『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

1999年9月創刊。≪阪神道路問題ネット≫交流誌のブログ版。『目次』のカテゴリーからの検索が便利。お知らせなども掲載。

『みちしるべ』税金に汚いトヨタ自動車**<2007.5. Vol.46>

2007年05月02日 | 神崎敏則

税金に汚いトヨタ自動車

みちと環境の会 神崎敏則

 5月になると、大企業の前年度決算が次々に発表される。世界に冠たる巨大企業・トヨタ自動車は、自動車販売台数が世界1位となり、営業利益は2兆円を越えた。一方で、トヨタは税金に汚いこともよく知られている。汚いと言っても合法的な税務処理なので「まったく問題はない」と強弁することができるだけに、たちが悪い。

10社に約1兆円の輸出戻し税

 例えば、自動車1台を100万円で売るメーカーがあるとしよう。売上段階でメーカーは5%(=5万円)の消費税を上乗せして消費者に販売する。その5万円は消費者が負担をし、メーカーは5万円の消費税を預かる立場だ。そしてメーカーは自動車を製作する段階で、仕入れ材料や一般経費(人件費や税金などを除く)を支払う際に5%の消費税を負担している。それらの支出が仮に60万円だとすると、メーカーは3万円の消費税をすでに支払っていることになり、預かっている5万円から自分が支払った3万円を差し引いて2万円の消費税を税務署に納付することになる。

 このメーカーが同じ車を海外で販売した場合は、売上時の消費税が発生しない。メーカーが支出の段階で3万円の消費税を支払っているのは同じなので、この分の還付を受けるように税務署に申告することになる。

 巨大企業トヨタ自動車の場合はどれくらい戻ってくるのか。関東学院大学の湖東京至教授の試算によれば、(国内売上高)X5%から、(国内売上高に対する仕入高)X5%を引くと、374億円ほど納税額が出るという。ところが輸出戻し税の方は、2665億円になり、そこから国内の納める分374億円を引いて、2291億円もの巨額がトヨタに還付(図参照)されることになるそうだ。

 消費税全体の税収は、地方消費税も含めると、約13兆円になるらしい。平成18年度予算では、この13兆円の内、3兆円も大企業に還付され、上位10社だけで1兆円の還付を受けている。

トヨタヘの還付金赤字の豊田税務署

 ここで問題なのは消費税の特性だ。大企業は売上時に5%の消費税を上乗せすることはできても、中小零細企業は上乗せすることは容易でない。相手が大企業の場合は5%を上乗せする前から、単価を引き下げさせられる。請求書には5%の消費税が載せられて、会計処理上は大企業がその消費税を支払ったことになる。だが、実質的に支払ったのは中小零細企業ではないのだろうか。

 湖東教授は、「アメリカは輸出戻し税を、実質的には輸出補助金だと言っています。GATT(関税貿易一般協定)では、国が輸出企業に補助金を出してはいけないと決まっています。私は、消費税は輸出補助金にほかならず、GATT協定違反の税制だと思います」と指摘している。

 巨大企業トヨタ自動車に納品する何万という中小零細企業が実質的に負担をさせられている消費税を、ホクホク顔で還付請求するのだ。トヨタは一度も消費税を税務署に納めたことがない。管轄の豊田税務署は、トヨタのおかげで還付金が多く赤字の税務署となっている。実はトヨタにはもっと露骨で醜悪な税金問題がある。

税金を詐取できる優遇税制「みなし外国税額控除」

 「みなし外国税額控除」(注)とは、進出先で支払ってもいない税金を支払ったとみなして、日本国内の本社に対する課税を減免する、とんでもない優遇税制だ。

 税法の考え方として、一度課税された利益に対して再度課税するいわゆる「二重課税」を排除している。例えばA社の関連会社であるa社がフィリピンで収益を上げ、フィンピンに納税したとしよう。その納税後の収益を本社であるA社が株主配当として受け取り、A社の収益に計上すると二重課税されることになるので、フィリピンで納税した税額を日本で控除するという制度だ。ここまではごく当たり前のことなのだが、ここからが露骨で醜悪だ。

 フィリピンには本来の税率を減免する優遇税制がある。優遇税制は進出企業が税率を減免されるので、それだけで不公平税制と言いたくなるが、A社などはもともと日本でその税額を控除するつもりなので、フィリピンで納付する税額が少なくなっても恩恵を受けたと思えないらしい。そこで「みなし外国税額控除」が登場する。

 優遇税制をフィリピンにつくらせて納税額を減らし、日本の本社が税額控除する際には、優遇前の本来の税額分を控除できるという制度だ。払ってもいない税金分まで税額控除できるのだから、制度化された税金詐取と断言したい。

 この例えばなしのA社がトヨタでa社がフィリピントヨタだと名指しして非難しているホームページもある。

 安部首相は06年12月9日「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とフィリピン共和国との間の条約を改正する議定書」に署名し、(1)日本からの投資に対する課税引き下げ、(2)フィリピンヘの進出企業に対するみなし外国税額控除の10年延長、の二つについて合意した。

 横田一、佐高信共著『トヨタの正体』によれば、トヨタ前会長の奥田氏について「フィリピンに左遷された駐在員時代、当時のマルコス政権に食い込み、豊田章一郎社長の信望を得て、一気にトップに上り詰めた」と解説している。現在のトヨタとフィリピン政府の関係は推(お)して知るべしだ。日本の政財界のトップとフィリピン政府のトップが手を結べば、これほど悪辣な制度を10年も延長させることができるのだろう。(文責著者)

******************************************************

(注) みなし外国税額控除は、投資先の発展途上国等が自国の経済発展のため一定の要件を備えた外国からの投資について税制上の優遇措置を設けており、源泉地国と居住地国との間にみなし外国税額控除の規定を有する租税条約が締結されている場合に、適用される。2006年5月現在、日本との租税条約に有効なみなし外国税額控除の規定がある国は、アイルランド、インド、インドネシア、ザンピア、スベイン、スリランカ、タイ、中国、バングラディシュ、パキスタン、フィリピン、プラジル、ベトナム、マレーシア。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『みちしるべ』**道路行政... | トップ | 『みちしるべ』私の住民運動... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿