『今日の一冊』by 大人のための児童文学案内人☆詩乃

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日本にもあった理想郷?『アヴェマリアのバイオリン』

2016-09-27 21:43:31 | 日本文学


『アヴェマリアのヴァイオリン』香川宣子著 角川書店


昨日『アラスカの小さな家族 バラードクリークのボー』で、多文化共生の理想があったと書いたのですが、日本にもあったんですよねえ。それが『アヴェマリアのヴァイオリン』に出てくる徳島県にある板東俘虜収容所。ええ、驚くことに収容所!日本で初めて『第九』が演奏された奇跡のような場所です。とその前にこの本のあらすじを・・・↓

≪『アヴェマリアのヴァイオリン』あらすじ≫
14歳のあすかのヴァイオリンには数奇な物語が隠されていた…。アウシュヴィッツで強制収容所に入れられながらも囚人音楽隊員として生き抜いた天才ヴァイオリンニストの少女・ハンナ。平和とは・・・。数奇な運命に翻弄された一丁のヴァイオリンが生み出す感動の物語。2014年度第60回青少年読書感想文全国コンクール課題図書(高校の部)


これまたシンクロと言いますが、必然といいますか。“戦争と平和”をテーマにした第5回児童文学ピクニックは夏休み中だったこともあって、実家近くの公園でやったんですね。なので前日から実家に泊まってました。そしたら、そんなテーマで集まるなんて全く知らないじいじから「これ、読んでみたら」と手渡されたのがこの本だったのです。タイミングよすぎ!!!

作者のホームページに書かれていることも面白い。まあ・・・自分で四国のジャンヌダルクと名乗っちゃうようなところはちょっと引いてはしまいますが。個人的に興味深かったのは、この作者の方、この本は直接的には書いてないのですが、『ユダヤアークの秘密の蓋を開いて 日本から《あわストーリー》が始まります』という本も書いていて、日本とユダヤの秘密についても書かれているんです。小笠原の宿に置いてあったので読んだ『日月神事 ユダヤとの結び/石屋との和合』が引っかかっていたので、するすると謎が解けていくような、全てがつながっていくかのような不思議な感覚。約束の地カナンが日本だなんて、あり得ない!と思ってたけれど、読めば読むほど・・・まあ、真偽のほどは置いておいて。この話は長くなるので別途にするとして、板東俘虜収容所!!!この物語の中に出てくるアウシュヴィッツでの様子はひたすら苦しくて、重くて重くて、目をそむけたくなるようなむごたらしい現実でしたが、そこで以前板東俘虜収容所にいたというクラウスの体験話が出てくるのですが、これがんも~素晴らしいのです

この収容所の所長だった松江豊寿氏、この方がとにかくすんばらしい。武士道精神を持っていると言いますか。
「武士の情け、これを根幹として俘虜を取り扱いたい」
と部下に伝え、捕虜を犯罪者のように扱うことを禁じ、敬意を持って接するんですね。そこからさまざまな文化交流が生まれていく。無愛想なパン職人に笑顔が生まれる。音楽の交流が始まる。戦時中ですよ?収容所ですよ?こんなことって実現できるんだ!奇跡のような本当のお話。希望が湧いてきます。板東俘虜収容所に関しては、ココにもまとめられています。でも、やっぱり記事で読むより、物語で読むほうが心にぐっと来る、残ります

物語自体については、現代のあすかの方がどうしても薄っぺらく感じてしまって、文学としてはいま一歩なのかも。それでも!アウシュヴィッツで仲間を死に送るために演奏する苦しみ、それでも音楽の生み出す可能性、究極の状態で気高く生きるとは、などなど考えさせられるところがたくさんあります。有名な『あのころはフリードリヒがいた』は苦しくて苦しくて、個人的には人には勧められません・・・。でも、この『アヴェマリアのヴァイオリン』のほうは人間の美しさ、気高さが描かれているので同じような極限状態でも、それでも人類に失望せず、希望が残る気がします。それにしても、板東俘虜収容所のようなところがあっただなんて。日本人として誇らしいです!

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2 コメント

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感謝 (著者です)
2020-01-16 13:45:51
読んでいただきましてありがとうございました。
現代っ子あすかのところは、導入部分でどうでもよい。そこを外してもよいところなので、薄っぺらくわざと仕上げました。角川の剛腕編集担当仕込みの計算されつくした技なのです。ご了承くださいませ。
Unknown (Shino)
2020-01-17 19:21:46
》香川宣子さま

生意気にも書きたい放題書いてしまったブログに対して、コメントありがとうございます。
なるほど、そういう意図があったのですね。最近の子は導入部分でつまづいてしまう子が多いと聞きます。まずは、読みやすく、敷居は低くから始めるというのは大事なんだ、と今は思っています。
(このブログを書いた当時は分かって入ませんでした。すみません💦)

ネット記事で読んだだけでは、その場では感動してもその後すぐに忘れてしまうであろうことが予測される板東俘虜収容所のことも、この物語を通してだと深く心に刻まれますね。

心に残る物語をありがとうございます。

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