澤山輝彦
<なぜかキューバが気になって>
イナバウアーという言葉を流行させたトリノ冬季オリンピック、ジタンの頭突きが出たサッカーのワールドカップドイツ大会、どちらも半年ほど前に我々を熱狂させたことなのに今(2006年11月)考えるともうずっと以前の事だったような気がする。世の中というものはじつに目まぐるしく動いているものだなあ、と考えてしまいそうだが、この目まぐるしさはメディアによって増長されているものだから、自分自身の感性をしっかり持たないと、またたくまに月日はたってしまうのだ。甲子園高校野球大会もメディアによって与えられるこんな催し物の一つだ。今年の夏の甲子園高校野球大会の決勝戦は延長再試合という予測しなかった試合になり、早稲田実業が優勝した。この両チームはその後の兵庫国体で再び顔を合わせ早実が勝つのである。早稲田実業は、王監督の出身校だ。
WBC・ワールドベースボールクラシックというのがあった。日本チームは王監督にひきいられて参加、どういう試合の仕組みがあったのか、日本は韓国に二回負けているのに優勝したのである。優勝を報じる号外が出て、その取り合いでケガ人も出たそうで、たかが野球ではないか、ケガまでして号外をとるなんて馬鹿な、と私はののしったのだ。
WBCはアメリカ大リーグ機構などが中心となって作ったものだ。世界的に見れば野球人気はサッカー人気の足元にも近寄れない。(サッカーと呼んでいるのは日本など少数でフットボールと言う方がはるかに多いこれが正式であろう)野球が盛んな国は少ないからだ。野球をするには道具がいる。道具をそろえるには金がかかる。貧困な国では遊びとして簡単に野球をすることは出来ない。だが蹴るボールが1個あればサッカーは出来る。これがサッカーの裾野を広げている。ということは貧しい国が多いということなのだ。野球が流行るアメリカでサッカーが流行らないのには別のわけもあるのだが。
そんな野球王国アメリカは自らが牛耳ることが出来る世界大会がほしかった。そこでアメリカ主導のWBCを発足させる。アメリカ主導だから、最初のうちはアメリカの敵であるキューバを「よしたれへん」と言っていた。キューバは野球が強いのだ。なぜキューバで野球なのか、これはキューバが地理的にアメリカに近いことも一つの理由になると思うが、だったら陸続きのメキシコやカナダでだって野球が盛んであってもいいのだが、もうちょっとなにか違うわけがありそうだ。キューバの歴史を調べればその中にわけがみつかるかもしれない。それはそれとして野球の強いキューバ抜きの世界大会では値打ちが下がる。そこで急場しのぎか渋々だったかは知らないが、とにかくキューバを参加させたのだ。そしてアメリカは敗退するがキューバは決勝にまで進出するという結果になった。
キューバはフロリダ半島の目の先にあり、アメリカがいじめ続けている社会主義の国だ。東西冷戦という構図が無くなって久しい今日、陸続きの国境で揉め事が頻発するというわけでもないのに、こんな小さな島国一つを、社会主義国家である、というだけでアメリカは目の敵にし続けているのである。アメリカは弱い者いじめを楽しむ嗜虐的な国なのだろうか。こんなアメリカのやり方は漫画ドラエモンに出てくる“いじめっ子ジャイアン”にも劣る。ジャイアンのいじめは執拗ではなく、やがて一緒に遊んだり冒険に出たりするのだ。アメリカはキューバのグアンタナモに基地を持ち年間4000ドルで借りていると聞いた。勝手なことはしているのだ。
キューバ、私がその名を覚えたのは戦後早々、6、7才のころキューバ糖からである。戦後の食料事情の悪い時、何故か砂糖、キューバ産のものだったからキューバ糖と呼んだ砂糖の配給があったのだ。当時、砂糖は欠乏していて、甘味料というとサッカリン、ズルチンという今なら使用停止になるだろう合成甘味料を使っていたのを覚えている。そんな時代に母がおやつにカルメラを作ってくれたが、材料はキューバ糖だったのだろうか。キューバは砂糖の生産国だからサトウキビから作る酒、ラムの産地でもある。数年前私は「カリビアン・クラブ」というキューバ産のラムを知った。うまいラムだった。しばらく続けて飲んだ。だがなぜかこのラム入手しにくく、購入先のカタログから消えて久しい。
私は酒はストレートで飲むのが本道だと思っているからラムもストレートで飲むが、ラムをベースにしたカクテル、キューバリブレは道をはずして愛飲している。カクテルと言っても基本的にはラムをコカコーラで割っただけのものだ。キューバリブレ自由キューバの響きがいい。ところでなぜコカコーラ=米国、ラム=キューバが手をにぎっているのだろう。今は犬猿の仲になってしまったアメリカとキューバだが、キューバがスペインから独立する時、アメリカが助けたからで、キューバリブレはその頃に生まれたのであろう。その後キューバには革命が起こり、社会主義国家となる。キューバでは今もこれを飲んでいるのだろうか。そうだとすればキューバの人達の屈託の無さのなせるところであろう。いじめのアメリカでのキューバリブレの位置付けは反社会主義、反カストロの資本主義国家キューバ再来を意識しての飲み物なんだろうと思う。もう一つダイキリというカクテルがあり、ヘミングウェイとこのカクテルの話は有名だそうだがどんなことか私は知らない。
もう今では昔語りかもしれないが、東京キューバンボーイズという楽団があった。マンボのリズムの軽快な演奏をしていたいい楽団であった。
私の好きな歌、ラ・パロマは「我が船ハバナをたつとき」と歌い出している。首都ハバナ。ハバナの旧市街は世界遺産だそうで、過日NHKTVでその街を紹介しているのを見た。そこではキューバの子供たちが板に何かの車をつけたもので路上を走って遊んでいた。それは私が戦後した遊びと同じものだった。1950年代の古いアメリカ車が一寸苦しそうだがまだまだ走っていて、そんな車が写っている街の風景は旅行会社のパンフレットにまで出ている。これら古い車の修理風景はもうほとんど解体作業に近いものである、とごく最近キューバを訪れた知り合いの画家の紀行文にあった。そんな光景を見たり聞いたりして「もったいない」という言葉はキューバには通用しないなと思った。「もったいない」は浪費を続ける国や人々にだけあてはまる言葉である。消費を煽るモデルチェンジを繰り返し、手入れをすれば長く乗り続けることが出来るだろう車を早々と買い替えに走らせる、「もったいない」は先ず自動車産業に向けたい言葉だ。
今、私の住む街で、粒大ごみを捨てる日にごみの集積地を見ると大人用や子供用のまだまだ乗れる自転車が捨てられていない日は無い。まことに「もったいない」のである。これを見るたび思い出す事件がある。大阪港に入った船のキューバ人乗組員が子供用自転車を盗んで捕まったという事件があった。キューバの子供に持って帰ってやりたかったのだそうだ。この事件が起きたのはマータイさんと言うよその国の人から「もったいない」ぞ、と言われないと気がつかない浪費に陥ってしまった時代が始まるまだずっと前の出来事であったが、そんな自転車を集めてキューバの子供たちに送ってやる運動をしたいなあ、とわりに真剣に考えたのだった。
キューバとアメリカの関係改善はアメリカの出方次第だ。アメリカがキューバのやり方を認めればそれで済むのだ。たかが野球と毒づき、ラムを賛歌した私はここに来て外交評論もしてしまうのである。野球や競馬やサッカーに、マスコミにあおられる大多数の日本人、彼らはまじめでおおらかで性質がすなおでねじけていない人達だ。こんな人が大勢いるのだから、日本の未来は明るいはずだ。こんな人達が憲法第9条を守ろうと言ってくれたら、日本は世界平和大会・WPCワールドピースクラシックで絶対優勝できる。マスメディアの在り方がいかに大事かよくわかる。
首都ハバナの名を冠した「ハバナクラブ」という名のラムもある。これはカリビアンよりもよく出ているようだ。とりあえずなんでもいいからラムを買い、キューバリブレで乾杯といこう。
王監督はWBC優勝が評価され、正力賞を受賞した。(11月7日)王監督は「WBCは半年も前のことで、自分のなかでは過ぎ去った試合だった」と感想を述べている。(発行が延びた結果このことが追加出来た)
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