失われた40年の重み
代表世話人 大橋 昭
今年は4年目のエルニーニョの発生と地球温暖化の関係もあってか、記録破りの暖冬である。しかし、現在の異常気象や地球環境の異変への予測は、今から40年前の1970年、イタリア・ローマに於いて既に行われていた。
折から深刻化しつつあった天然資源の枯渇化、環境汚染の進行、開発途上国における爆発的な人口増加、大規模な軍事的破壊力の脅威による人類の危機に対して、地球の有限性を共通テーマに当時の世界中の最高の英知を集めた、危機回避のシナリオが通称「ローマクラブ」により探索され、その成果は世界を震撼させた「成長の限界」に遺された。
しかし、この人類の存亡を問う地球環境破壊を警告した「成長の限界」は、先進諸国による近代科学技術を駆使した地球への際限なき収奪を止めるには至らなかった。人類の欲望とエゴのおもむくままの大量生産・大量消費・大量廃棄のもとで、経済成長と利便性向上を追求して来たその帰結が今日の地球環境破壊である。
この時期に高度経済成長期にあった日本も、資本の利潤第一主義による公害垂れ流しと自然破壊を生み、地域住民の健康や労働者の職場環境など歯牙にもかけず、労働災害を頻発させ、全国各地に公害反対闘争が巻き起こった。それら4大公害病「水俣病、第二水俣病(新鴻水俣病)四日市ぜんそく、イタイイタイ病」の顕在化は国に「公害国会」を開催させた。
しかし、本格的な公害防止施策の実現には産業優先を掲げる行政の全体的姿勢を越えるまでに至らず、この時「ローマクラブ」の警鐘を主体的に提え、活かして行く方途が確立されていれば、以後の運動の内実も、大きく変わっていただろう。また、このころは「地球環境問題」なる言葉はまだ存在しなかった。
2007年2月1日、マスコミはICCP(気象変動に関する政府間パネル)によって、地球温暖化の科学的根拠を「人間活動の仕業」とする注目すべきニュースを報じた。
このまま化石燃料に依存し高度経済成長を続ければ、自然変動(火山噴火など)を外しても温室効果ガス増加による温暖化は加速し続けその影響は全地球規模に及ぶと言う。
また、この報告とは別に出されたイギリス政府の諮問機関「スターン報告(気象変動の経済影響)」では、地球温暖化の速度を摂氏1度から5度の段階に区分し、地球温度が今よりも5度上昇した場合を想定した危機シナリオを作成した。二つの報告書は「今すぐ確固たる対策を採れば、悪影響を避ける時間は残されている」とし、その時間は10年から20年という衝撃的な報告を提出した。
私たちが40年前に出された「ローマクラブ」の警告に真摯に耳を傾け、地球の有限な天然資源の枯渇、環境汚染に目を向け、人口増加と工業投資の加速度を抑える適切な政策を実現していれば、事態はここまで深刻化しなかっただろう。
経済成長著しい中国、インド、ブラジルなど発展途上諸国の環境対策の不在と、アメリカのための経済のグローバル化が際限なき地球温暖化と環境汚染を拡大している時、今回のICCPやスターン報告を深刻に受け止めることなく、これまで通りの豊かさを追求して行くならば、人類は近い将来に必ず破滅の危機を迎えようとする中で、異常気象は地球温暖化が原因という警告は無視すべきではないと思う。
今、私たちに求められるのは自らが「カネとモノ」の呪縛を解き放ち「足る」を知ることの意味を問い直し、人としての生き方と国のありようを、経済と環境とエネルギーの視点から見直す勇気だ。そして、一人ひとりがすぐに出来るエネルギー消費抑制への行動と、京都議定書の目標達成にむけたライフスタイルヘの転換と、地球環境危機の克服に立脚する政治への転換を促し、早急に国際的な視野から「地球環境税」創設に主体的に取り組む努力だ。
急速に政治が右傾化してゆく中で、なによりも平和と生命の大切さを掲げ、地球は子孫からの預かり物であるという価値観に立って、危機に瀕する地球環境に対し、すべてにおいて大胆な変革を急がなくてはならない時だ。
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