2009年度作品。フランス映画。
ある男が、失踪した。手がかりは、名前と年齢、数枚の写真だけだった。彼の名はシタオ。他人の痛みを身代わりとなって引き受けるという、不思議な力を持つ。彼の父の依頼により、元刑事の探偵クラインは、シタオ捜索の旅に出る。彼の足跡を辿って香港へたどり着くクライン。そこで突き止めたのは、シタオがリリという女性と一緒にいるということ。そしてリリを溺愛し、追い求め続ける香港マフィアのボスもまた、シタオを探している、ということだった。
監督は「夏至」のトラン・アン・ユン。
出演はジョシュ・ハートネット、木村拓哉 ら。
豪華キャスト目当ての人が多かったせいか、本作の興行成績はそれなりに良さそうである。
だが俳優目的で、この映画を見に来た人は、本作をあまり楽しめなかったのではと、僕には感じられた。
それは内容がこれっぽちもすかっとしない、哲学的なアート映画だからだ。とてもじゃないけど、あまり一般受けはしないだろう。
もっともそれ以外にも、この映画が受けそうにないと感じた理由はいくつかある。
一つはいくらか暴力的だからという点があるし、テンポがメロウで、お話も暗く、時系列がわかりにくいという点も上げられるだろう。だがもっとも問題にすべき点は、この物語を通して、つくり手は結局何を描きたいのか、最後までわからなかったところにある。
本作は聖書的な要素を扱い、人間の苦悩についてアプローチしている。
具体的に言うと、人の痛みを引き受ける木村拓哉をキリストに、愛と嫉妬から人を傷つけるイ・ビョンホンにピラトの役割を当てはめ、各人が出くわす苦痛について描いているといったところだ。
だがそれらのシーンは、あくまで各人の状況を描いている、というだけのことでしかない。
そういった苦悩や苦痛に迫りながら、作り手は明確な答えなりオチなりを用意しているわけではないのだ。
そのため、描写はいろんな場面で中途半端だし、見終わった後、だから何だというのだろう、というもどかしさが残る。その点が残念で仕方ない。
だが、いくつかの欠点はあるものの、僕はこの作品が決して嫌いではないのだ。
それは、この映画の内容がいくらでも深読みが可能だからというのが大きい。
この映画で、ジョシュ・ハートネット演じる探偵は、どうやらミカエルに模されていることがラストで判明する。
だが、そのミカエル的存在がキリストの僭称者とも言うべき殺人犯を殺して、心に傷を負っている点がおもしろかった。多くは書かないけれど、その描写はいろんな解釈が可能だろう。
そんな探偵の姿を見ていると、人の痛みに迫り、理解するということは、そういった痛みを一度体験した者でなければ無理なのかもしれない、というようなことをぼんやりと考えた。あくまでぼんやりとだが。
ストーリー以外で良かった部分は、俳優陣だ。個人的には木村拓哉が心に残った。
木村拓哉は基本的にどんな役をやっても、キムタクにしか見えない。
これは主観なのだが、彼の演技の型はすでにガッチガチに固まっているので、何をやってもいつものキムタク、要はマンネリに見えてしまうのだ。それが彼の強味だけど、同時に弱味でもあると僕は思う。
本作でも、その印象自体は変わらないのだが、それでも彼なりにがんばっているな、というのが伝わってくる。何よりも、それなりに存在感を見せていたのが良い。
また、劇中のRadioheadの曲も、効果的に使われていてカッコ良かった。
特に「Climbing Up The Walls」がべらぼうにすばらしい。
鼻血がだらだらこぼれそうなほど、その曲とシーンにしびれてしまった。おかげでこの映画を見て以降、音楽はもっぱら「OK Computer」だ。
いろいろ書いたが、いくつかの点で光るものがある作品ということはまちがいない。
むちゃくちゃ難は多いけれど、無視できない一品だ。
評価:★★★(満点は★★★★★)
出演者の関連作品感想
・ジョシュ・ハートネット出演作
「ラッキーナンバー7」
・木村拓哉出演作
「HERO」
「武士の一分」
・イ・ビョンホン出演作
「甘い人生」
この映画を見たので、いろんなブログを
巡って感想を読んでてココにきました。
「そうそう、私もこれは思った!」
ってことがいっぱい書かれていたので。
思わず「同感です」コメしています(笑。
なんというか、妙だけど、とてもきちんと
書いてあるってことに感動を覚えたんです。
ほんとに秀逸な文章力で、尊敬しました。
また、他の記事も読みに来ますね。
コメントありがとうございます。
いろいろと共感してもらえたみたいで、こちらとしてもうれしいです。
何か誉められているっぽいみたいで、少し照れます。
ほかにもだらだらと、映画やら本やらの感想を書いてますんで、気が向いたときにでも読みに来てあげてください。