『ジョージと秘密のメリッサ』(2016年)アレックス・ジーノ作 島村浩子訳 偕成社
George(2015) by Alex Gino
今日の一冊は、なかなか理解されにくいトランスジェンダーを扱ったコチラ↑。
これはねえ、もう、ぜひ大人も子どもも読んでもらいたい一冊!
今、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)と呼ばれる人たちは、20~30人に一人の割合、つまりクラスに一人はいるかもしれないという状況なのです。知らないだけで、すぐそばにいるかも。だから、読みたい。
≪『ジョージと秘密のメリッサ』あらすじ≫
4年生のジョージは見た目は男の子だが、内面は女の子。家族にもいえないけれど、本当は誰かにわかってもらいたい。特にママには。学校の劇で女の子役を希望してみるが、先生は聞き入れてくれない。ふとしたはずみで、親友の女の子ケリーに本当のことを打ち明けると、ケリーはジョージの気持ちを理解し、2回めの公演で役を入れ替わろうという。ジョージはママに気持ちを伝えたい一心で実行する。本番を見事に演じ切ったジョージは、自分を開放する喜びを味わう。かたくなだったママも、ジョージのありのままを受けとめようとしてくれるようになる。(偕成社ホームページより転載)
■ ささいな言葉でも傷つくという事実
トランスジェンダーとゲイを混同している人って多いんじゃないでしょうか?私も以前はそうでした。他人から偏見の目で見られやすいという点では共通していますが、性質は違います。トランスジェンダーは心の性と身体の性が一致しない人のこと。
この本は、そんなトランスジェンダーのジョージ(一人のときはメリッサ)の繊細な心模様を丁寧に描いています。ああ、こんなささいな言葉に傷つくんだ!とこちらが何気なしに放った言葉がいかにトランスジェンダーの人たちを傷つけているかに、ハッとさせられます。そして、自分が自分でいられないというのは、こんなにもこんなにも、苦しいんだ、ということも。
ジョージは、学校の劇『シャーロットのおくりもの』で、どうしても主役の蜘蛛のシャーロット役(女子)がやりたいのです。で、オーディションをシャーロットのセリフで行ったら、先生にふざけてると思われてしまう。シャーロットさえできれば、ママにも自分が女の子なんだって、分かってもらえる気がして。だから、この役がやれるかどうかは、本当に切実な問題だったのです。他の人からは、なぜそれが認められることにつながるのか、「???」だけれど・・・。
このジョージがラッキーだったのは、親友のケリーがすんなりジョージが女の子だってことを受け入れてくれて、協力してくれたから。とはいえ、ケリーだって、影ではすんなりではなかったのかも。空白の1週間、この間に悩んだのかも。ネットでトランスジェンダーについて調べたり。ケリーみたいな友だちがいない子は・・・と思うと、もうね・・・。
■ 家族が一番の難関!?
そしてね、実は一番受け入れがたいのは、親だったりします。兄弟はわりとすんなり。このねー、兄のスコットの存在がなかなかいいんです!兄弟っていいなあ、って。
家族はうすうすジョージがゲイではないかとは疑っていたのですが、トランスジェンダーだとは思ってなかったのです。そして、多分よくある誤解で、ゲイもトランスジェンダーも本人さえちょっと我慢すれば、そうでなく振る舞えるんじゃないかと周りは思ってしまうんですね。ジョージのママしかり。
ところで、学校の校長先生はLGBTへの理解がある先生で、ジョージのママにこんな風に声をかけます。
「親は子どものあり方をコントロールできませんけど、ささえることは、まちがいなくできます。そう思いませんか?」(P.177)
これ、素晴らしい言葉!!!それでも、なかなか受け入れられないママ(それが、現実)。
そして、ジョージに、世の中は普通とは違う人に優しいとは限らない。ママはとにかく、あなたに必要以上に苦しい道を歩んでほしくないんだ、と伝えます。これも、親心ですよね。ところが、そういうママに対し、ジョージは
「男の子のふりをするのは、ほんとうに苦しいんだ。」(P.188)
と。ここで、ママは初めてハッ!とするのです。どんなにどんなに苦しかっただろう、とやっと気づけるのです。
なぜ、この作者はここまで分かるんだろう、と思ったら、作者自身がトランスジェンーだったんだそう。最後のほうで、ケリーと女の子の服を着てときめいているメリッサを見ると、心が温かくなります。
■ こちらの名作もぜひ!
この本に劇として出てくる『シャーロットのおくりもの』も素晴らしいのでぜひ↓
そのときの紹介記事はコチラをクリック