『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

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『みちしるべ』道路環境基準の基礎知識③**<2001.9. Vol.13>

2006年01月05日 | 基礎知識シリーズ

道路環境基準の基礎知識
道路に関する環境基準の現状と問題点 Vol.3

世話人 藤井隆幸

4-2 音の聞こえる範囲

 人が聞くことの出来る音の範囲は、周波数帯で言うと個人差はあるとしても、だいたい50~20000Hzの範囲といえる。これより小さい周波数帯や、大きい周波数帯の音が存在しても、人は認識することは出来無い。

 最近、低周波空気振動の健康被害が問題となっている。めまいや吐き気をもよおすというのである。周波数が低すぎて聞こえないのであるが、気分が悪くなるので問題視されている。西名阪道の香芝高架橋が発する超低周波音が裁判になった時期には、環境庁は実態調査と規制をサボタージュしたのであるが、当該裁判が和解で決着したことで、調査に乗り出した。問題とされている原因は、近隣のエアコン室外機のモーターが発する振動音である。

 阪神高速3号神戸線では、香芝高架橋より大きな低周波音が発生していることは確認されている。しかしながら、一般騒音が余りにも大きな問題となっているため、問題視されにくい面がある。とにかく、周波数の低い音は、人の聴覚では認識できないことを、ここでは理解して頂きたい。

 また、ドッグ・ホイッスルと言う物の存在をご存知だろうか。訳して『犬の笛』と言う物である。非常に高い周波数の音を発するため、人には聞こえないが犬は聞くことが出来る為、犬の訓練に使われることが多い。

 このように、人の認識できる音には、周波数という制限がある。その為に、騒音を測る場合には、一定の工夫があることを知っておきたい。

4-3 騒音計の周波数特性

 騒音計にはダイヤルが付いていて、CとAに変更出来るようになっている。C特性とかA特性と呼んでいるのであるが、C特性の場合、総ての周波数を平等に感知するようになっている。それに対して、A特性の場合、人の聞き取りにくくなる周波数帯から、感度を低くしてゆき、人の聞こえない周波数帯は感知しないようになっている。

 騒音を問題にする場合、総てA特性で計測されていることを認識しておく必要がある。騒音を表記する場合65dB(A)などと書かれているのは、A特性で計っているという事を表したものである。

 高架高速道路では、低周波音が問題とされているが、環境庁は最近になって低周波空気振動の測定マニュアルを示している。しかしながら、小さな自治体では低周波測定器が完備されていない。そこで、二台の騒音計を用意して、一方をC特性で測定し、もう一方をA特性で測定し、高周波音が自然環境中では小さいことから、その差を低周波の大きさとみなして、測定する方法を採っている人もいる。

 とにかく、人が不快に感じるのは可聴騒音に限定し、人が聞こえる範囲の周波数帯に限るということである。従って、A特性で測定することになっている。しかしながら、低周波空気振動も音であることには違いない。今後の環境省の規制措置に注目する必要がある。

4-4 音の大きさとデシベル

 次に、音の大きさの表し方を説明しておきたい。人は蚊の飛ぶ羽音の大きさから、ジェット機の爆音の大きさまで認識することが出来る。その間のエネルギーの差は、天文学的な数値差になる。騒音をエネルギー値で表した場合、何十桁の数値で示さなければ、その差を表すことが出来ない。非常に面倒なこととなる。

 また、人は音のエネルギーが10倍程度で、音量が倍になったと認識することがわかっている。その事から、騒音値を人の感性に近いものとする為、dB(デシベル)という値が採用されることとなった。dBは対数によって出来ている。

 ここで高等学校程度の数学の説明をしなければならないかもしれない。対数というものを思い出してもらわなければならない。しかしながら、紙数の関係で無理と考える。そこで次のように覚えておいて欲しい。音量が2倍になると3dBプラスする、3倍になると5dBプラスする、5倍になると7dBプラスする、10倍になると10dBプラスする。近似値であるが、この程度のことが頭にあれば、騒音測定に関しては何とかなるものである。

 具体的に、ある道路端で騒音を測ったとする。10分間交通量が300台の時、60dB(A)であったとする。暫くして測り直したら、交通量が2倍の600台になっていた。その時の測定値は、63dB(A)になっている筈である。同じく交通量が5倍の1500台になっていれば、測定値も67dB(A)となるのである。また、別の道路端から2mのところで騒音値が70dB(A)であった時、同時に道路端から3倍の6mのところの騒音値は65dB(A)である筈である。同じく10倍の20m地点では60dB(A)になっている。

 この程度の理解が出来れば、わざわざ高等学校の教科書を引っ張り出して、勉強しなおさなくても間に合うと思われる。

4-5 騒音の測り方

 具体的に騒音を測る方法を説明することにする。道路騒音は常に変動しているものである。騒音計を記録計につなぎ、記録計のチャート(ロール・ペーパーが少しづつ動き、インクの出る針が騒音値を記してゆく記録紙の線形)を見ると、ギザギザの線が乱雑に並んでいる。これの何処を見て、何dB(A)というのか。それについては日本工業規格のJIS Z 8731に示されていて、それに準拠して測定値を決めることになる。

 毎正時(時計の長針が12を示す時)から5秒間隔に、瞬間値を100個記録する。チャートに記録された線を、5秒で区切られた桝目と交差する点で、数値を100個読むことになる。この数値の処理の仕方に、2通りある。その方法は次に説明することにするが、1時間の内、5秒×100個=500秒=8分20秒の間だけ計測することになっている。そして24時間、これを繰り返すのである。

 環境庁告示第64号「騒音に係る環境基準について」(98/9/28)が出され、騒音の環境基準が平成11年4月1日から変更されている。しかしながら、変更前に都市計画された道路については、旧基準が守れなければならないので、当面、新旧両基準を理解していなくてはならない。

 1時間に100個採ったデータの処理方法であるが、新旧環境基準で違っている。旧基準では『中央値(L50)』を抽出し、新基準では『等価騒音レベル(Leq)』を抽出することになる。中央値は100個のデータを数値の大きいものから並べなおし、大きい方から50番目の数値を中央値と言う。ついでに、大きい方から5番目を上端値(L5)と言い、95番目を下端値(L95)と言う。

 何故、このような面倒なことをするのか。100個のデータを平均すれば良いではないか。問題はdBは対数であると言うことである。対数は自然数とは違い、足して100で割っても、平均値は出てこないのである。一旦、dBをエネルギー値に換算して、その平均値を出し、それをまたdBに直さなければならない。このような膨大な計算が難しく、中央値と言う方法が採られた。

 しかしながら、コンピュータの発達で、その様な膨大な計算も瞬時に出来ることになった。それが等価騒音レベルと言うものである。今日、騒音計を記録計に接続し、チャートを採ってデータの計算をしなくても、騒音計を専用デジタル計算機に接続し、セットするだけで良い。24時間の上端値・中央値・下端値・等価騒音レベルを自動的に測定・算出してくれる機械が出来ている。

4-6 中央値と等価騒音レベル

 欧米先進国では、既に等価騒音レベルが採用されて久しい。中央値よりも等価騒音レベルの方が、人の感性に近いことが理由になっている。環境庁が新環境基準で、等価騒音レベルの採用に踏み切ったのは、国道43号線訴訟の判決が最高裁判決と言う、動かしがたい決着をしたという事である。その中で、等価騒音レベルが採用され、最早、無視できなくなったからである。等価騒音レベルは中央値よりも高くなる傾向があるから、採用したくなかったのである。

 国道43号線のような大型幹線道路の昼間に於いては、中央値と等価騒音レベルの差は1dB(A)程度である。しかし、夜間になると5~7dB(A)と、その差は大きくなる。日交通量が数1000台程度の或る市道のデータでは、昼間でも8dB(A)程の差があるし、夜間は11dB(A)もの差が生じている。

 車の走行が途切れるような状態の場合、中央値では随分数値が下がってしまう。特に途切れた時間の方が、走行している時の時間を上回った場合、極端に数値は下がってしまう。ところが、人が感じる騒音感は途切れたから低下するわけではない。等価騒音レベルの場合、騒音のエネルギー平均である為、いくら車の走行が途切れても走行中の騒音を確実に評価する。

 従って、中央値と等価騒音レベルの差は、上端値と下端値の差が大きいほど、その差も大きくなると言うことがいえる。今日、騒音測定にあたっては、上端値・中央値・下端値・等価騒音レベルを共に測定するのが一般的であるが、その辺の理解の下に当局と対する必要がある。

5-1 次回の予告《新旧の環境基準の比較》

 《騒音の話》を一応理解して頂いたことで、次に騒音の新環境基準の問題点を、旧基準と照らしながら説明したい。最近は道路騒音の問題が、マスコミの話題とならなくなった。国道43号線訴訟が終結したこともあろうが、新環境基準が余りにもでたらめな為、環境基準をオーバーする幹線道路が無くなってしまった為ではないか。反面、騒音が問題にならない道路で、環境基準がクリアー出来ないケースがあるのではないか。その辺りの解明をしたい。

 19年の国道43号線訴訟は最高裁で勝利したが、結果として、環境基準の大幅改悪を許すことになった。今後の道路に関する住民運動に与える影響を考えると、勝利と喜んでいられない気分である。

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