『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

1999年9月創刊。≪阪神道路問題ネット≫交流誌のブログ版。『目次』のカテゴリーからの検索が便利。お知らせなども掲載。

『みちしるべ』斑猫独語(13)**<2002.7. Vol.18>

2006年01月07日 | 斑猫独語

澤山輝彦

<第三の男、石畳>

 録画しておいた映画「第三の男」をみた。何度目になるのか見るたびにまた何か新しいことに気がつく。有名なチターが奏でる主題歌と共に映画は始まる。舞台は第二次世界大戦直後のウィーンで、英米仏露四ヵ国の共同管理下にあると説明される。私はこれまで四ヵ国共同管理と言えばベルリンだけしか知らなかったから、これも今頃になって気づいたことの一つだ。

 死んだはずの男は生きていた、というのがこの映画のポイントで、その男が現れる場として観覧車が使われる。米国の作家レイ・ブラッドベリーの短編に観覧車の回転が早くなったり、逆回転するとともに、乗った男が年をとったり、若返ったりする話がある。観覧車の回転と生死、老若などを組み合わせるのは、輪廻転生という仏教的な考え方と結びつかないだろうか、と考えたのだがこれは考え過ぎだろう。

 この白黒映画の光と影の扱い方は、豪華絢爛なカラー映画とは対極をなす物であり、かえって高い精神性を示していると思う。クローズアップされた顔、その目の動きは「目は口ほどにものを言い」を画像で証明している。こんなことも今になって気がついた。

 これまでTVや映画で外国の都市風景を見ても何かを深く考える事もなかった。あれはその国の風景だ、ですましていたが、今度「第三の男」を見て、あの都市景観をデザインしているのは石造建築なのだったと分かった。外国から木と紙の建築文化と言われる日本には、都市としての機能を果たしながら、木と紙で外国人を感嘆させる景観を持つ所はあるだろうか。昨今では無理な注文かもしれない。それでも点として保護されている木造建造物は各地にある。だが止まることを知らない風景の破壊が続く日本ではそんな景観をも撹乱または分断してしまう。無遠慮な高速道路の建設や巨大高層建築にそれが言える。

 日本の大規模な石造物として巨大な石室を持つ古墳や、城郭の石垣はあるが、住居としての石造建築はないようだ。ウィーンはもとより、ヨーロッパでは空へ伸びる大きな石造寺院の存在など、石造建築と生活が結びついた風景がある。日本とヨーロッパを石造建築で比較するのは無理だ。

 「第三の男」の随所に見る石畳がすばらしい。もちろん映画では計算づくの照明と卓越したカメラワークで効果満点の撮影をしてあるのだし、ひょっとすればセットかもしれない。だがあの石畳の映像の持つ雰囲気は何か神秘を感じさせる。日本の古い街道には石畳を残すところがある。今の日本の主要道路に一部でも石畳舗装になっている所はあるのだろうか。社寺の参道、境内、観光地の一部分、私が知る物として京都祇園の白河北側に沿って石畳の道が作られている。それぞれの場所でいい効果を出している。今、たとえ短くてささやかなものでも日常生活に利用されている石畳の道は存在価値が認められ本で紹介されたりする。そんな所の一つが私の生まれ育った大阪市福島区野田にあるのだ。

【写真1】この道は福島明博著、写真集「大阪百景」1993年 大月書店刊に掲載されている。両入り口に門の跡がある静かで小さな露地だ。ここを抜けると小学校に出る。私はここを校長先生に手をつないでもらって学校へ行ったことを覚えている。

【写真2】海老江にも石畳の道があった。ここは国道2号線に通じる便利のいい道だ。車の乗り入れは禁止されているが、人や自転車、単車はけっこう行き来している。地元の人々が維持管理している。

【写真3】国道2号線の大阪市北区と福島区の境目あたりを出入橋という。地名の出入橋は堂島川から梅田貨物駅まで通じていた掘割に架かっていた。埋められた掘割の上を高速道路空港線が走っている。橋は今も残っていて、この橋の上が石畳になっている。石畳のことを考えだしてから自転車で走っていて偶然見つけたのだ。この石畳は保存の値打ちがあると思う。残したいものだ。

 大阪に市電が走っていたころ、道路の軌道部分には石が敷かれていた。市電が自動車交通の邪魔だとして撤去されていくと、不要になった敷石をとりこんで露地に敷いたところがあるようだ。福島区内にほんとうに小さいがそんな所を数ヵ所見つけた。大阪市内には他にもきっとこの石を使った石畳の道があるにちがいない。

 雨には雨に濡れる石の情緒を楽しむことが出来、少々の車との共存も許してよい、人が安心して歩けるこんな石畳の道なら各地に出来てもいいのだ。

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