止めている」

再審無罪判決が出たことを報告する菅家さん。

 

 

  また、2011年5月には、1967年に茨城県で起きた「布川事件」で強盗殺人の罪に問われた桜井昌司さんと杉山卓男さんが逮捕されてから44年後!に再審で無罪が確定するということがありました。

 これら無罪が確定した布川事件、足利事件での強引な捜査や村木厚子さんの郵政不正事件での担当検事による証拠ねつ造などを受けた検察の改革策の一環として、最高検察庁は「無実の者を罰することがないよう真相解明に取り組む」といった検察の精神や基本姿勢を示した10か条の倫理規程を作りました。

 最高検は、2011年9月30日、この規程を示した文書に笠間検事総長の「検察の使命と役割について自覚を深め、規程の精神を体現するよう努力することを期待する」というメッセージを添えて、すべての職員にメールしました。

最高検察庁が検察職員の使命倫理規程10カ条「検察の理念」を初めて制定 かなり恥ずかしい

 
布川事件で再審無罪が決まり、握手する元被告人の桜井さん(右)と杉山さん。
 
 
 
 
 
 こうして、警察・検察が圧倒的に押し込まれる中、やっと取調べの可視化=取り調べの過程のやり取りを録画録音することを捜査機関側も認めざるを得なくなって、そのための法制審議会ができたわけです。

 さらに、この法制審議会が発足した後も、1997年(平成9年)に東京電力の女性社員が殺害された事件の再審裁判が2012年6月7日開始され、東京高等裁判所は「女性を殺害した犯人はDNA鑑定で新たに明らかになった別の男である可能性が高い」と指摘し、2012年11月17日ネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリさんに無罪を言い渡しました。

東電OL殺害事件 マイナリさん再審無罪確定 戦後8件目の死刑台・無期懲役からの生還

東電OL殺人事件 検察「ただちに再審事由にならず」 DNA再鑑定で別の男性の体液・体毛 当然再審!

東電OL殺人事件 検察が証拠隠滅 別人の唾液・皮膚片を証拠開示せず DNA鑑定へ 

東電OL殺害事件 再審前にさらに無罪ダメ押しの新証拠 なぜ証拠隠蔽と冤罪事件は起こったのか

釈放され、故郷ネパールでお母さんに迎えられたマイナリさん

 

 

 
 これらの事件で強引な取り調べによる虚偽の自白が取られていたことが明るみに出るたびに、私は取り調べを全面可視化しろ、全部録画しろと書いてきました。ところがですよ。
 
 今回、法制審議会の答申が出て、刑事手続きを見直す関連法案が出てきたら。
 
 まず、びっくりするのは、刑事訴訟法改正案の中に、なぜか取り調べの適正化と逆方向の捜査権の拡充である、日本では許されないはずの司法取引が入っているわけです。
 
 さらに、これは憲法違反だったはずの通信傍受法=盗聴法の大拡大も入っています。
 
 いやいやいや、検察・警察の不当捜査を適正化するための審議会だったのに、いつの間にか換骨奪胎どころか、火事場泥棒と言いますか、捜査権限ばかりが拡充されてるよ。
 
 その理屈というのは、可視化を採り入れると、取り調べがやりにくくなって真実が解明されにくくなるから、併せて盗聴や司法取引を入れろというんです。
 
 ところが、肝心の取り調べ可視化ときたら、可視化義務付けの対象は、裁判員裁判対象事件と検察独自捜査事件で逮捕・勾留された事件だけということで、重大事件や特捜部が捜査する事件は含まれるものの、その対象事件の件数は年間10万〜11万件程度ある逮捕・勾留事件の3〜4%でしかないというんです。
 
 そうすると、残りのほとんどの97%の事件、その中には冤罪が多いとされる痴漢事件や、鹿児島県議選を巡る買収があったとして13人が起訴され、亡くなった方お一人を除いて12人全員が無罪となって確定した「志布志事件」のような、警察が手がけた公職選挙法違反事件は可視化の対象にならないことになります。
 
 こうなると、もうこれは警察庁、法務省に軒を貸して母屋をとられたと言うべきで、この刑事司法「改革」関連法案を成立させる意味は全くないと言えるでしょう。
 
それでもボクは会議で闘う――ドキュメント刑事司法改革
周防正行 著
岩波書店
 
周防監督の孤軍奮闘は頭が下がるとしか言いようがない。
“場違いなところに来てしまった…”映画『それでもボクはやってない』で日本の刑事裁判の不条理を描いた監督が、思わぬ縁で法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」の委員に選ばれた。えん罪をなくすための改革を求めて闘った、葛藤の日々を自らつづる。異色のノンフィクション。
 
 
 
 
 
 ただし、この法制審議会の委員になってくださっていた、痴漢冤罪を描いた映画「それでも僕はやっていない」の周防正行監督は今日の参考人質疑で、取調の可視化は全面的であるべきで今回の法案はまことに不十分だけれども、その第一歩になるのだから法案には反対しないとおっしゃっています。
 
 また、実は日本弁護士連合会の意見は割れていて、いわゆる今の「執行部」はこの一連の法案に反対すると取調べの可視化が一歩も進まないとして、法案全部に賛成するべきだとして、日弁連は2015年3月18日、今回の法案が「速やかに成立することを強く希望する」との会長声明を出しましたが、逆に県単位の18弁護士会は共同で盗聴対象拡大に反対する声明を出しており、弁護士会はまさに分裂状態です。

 ですが、今、目の前にあるお団子には毒が入ってるんですよ、甘いところもあるというけれど。丸ごと食えと言われて食べる人がいますか?日弁連も落ちるところまで堕ちたものです。

 せめて、取調の可視化に関する刑訴法の改正にはより可視化の範囲を広げた修正をするべきだと意見を出し、司法取引を認める刑事訴訟法改悪と、通信傍受法=盗聴法の拡大には断固反対しないといけませんよね。

 さらに、私はこの法案の取り調べ可視化では、百害あって一利なしだと思うんです。

 だって、警察や検察は証拠をねつ造したり、隠滅したり、被疑者や参考人を脅迫する(ことがある)のを前提に、そんな違法捜査を抑止しようというのが取り調べの可視化のはずです。取り調べの過程が見えるようにして、悪いことができないようにするんですよね。

 ところが、弁護士ドットコムの取調室の奥の「黒い箱」はカメラ、取り調べ「可視化」法案審議で議員が視察という記事によると、録画機器はこんな感じで(右隅の黒いの)、検察事務官が動かすことになっているし、警察署では取り調べのたびに出したりしまったりするというのです。
 
取調室の奥の「黒い箱」はカメラ、取り調べ「可視化」法案審議で議員が視察
 
再現された検察の取調室
 
 
 
 
 ビデオの機器を捜査側がスイッチを押さないと動かさないというのでは、取調官が録画する前や、録画していない間に被疑者をだましたり脅したりして罪を認めることを納得させ、「自白」しているところだけ機械を出してきたり、動かしたりして録画記録を証拠として裁判所に提出できることになります。
 
 こんなの、自白調書だけでも鵜呑みにしていた裁判所ですから、自供しているところの録画までついてきたら、かえってこの自白は警察・検察の言う通り被疑者が任意で=自由意思で話しており、自白の信用性は高いってことになるに決まってます!
 
 全然、可視化の趣旨と違ってきてる!
 
 ちなみに小沢一郎氏の事件で、石川知裕元秘書が取り調べを内緒で録音していて、脅迫的な取り調べが明るみに出たことがありますよね。だから、可視化は本来は被疑者側に録音・録画する権利を認めるべきなんです。

取り調べ全面可視化は絶対必要!小沢裁判で調書一部不採用 佐賀国賠で検事の接見交通権侵害で弁護士勝訴 

 
 少なくとも取調室に入った途端に自動的に機械が動くようになっていて、しかも、部屋が全部映るようになっていて、取り調べの最初から最後までおかしな動きがないか全部手に取るようにわかるようになっていないと、可視化=見えるようになる、とは言えません。
 
 もう一つ言うとそれでもまだ不十分で、今みたいに警察の留置場が代用監獄と言って身柄拘束の場になっていると、被疑者が取調室の中に入る前に取調官に別室で脅されかねませんから、そういう意味でも代用監獄制度を撤廃しないといけないんですよ。
 
 さらに言うと、被疑者被告人の人権を守り真実を発見するためにも、こんな取り調べ「可視化」などという捜査機関側に悪用されそうな捜査手法を中途半端に導入するくらいなら、端的に、弁護人の取り調べ立会権と弁護人が立ち会わない場合の被疑者の取り調べ拒否権を認めるべきです。
 
舵のない船 布川事件の不正義[新装版]
伊佐千尋 著
現代人文社
 
布川事件が冤罪であることを早くから見抜いていた作家によるルポルタージュ。布川事件の現場をていねいに取材し、その冤罪の背景・原因をくまなく描いたもので、冤罪問題の本質を理解するために欠かせない一冊。
 
 
 

 
 今日の参考人質疑では、布川事件で44年も司法と闘った桜井昌司氏もお話になりました。
 
 その中で、桜井さんは取調べの可視化についても
 
「中途半端な抜け道を用意しており、えん罪を防ぐ手段とは到底思えない」
 
と指摘しました。そのうえで、
 
「えん罪の痛みを自身の痛みと感じて、えん罪のない社会にするために真剣に考えてほしい」
 
と述べ、すべての事件を録音・録画の対象にするよう求めました。やはり、えん罪の被害者自身のお言葉は一味違うと言うべきでしょう。
 
 今回は、盗聴のことや司法取引のことが書けませんでしたが、私はこれらが「毒」であることはまちがないと思っています。
 
 さらに、アンコの部分まで砂まじり(というかもはやアンコが入ってないので毒そのものに等しい)毒入り饅頭は、絶対に口をつけるべきではないというのが、今回の刑事司法「改革」関連法案についての私の感想です。
 
 
 

戦争法案11本にしてもそうですが、いろんな「改正」を関連法案っつって、一緒に出すからわかりにくい!

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衆院 取り調べの”可視化”で参考人質疑

6月10日 16時28分 NHK

衆院 取り調べの”可視化”で参考人質疑
 
衆議院法務委員会は、取り調べの録音・録画を一部の事件で義務化するなどとした刑事司法制度改革の関連法案を巡って参考人質疑を行い、録音・録画の早期導入がえん罪防止の第一歩になるという意見の一方で、すべての事件を対象にしなければえん罪は防げないという意見が出されました。
 
この中で、中央大学大学院法務研究科教授の椎橋隆幸氏は、刑事司法制度改革の関連法案で、取り調べの録音・録画を裁判員裁判の対象事件や検察の独自捜査事件で義務化していることについて、
「取り調べや供述調書への過度の依存からの脱却に向けて歴史的な意義を有する。必要性が高い、裁判員裁判の対象事件と検察の独自捜査事件で導入し、必要があれば見直すのが最も現実的だ」
と述べました。

また、映画監督の周防正行氏は、
「社会の注目を大きく集める事件だけでなく、痴漢事件などでも取り調べの違法性は強く指摘されている。非常に限られた事件を対象とする法案となったことは本当に残念だ」
と述べたものの、
「早期に録音・録画を導入することが真の改革の第一歩だと信じている」
と述べ、録音・録画の早期導入がえん罪防止の第一歩になるという考えを示しました。
 
一方、茨城県で起きた強盗殺人事件「布川事件」で強盗殺人の罪に問われ、その後、無罪が確定した、桜井昌司氏は、裁判員裁判の対象事件などでも、録音・録画を実施すれば容疑者から十分な供述を得られないと判断した場合などには、実施しなくてもよいとされていることについて、
「中途半端な抜け道を用意しており、えん罪を防ぐ手段とは到底思えない」
と指摘しました。そのうえで、
「えん罪の痛みを自身の痛みと感じて、えん罪のない社会にするために真剣に考えてほしい」
と述べ、すべての事件を録音・録画の対象にするよう求めました。
 
 
 

桜井氏「冤罪防げない」=取り調べ可視化法案

衆院法務委員会で、参考人として意見を述べる「布川事件」で再審無罪となった桜井昌司さん=10日午前、国会内

 容疑者取り調べの録音・録画(可視化)を柱とする刑事司法制度改革関連法案を審議中の衆院法務委員会は10日午前、参考人質疑を行った。茨城県利根町布川で大工の男性が殺害された「布川事件」で再審無罪となった桜井昌司氏は、部分的な可視化では冤罪(えんざい)を防げないとの認識を示した。

 同法案で可視化が義務付けられるのは、裁判員裁判対象事件などに限られる。このため、桜井氏は「一部(事件の)可視化で冤罪を防げるのか。私はそうは思わない」と述べ、全事件を可視化の対象にすべきだと訴えた。

 また、同法案に盛り込まれた検察官が保管する証拠の一覧表を弁護側に交付する制度に関しては、「冤罪を防ぐためには検察が見られる証拠は当然、弁護人も見られるべきだ。何が書いてあるか分からないリスト(の提出)だけでは不十分だ」と語った。

衆院法務委員会で、参考人として意見を述べる映画監督の周防正行さん=10日午前、国会内

 映画監督の周防正行氏も「基本的に全事件で取り調べの過程を録音・録画すべきだ」と主張。ただ、法案の賛否については「反対はしない。ここで法律をつくらないと検察や警察が何をするか分からない」と指摘し、部分的な可視化でも早期に実施すべきだとの立場を示した。(時事通信 2015/06/10-11:58)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

村木氏「可視化拡大を」 刑事司法改革法案

2015年06月05日 00時19分 西日本新聞

取り調べの全面的な可視化を求める厚生労働省の村木厚子事務次官=4日、東京・衆院議員会館

取り調べの全面的な可視化を求める厚生労働省の村木厚子事務次官=4日、東京・衆院議員会館

 

 文書偽造事件で逮捕され無罪となった厚生労働省の村木厚子事務次官が4日、刑事司法改革関連法案に関する野党議員の勉強会に招かれ、一部事件に限って取り調べの録音・録画(可視化)を義務付ける改正案について「残された課題は大きい。将来的に対象犯罪を拡大してほしい」と語った。改正案に盛り込まれた司法取引については「共犯者が(罪を逃れるため)うその供述をし、冤罪(えんざい)を生むリスクがあると思う」と懸念を示した。

 村木氏は、取り調べで検事から「執行猶予が付けば大したことはないじゃないか」「長い裁判を考えてあきらめませんか」などと容疑を認めるよう迫られた経験を明かした。その上で「無理な取り調べをして、事実と異なる調書が作られる構造的な仕組みを早く変えてほしい」と訴えた。

 村木氏は事件後、法制審議会(法務大臣の諮問機関)特別部会の委員に選ばれ、刑事司法制度の改革案を議論した。可視化の対象を全事件の約3%にすぎない裁判員裁判対象事件や検察の独自捜査事件に限定した答申に賛成した理由については「捜査機関の運用では都合のいいところだけ録音・録画される可能性がある。(一部の事件であっても)全過程で初めて義務化された」と説明した。

 司法取引は、容疑者が第三者の犯罪について供述する見返りに、検察官が起訴猶予処分にしたり求刑を軽くしたりする制度。村木氏は「証言の信用性が大事になってくるので、活用するのなら義務化の対象外でも、全過程を録音・録画してほしい」と述べた。

=2015/06/05付 西日本新聞朝刊=

 

 

 

2015年06月03日 17時50分 弁護士ドットコム
取調室の奥の「黒い箱」はカメラ、取り調べ「可視化」法案審議で議員が視察
 
再現された検察の取調室
 
 

警察・検察による取り調べの録音録画(可視化)の義務づけなど、刑事司法改革の関連法案が国会で審議されていることを受け、衆院法務委員会の国会議員約20人が6月3日、原宿警察署と東京地検の「取調室」を視察した。このうち東京地検では、メディア取材が許可された。

可視化の義務づけは、警察・検察の取り調べに対して、自分がやってもいない罪を被疑者が「自白」する事件が相次ぎ、えん罪の温床になっていることなどから導入に向けた議論が進められてきた。法案が成立すれば、裁判員裁判対象事件と検察の独自捜査事件で逮捕・勾留された容疑者の取り調べの全過程が対象になる。

警察や検察はすでに試行的に可視化を実施しており、議員たちは東京地検で、説明用に再現された取調室を見学し、録音・録画機材について説明を受けた。黒い箱の中に入った録音・録画用のカメラが部屋の奥に置かれていたが、被疑者や検察官に録画を意識させないため、一見しただけでは分からないようになっていた。

東京地検の担当者によると、再現された取調室は、実際の取調室と広さや備品もほぼ同じ。実際の取調室は、検事と事務官が2人1組で、出勤してから帰宅まで勤務する「執務室」でもある。奥の机に検事が座っており、それと相対する形で手前側に被疑者、サイドに事務官が座る。検察官と被疑者がしたやり取りを、事務官がパソコンに入力して、供述調書をつくる。被疑者は普段、手錠と腰縄をされているが、取り調べの間は、手錠を外されるそうだ。

視察した法務委員会のメンバーには法曹出身者も多く、元検察官の山尾志桜里議員(民主)は検察官用の机に座るよう、他の議員たちに促されていた。

●議員「警察と検察で大きな開きがある」

柴山昌彦議員(自民)は視察後に次のような感想を記者たちに述べた。

「百聞は一見にしかず。さきほど視察した原宿警察署の取り調べ室と、東京地検の取調室では、様子が大きく違うと思いました。録音録画のための設備は、東京地検では常設ですが、原宿警察署では使う都度、機材を出してセットするということでした。対応が遅れていると感じました。一次的な捜査機関である警察署で、いかに録音・録画が進んでいくか、もう少し時間がかかるのかなと感じました」

一方、山尾議員は次のように語っていた。

「可視化について、警察と検察で、現状でも大きな開きがあると、率直に実感しました。検察の方が試行が先行していることもありますし、立証して有罪を勝ち取るべき立場にある検察と、その前段階の警察ということで、施設や心理の面で開きがでているのかなあと感じました。

警察にしても検察にしても、可視化の制度化に向けて準備をしていることは事実です。取り調べをオープンにする流れの中で、今回(の法案では捜査手法としての)『通信傍受』が拡大されようとしていたり、『司法取引』という可視化の対象外であるクローズドな仕組みがスタートしようとしています。

オープンな流れの中で、クローズドな制度が始まろうとしているのが、しっくりこないなと思っています。ここから先、刑事手続はどっちの方向性に向かうのか。可視化を中心に、国民にオープンにすべき所をオープンにしていく必要があるのではないかと思いました」

(弁護士ドットコムニュース)

 

 

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1 コメント

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刑訴法改正法案通過後に (バードストライク)
2016-05-22 16:23:54
管理人様の記事を待っていたが、書いていただけないので、今、関連過去ログを読んでいるところ。

この記事、非常に良くわかりました。
ブログ読み始めたのは1年ちょっと前からと記憶しているので、この記事も読んだのか? まだ毎日読んではいなかったのか。7月5日の森川弁護士の記事ははっきり覚えていますが。

コメントが一件もないのは、寂しいですね。
自分も含め、おおかたの関心というのはそんなものだろうと思います。
自分は犯罪に加担しないし、特定の思想・政治活動に参加しているわけでもないから、関係ない。
でも、ある日・・・ってやつです。

ただ、取り調べ全面可視化の話より、通信傍受法のほうが、もっと市民へのアピール度合は大きかったのではないかと思います。
私としては、そちらのほうがショックです。あくまで自分が逮捕されるような事態は、実感を持ちにくいのです。愚かかもしれませんが。

参考記事で、山尾志桜里議員が疑問を述べているのが、至極真っ当と思えました。今回、民進党はなぜ賛成したのでしょうか。
そういう点も含めて、新たな記事を書いて下さるとうれしいのですが。
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