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弁護士・元ロースクール教授宮武嶺の社会派リベラルブログです。

東電OL殺害事件 再審前にさらに無罪ダメ押しの新証拠 なぜ証拠隠蔽と冤罪事件は起こったのか

2012年10月10日 | 刑事司法のありかた

再審開始決定+執行停止決定で釈放され、ネパールの実家に戻れたマイナリさん


 

 1997年(平成9年)に、東京電力の39歳の女性社員が殺害された事件で、東京高等裁判所は、2012年6月、無期懲役が確定していたネパール人の男性ゴビンダ・プラサド・マイナリさん(45)の再審=裁判のやり直しを認める決定を出し、10月29日からやり直しの裁判が開かれることになっています。

 ところが、弁護団によりますと、検察が殺害された女性の爪の付着物のDNA鑑定を新たに行った結果、再審が認められたネパール人男性とは別の男のDNAが、検出されたことが分かりました。この謎の男のDNAは、被害者の体内に残された体液などからも、すでに検出されています。

 このため弁護団は、「マイナリさんの無実が、より明白になった」としていて、速やかに無罪判決を確定させるよう求めています。一方、検察は、再審裁判で、有罪の主張を続ける方針をこれまで示してきましたが、新たな鑑定結果を受けて、今後の対応を改めて検討したいとしています。

 もう、検察の負けは明らかですから、公訴取り消しを申請するか、無罪を認めて無罪論告をするかして手続きを早々に終わらせるべきでしょう。 

 それにしても、爪の中の残留物なんて2時間ドラマファンなら誰でも大事だと気づくでしょう?そんなものが残っていたのなら、なんで今までDNA鑑定しなかったのお!?とびっくりしませんか?

 実はこれには理由があるというのが、この記事を書いた目的です。

東電OL殺人事件 検察「ただちに再審事由にならず」 DNA再鑑定で別の男性の体液・体毛 当然再審!

マイナリさんの再審開始決定を喜ぶマイナリさんの次女エリサさん、妻のラダさん、長女のラダさん(左から)



 東電OL殺害事件として有名なこの事件は、15年前、東京電力の社員だった女性(39)が、東京・渋谷区のアパートの部屋で殺害されているのが見つかり、近くに住んでいたネパール人の、マイナリ元被告人が、逮捕・起訴されました。

 被害者の女性は、不特定多数の男性と性的な接触があり、確かに難しい捜査になり、また犯行の自白や、事件そのものの目撃証言など、犯人に直接結び付く証拠がなく、間接的な、いわゆる状況証拠をどう判断するかが裁判の争点でした。

 マイナリさんは無実を訴え、犯人とするには矛盾が残ると判断され1審は無罪でしたが、2審は逆転の有罪判決でした。状況証拠を総合的に検討すると、犯行は明らかだとして、無期懲役が言い渡され、最高裁でも無罪の主張は退けられ、刑が確定しました。

 2007年再審の申し立てがなされ、2012年6月に再審開始の決定がされましたが、この決定では、再審を求める手続きの中で行われたDNA鑑定が決め手になりました。被害者の体内に残されていた男の体液と、現場に落ちていた体毛のDNAの型が、マイナリさんとは別の、しかし同一人物のものだとわかったのです。

ネパールに帰国でき、お母さんに祝福されるマイナリさん



 2審の有罪判決は、現場にマイナリさん以外の体毛が残っているという証拠がありながら、第三者による犯行とは考えられないと判断していました。

 なぜなら、現場の部屋は、誰も住んでいませんでしたが、マイナリ被告人が鍵を持っていたこと、被告人の体液や体毛も残されていたこと、などを判決は指摘しました。被害者の手帳などから、被害者が勝手に現場の部屋を使って第三者と会うことはありえない、と判断したのです。
 そして、2審判決は現場の別人の体毛は住んでいた人物の体毛が残っていたとも考えられるとして、第三者の犯行を示す証拠とは言えないと指摘しました。

 しかし、被害者の体内に残された体液については、事件当時、DNA鑑定が行われていませんでした。やっと再審請求手続き中で、初めて鑑定が実施された結果、体毛と体液が同一人物の物で、しかもこれがマイナリさんのとは違うことがはっきりして、はっきり有罪判決をくつがえすことになりました。

 なんと、そもそも、この体液の血液型がマイナリさんと違うことはなんと事件発覚直後には警察にはわかっていたというのです。また、血液型を調べることができる量があれば、当時の技術でもDNA鑑定は可能だったと専門家は指摘していますが、「重要な証拠だとは考えられていなかった」ため、鑑定は行われなかったということです。。。

 誰にって?つまり、検察・警察には「重要」でなかったのです。いったん固めた捜査方針と矛盾する不利な証拠だったから。

 もし、二審、最高裁の段階で、第三者のDNAが体毛と体液と爪の中の組織すべてに残っているとわかっていたら、有罪判決なんて出るわけなかったのです。警察と検察は腐ってます。

最高検察庁が検察職員の使命倫理規程10カ条「検察の理念」を初めて制定 かなり恥ずかしい

 

 マイナリさんは、事件から15年、再審段階だけで7年も争わなければならなかったのです。なんでこんな大事な証拠の鑑定を15年もたってだらだらだらだらやっているのか。早く鑑定をすればよかっただけのことなのです。 

 結局、捜査機関の予断と偏見に満ちた見込み捜査が被疑者・被告人に有利な(捜査機関に不利な)証拠(=血液型)の隠ぺいにつながり、さらに重要な客観的証拠(=血液のDNA鑑定)を出させず、裁判所もその予断に乗っかってしまい、十分な証拠調べをしなかったというわけです。

 そもそもの間違いは外国人に犯罪を押し付けようとした捜査機関の偏見です。事件当時、被害者の体についた唾液を鑑定し、マイナリさんと違う血液型が検出されていましたから、事件当日に、被害者と接触した別の人物がいる可能性があると考えていれば、捜査の方向性が違っていたはずです。真犯人逮捕のために!そんなん素人でもわかりますやん??!

 もし、被疑者と血液型が違う体液が被害者から見つかったなら、普通、DNA鑑定すべきでしょう?しかも、 この血液型の鑑定の結果は警察・検察だけが握り、再審の段階まで明らかにされていません。それでは被告人・弁護人も手の打ちようがありません。当然、弁護団は、無罪を示す重要な証拠が検察によって隠蔽されていたと抗議しています。

 つまりは、捜査機関の思いこみによって真犯人を逃がしてしまったのです。これでは被害者も浮かばれませんし、ご遺族もたまりません。

 検察、腐ってます。

東電OL殺人事件 検察が証拠隠滅 別人の唾液・皮膚片を証拠開示せず DNA鑑定へ 

支援者の方々



 今回は、弁護団が鑑定を求め、それに検察が応じたことで、鑑定が実現しましたが、鑑定をするかどうかは、検察や裁判所の裁量に任されているのが現状です。

 アメリカでは、DNAの再鑑定によって、過去の有罪判決の誤りが次々に明らかになったことから、再鑑定を受ける権利を保障する法律が作られました。さらに、将来DNA鑑定が必要になった時のために、証拠品の性質が変わってしまうことがないよう、保管方法も定められています。

 今回の事件や、足利事件で、もし鑑定が行われなかったら、もし保管状況が悪くて鑑定ができない状態だったら、菅家さんやマイナリさんは今も獄につながれたままです。

 また、名張の毒ぶどう酒事件や狭山事件など、あまりにも厳しい再審の門が閉ざされたままになっている事件がありすぎます。まず、冤罪が起こらないようにすること。そして、起きてしまった時にはそれを早期に覆す手続きが必須です。

 日本でも、供述証拠である自白の任意性・信用性を担保するために、取り調べの全過程を録画・録音で検証できるようにする全面可視化は絶対必要ですが、それに加え、物的証拠を確保するための鑑定を保障する制度は必要不可欠と言えるでしょう。

「謝ってください」「非常に深刻に受け止めている」

 

 

 


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東電OL事件 再び別人のDNA検出

10月10日 19時29分 NHK
東電OL事件 再び別人のDNA検出
 

平成9年に、東京電力の女性社員が殺害された事件で、検察が殺害された女性の爪の付着物のDNA鑑定を新たに行った結果、再審=裁判のやり直しが認められたネパール人男性とは別の男のDNAが、検出されたことが分かりました。
検察は、新たな鑑定結果を受けて、今後の対応を検討したいとしています。

平成9年に、東京電力の39歳の女性社員が殺害された事件で、東京高等裁判所は、ことし6月、無期懲役が確定していたネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリさん(45)の再審を認める決定を出し、今月29日からやり直しの裁判が開かれることになっています。
弁護団によりますと、検察が殺害された女性の爪の付着物のDNA鑑定を新たに行った結果、再審=裁判のやり直しが認められたネパール人男性とは別の男のDNAが、検出されたことが分かりました。
この男のDNAは、被害者の体に残された体液などからも、すでに検出されています。
このため弁護団は、「マイナリさんの無実が、より明白になった」としていて、速やかに無罪判決を確定させるよう求めています。
一方、検察は、今月29日から始まるやり直しの裁判で、有罪の主張を続ける方針をこれまで示してきましたが、新たな鑑定結果を受けて、今後の対応を改めて検討したいとしています。
東京高等検察庁は、「やり直しの裁判の前なので、コメントは差し控える」としています。

 

毎日新聞 2012年10月10日 21時22分

 97年の東京電力女性社員殺害事件で再審開始が確定したネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ被告(45)のやり直しの公判を前に東京高検が行った追加のDNA型鑑定で、被害女性の爪の付着物の型が女性の体内に残された「第三者」の精液の型と一致したことが10日分かった。弁護団は「絞殺時に第三者に抵抗して付着した可能性が高い」と指摘。高検は鑑定書を29日から東京高裁で始まる再審公判に証拠提出しており、これまでの有罪主張を転換して無罪を求める方向で検討に入ったとみられる。

 鑑定結果は10日、弁護団が明らかにした。弁護団によると、追加の鑑定対象は保管されていた10指の爪の付着物。右手の親指と中指の付着物が第三者と一致し、他の爪の付着物も「第三者と矛盾がない」との結果だった。

 東京高検の青沼隆之・次席検事は「鑑定の結果を踏まえて検察官のこれまでの主張の変更を含め、適切な対応を検討する」とコメントした。

 再審請求審では、殺害現場に残された第三者の体毛のDNA型が、被害女性の体内から採取された精液の型と一致。今年6月の東京高裁の再審開始決定は「第三者が被害女性と性的関係を持った後に殺害した疑いを生じさせている」と指摘した。検察側は異議申し立てしたが、高裁の別の裁判長もこの判断を支持し、8月に再審開始が確定した。

 マイナリさんは強盗殺人罪で起訴され、00年4月に東京地裁で無罪を言い渡されたが検察側が控訴。同12月に東京高裁が無期懲役を言い渡し、最高裁で確定した。このため再審公判は控訴審で行われ、1審の無罪判決の当否が審理されるが、今回の追加鑑定結果に伴い、「再審無罪」の流れは決定的となった。【和田武士、島田信幸、山田奈緒】

 

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3 コメント

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本件についてはよく分かりませんが、 (H.KAWAI)
2012-10-11 10:53:34
○最近の警察の捜査には合点が行かない事がよくありますね。最近も大阪市のHPに大量殺人の予告を書き込んだとして、ある男性が逮捕・起訴され、その後それが他人のなりすましによるものである可能性が高くなって、その男性が釈放されたんでしたよね。
○でも、その書き込みにはその男性の実名が記載されてたってんですから、どう考えても不自然ですよね。そんなアホな事をする奴なんてまずおらんでしょうにね。
○それに、そもそも逮捕・拘留までする必要ってあったんですかね。パソコンの押収だけで十分でしょう?それとも「自殺する」とあったので、自殺防止?でも、捜査段階でマトモな人かアブナイ人かって、分からないんですかね、刑事さんは。
○まあ、こんなの聞をかされますと、そのネパール人の男性も、お粗末な警察・検察のせいで、一生を台無しにされそうになったんじゃないかって気がしますよね。
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爆弾予告とかそういうの (H.KAWAI)
2012-10-12 08:22:17
○よくありますよね。でもそういうの、大半はイタズラでしょう。
○けれども、仮に上記のその男性が本当に大量殺人の予告を書き込んでいて、それが本気だったってなったら大いに悩みのタネですよね。
○実行に着手してなければ殺人の予備は成立しないから懲役2年はムリだし、場所は日本橋でしたっけ、どういう罪になるんでしょう。罰金?
○そして、そういうの、ひょっとするとそのうちに予告無しにやるかも知れませんよね。すると今度は「どうして監視してなかったんだ!」って事になって、予防拘禁の制度ができそうじゃありませんか。何だかキリがありませんよね。
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他人事ではない冤罪の恐ろしさ (クレーマー&クレーマー)
2012-10-16 14:55:03
身に覚えのない容疑であっても逮捕されてしまうと、自分で身の潔白を証明することはほとんど不可能です。支援する人がいればその人たちに冤罪を証明して貰うこともできます。映画「それでもボクはやってない」では、満員電車内での被害者の証言の信ぴょう性を確かめるために多くの支援者の協力を得て再現ビデオを作りました。

本人がいないことによりその勤務先では業務に大きな障害が出ます。最悪の場合には、勤務先の業績が悪化し倒産という事もあり得ます。そういう大きなマイナスを恐れて身に覚えのない罪を認める人もいるはずです。

どんなに些細な容疑であってもやっていないことをやったと言う事は個人の尊厳を傷つけるものです。しかし、検察のやっていることは、社会の利益を守ることよりも自分たちの利益優先です。当然そこには、容疑者の権利など微塵も考慮されません。まさに「疑わしきは容疑者のために」ではなく「疑わしきは検察のために」ということです。

こういうことがいいことでない事は明らかです。徹底した改革が求められます。
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