『今日の一冊』by 大人のための児童文学案内人☆詩乃

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ネイティブものの嘘&星野道夫写真展

2016-08-28 21:22:45 | アメリカ文学

『森と氷河と鯨 ワタリガラスの伝説を求めて』星野道夫著 世界文化社

先日、銀座松坂屋で開催されていた没後20年特別展『星野道夫の旅』写真展に初日行ってきました。おいおいお仕事は?的なさぼってる風のサラリーマン、銀座に似合うおしゃれな方、デパートで浮いてるバックパッカー的な人、色んな装いの人で混んでいて、星野道夫さんは色んな人から愛されていたんだな~、と改めて実感

写真展を見て改めて思いました。私は彼の写真自体が好きというよりも、彼の世界観、文章が好きなんだと。文章だけのエッセイだったら、先日小笠原の帰りの船で再読した『旅する木』が一番好きなのですが、写真入りエッセイで一番好きなのは断然この『森と氷河と鯨 ワタリガラスの伝説を求めて』なんです。元々自分が文化人類学をかじっていて、ネイティブな人たちに興味があるというのもあって、大地に根ざしたネイティブの人たちに触れたび鳥肌がたつんです。こういう世界観にたまらなく惹かれるんです

ただネイティブものに関しては、裏切られた気分になったこともあります(星野さんのではありません)。大学時代に好きだったこちらの二冊の本。↓

 

『リトル・トリー』(フォレスト・カーター)と『ミュータントメッセージ』(マルロ・モーガン)

今でこそこの2冊はAmazonのレビューでもその実態が書かれているものの、私が発見したころはまだ広く知られていなくて、何を信じてよいのやら混乱しました。
『リトル・トリー』は素朴ながら山で祖父母と暮らすことになったチェロキーインディアンの男の子の自伝で、じわじわと感動したものでした。ところが、自伝と言っているこの作者がKKKの支部リーダーであり人種差別主義者だという。えーーーっ!?!?本当???当時は情報が少なく、真偽の確かめようがなくてモヤモヤしました。例えそれが真実であろうと、作者と中身は関係なく、この物語自体はいいではないか、完璧な人間なんていなじゃないか、と言い聞かせようとしました。何度も。でも、ダメでした。そして、サヨナラしました

『ミュータントメッセージ』のほうも大学生当時えらく感動して、原書まで買ったくらいです。ただ、当時から一カ所だけ引っかかってるところはありました。それは、アボリジニーの〈真実の人〉族の人々がこの世の中に絶望して自ら命を絶やす選択をすることにしたというくだり。それはありえない、と彼らの世界観を少しかじっていた私は直観で思っていました。また、なぜこの白人の作者である彼女がアボリジニーから選ばれたのかもイマイチ分からなかった。ほんのり香ってくる自慢げな香り。でも、感動していたからそこをあえて気づかないようにしてた。
アボリジニーの人々からこの作者に抗議運動が行われていると知ってからは、この本もサヨナラです。とてもとても残念でした。想像して書いた、彼らの世界観への憧れからフィクションで書いたと最初から言えばよかったのに、白人である自分が選ばれて彼らの秘密を知らされたとした傲慢さ、彼らへの敬意のなさがとにかく残念。


この二冊に共通しているのは、自分の実体験だと謳ってしまったところ。そこに自分が認められたい承認欲求、自分は選ばれた人なんだという優越感があったのかもしれません。本当に素晴らしい文学だと、ほとんど自伝的なものでも作者はあえてそうは主張してないことが多いんですよね・・・。

今日はちょっと残念本の紹介でした

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