『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

1999年9月創刊。≪阪神道路問題ネット≫交流誌のブログ版。『目次』のカテゴリーからの検索が便利。お知らせなども掲載。

『みちしるべ』ならず者とは誰か**<2001.11. Vol.14>

2006年01月05日 | 砂場 徹

ならず者とは誰れか

世話人 砂場徹

 米軍によるアフガニスタン爆撃が二十日間つづいている。この間地上軍も足を踏みいれた。まさに侵略戦争である。ブッシュ大統領は「ビン・ラディンを捕まえるのが目的だ」「アフガンの民衆が敵ではない」「民間人の犠牲は出さない」と盛んに宣伝していたが。すでに、国連関係の事務所、医療施設、高齢者住宅、赤十字の倉庫などが被爆し、千名近い死者がでている。ピンポイント爆撃を誇る米軍が一部の誤爆を認めているが、誤爆であれなんであれ、この事態は充分予想されたことである。なんの罪もなく、ほそぼそと生きてきた民衆が、厳寒をまえにして家を追われ、飢えと寒さの中をさまよっている。飢餓線上の難民が400万ともいわれるこの地に、さらに何百万の難民が増えるのも必至である。

 テロは卑劣きわまりない行為である。だがそれは犯罪であり、国民を動員して国家が行う戦争ではない。だがブッシュ大統領は口を酸っぱくして、「これは報復ではない戦争だ」とわめいた。アフガンの地形が変わるほどの爆撃を加えても、犯人を捕まえることはできない。最近はビン・ラディンを捕まえる熱意は衰えたようである。それよりもタリバン政権を崩壊させることに力を注いでいる。二十八年前に追放された元国王を担ぎだしてアフガニスタン人同士を闘わせることを企むなど、あわよくは傀儡政権を樹立すべく画策していたことが明らかになった。アメリカがタリバン政権転覆のためにひそかにアフガニスタンに潜入させようとした、タリバンと対立する元司令官がタリバンに捕らえられ処刑された。米軍は助けを求めるその人物の救出に失敗した。ここまでくると、アメリカがこの国に戦争をしかけた真の目的はタリバン政権の打倒にあった、と憶測されても不思議ではない。

 アメリカの「敵」と名指しされたアフガニスタンは、この二十年間世界の超大国によって翻弄され、蹂躙され、疲弊しつくして、人々は廃墟の中でやっと生きている。世界の最貧の国の一つであり、もっとも悲惨な国である。この国に「これは戦争だ」「新世紀最初の戦争だ」と勝手に「戦争」を宣言し、しかも世界を自分に従わせようとする、この「無法」を押し通せるのは、圧倒的な経済力と軍事力で世界を誹謗する超大国アメリカだけである。そのアメリカこそ、発展途上国に対する、あくなき搾取と収奪で南北格差を拡大しつづけ、テロを生み出す土壌を肥やしてきた先進資本主義諸国の首魁であることは論をまたない。

 自爆までしてアメリカに対するテロを執行したのはなぜか。「戦争」に同調した世界の主要因はその原因を解こうとしないのか。世界のマスメディアは「なぜテロが起こるのか」という決定的な問いに答えることを避けて通るつもりなのか。おぞましいことだ。そこには理性も倫理も放棄した、頽廃と腐敗の社会の姿しか見えない。

 「自爆テロ」で誰もが思い浮かべるのはイスラエルとパレスチナの抗争である。ここが「自爆テロ」発生の舞台だ。「自爆テロ」は自分が死ぬことを前提にした行為である。少数の「狂言者」の行為ではない。宗教や「文明」の違いなどに起因するものでもない。彼らの信念は広範な人々の共感の中に基盤をもっている。日々抑圧と軍事的脅迫のもとに生き、自分たちの生存の権利まで踏みつけにされ、それに対する抗議が「テロ」と呼ばれてまた圧殺される。生まれたときからそんな境遇におかれた人は、未来に何を夢見ることができるのか。「自爆テロ」はいっさいを奪われ、もはや失うものもない人々の怒りと絶望の表現ではないのか。

 その一方、ブッシュ政権発足以来のアメリカの「単独行動主義」は目に余るものがある。米本土ミサイル防衛(NMD)構想―弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約の破棄、地球温暖化―京都議定書からの離脱、国連小型武器会議での言動、生物兵器禁止条例(BWC)議定書草案の拒否、また核実験全面禁止条約(CTBT)の放棄などがそれである。徹底した国益中心主義、つまり、仮に国際社会で合意に達した事項であっても、その後自国にとって不利であると考えるならば、撤回も辞さないということである。

 アメリカが拒否している先にあげた国際的約束事は、世界の平和と人類の生存にとって根幹をなす重要な課題であり、戦争の時代といわれる前世紀の苦い経験から国際社会が血であがなった宝ものである。この教訓を受け入れることを拒むアメリカの態度は、アフガニスタンに戦争を仕掛けた思想と通底する。

 最後になってしまったが、日本の政府とマスコミの罪がそれだけ軽いということでは決してない。小泉政権はこのアメリカのアフガン侵略戦争に、全面的な支持を表明し、「できることはなんでもやる」「ご苦労だけれども、危険を伴う場所にも自衛隊に行ってもらう。持てる力をどうやってテロ防止に活用できるか出し惜しみはしない」 などと言い、憲法違反の「テロ防止特別法」を衆議院でわずか三十時間余の審議で与党だけで強行採決してしまった。この機を奇貨として憲法の平和原則はもとより、「専守防衛」を放棄し、「集団的自衛権の行使」の問題でもその制限を事実上、取り払った。

 この国のマスメディアも、はしゃぐ小泉に勝るとも劣らぬ愚劣さをさらけ出している。尻馬にのってアメリカ発の報道を垂れ流すことに汲々とし、そのうえ、どうすればこの国がもっともよくアメリカに貢献できるのか、最大限の軍事力行使のためにはどのような法整備が必要か、オサマ・ビン・ラディンとタリバンがどれほど悪逆非道かといった論調を終日流す始末だ。物質的豊かさの追求が、進歩のため唯一最高の価値と見なしてきた競争と効率の社会は、人の心を荒廃させ、人間関係を破壊しつつある。強者と弱者との格差は極端に拡大し、社会秩序は強者による支配の道具になった感がある。自然破壊を防ぎ、人と自然の共生のために私たちが重ねているささやかな努力こそ、いま輝きを増しているのだと私はひそかに心をいやすのだ。

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原稿を頂いてから発行までの日がたちすぎた。アフガニスタンの現況はどうなっているか各自、ご判断ください。<編者>

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