『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

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『みちしるべ』道路公害被害の基礎知識 Vol.3**<2005.3. Vol.34>

2006年01月12日 | 基礎知識シリーズ

道路公害被害の基礎知識

国道43号線の実態から Vol.3

世話人 藤井隆幸

4-2 自動車排ガス測定局とは

 日本全国に大気汚染を観測している施設は、2000ヶ所程度設置されている。少し資料が古いのであるが、環境庁(当時)が平成10年度にまとめたものでは、一般環境大気測定局は1,466ヶ所、自動車排出ガス測定局は392ヶ所になる。

 一定規模の自治体には設置が義務付けられており、尼崎市・西宮市は設置が義務付けられている政令都市で、芦屋市はその政令都市にはなっていない。従って、芦屋市には兵庫県が設置しているものが存在する。しかしながら、芦屋市も現実には独自にいくつか設置しているのも事実である。また、道路公団などが設置費用を出し、自治体が管理しているものも多いようだ。

 自治体によって呼称は違っているが、幹線道路沿いに設置するものを自動車排出ガス測定局といい、その他のものを一般環境大気測定局と呼んでいる。一般環境大気測定局は、その地域の大気を代表しているところに設置することになっている。また、自動車排出ガス測定局は、その幹線道路から発生する排気ガスの影響が反映される代表的な地点に設置することとされている。

 とは言いながら、2坪程度の建家と、それが収まる広さの土地が必要である。都市部では、簡単に場所が決められるわけではないのも事実である。

4-3 自動車排ガス測定局の数値の比較

 日本人は活字と数値に弱いといわれる。その幹線道路の大気汚染の度合いを見る場合、その幹線道路に設置してある自動車排ガス測定局のデータを見ることになる。それは間違いであるとまでは言わないが、実態を反映したデータが得られるとは考えられない。数字のマジックが存在するのである。

 国道43号線道路公害訴訟では、被告側の国と阪神高速道路公団は、国道43号線はたいした大気汚染の状態ではないと、常に主張してきた。その根拠が国道43号線に設置してある、自動車排ガス測定局のデータであった。全国の自動車排ガス測定局のデータを比較して、国道43号線の自動車排ガス測定局のデータは、上位には出てくることがないというのである。

 国道43号線公害訴訟弁護団では、国・阪神高速道路公団の主張するワースト記録をもつ、首都圏にある道路を視察に行ったことがある。現地の沿道住民には失礼になるかもしれないが、国道43号線に較べて、取るに足らない公害道路ばかりであった。二階建て道路は殆ど無く、交通量も大型車の混入率とその車種も、国道43号線とは較べようもない小規模の道路であった。

 そこで弁護団はデータの根拠となった、それらの道路の自動車排ガス測定局も視察に行くことにした。ワースト記録を持つ自動車排ガス測定局は、サンプルになる大気の吸入口が、道路の中央分離帯に設置してあったり、交差点の直近であったり、歩道が無くて車道端0mの地点にあったりした。概して1m程度の低い位置に設置されているものが多かった。いずれにしても、自動車の排気管から数メートルの距離にあるものが大半であった。

 一方、国道43号線の自動車排ガス測定局といえば、交差点からは近くても数100mは距離がある。車道端からは最も近いもので、10m以上の距離があり、最長32mもある。また、広い公園やグランド、または天井川の堤にあったりして、非常に風通しの良い所ばかりである。大気の吸入口も低いものでも1.5mで、高いものは4m程度である。阪神高速道路対策の自動車排ガス測定局などは、三階建ての小学校の屋上に設置されている。

 これらを比較するということは、体重を比較するのに、熱帯魚は水槽ごと量り、ナマズは干物にして量るようなものである。

4-4 排ガスの距離減衰について

 それでは、大気汚染の発生源からの距離減衰は、どれほどになるのであろうか。これも資料が古くて申し訳ないが、尼崎市が国道43号線で行った窒素酸化物の距離減衰の調査がある。簡易測定法(PTIO法)により、88/5/16~18・88/9/6~8・89/1/17~19の調査の平均値を示す。

 

 このデータを見る限り、車道端と20m地点では20ppb程度の差が生じるものである。自動車排ガス測定局と幹線道路の位置関係を考慮しなければ、測定局のデータを見ただけでは、その道路の大気汚染の度合いは比較しても意味が無いことが分かる。そのことを理解しなければ、その道路の本当の公害は理解し得ないということである。

4-5 70年代後半から測定局の移動が行われている

 自動車排ガス測定局は、対応する幹線道路の状況を反映した場所に設置することになっている。しかし、何処が最も相応しいのか、判断は行政と住民の間でかなりの隔たりがあるといわざるを得ない。その位置関係によって、データに大きな差が出てくるのは、理解していただけたと思う。

 71年に厚生省から分離され、環境庁が発足した。当初、環境行政は目覚しく発達すると考えられたし、当初の環境庁の努力は評価すべきものであったと思う。ところが、出る釘は叩かれて、産業界の猛反発を受けることになる。二酸化窒素の環境基準が、中央公害審議会にもかけられず、3倍に緩められたのもその反映であるといえる。

 そのような背景の中で、一般には知られていない事態が進行していた。一般環境測定局も自動車排ガス測定局も、環境基準に対しデータが高い水準で推移している。大気汚染が緩和できないのであれば、測定局の位置を移動させて、測定局のデータを下げる試みがなされだした。各地の自治体で調べてみると、結構、測定局の場所が移動させられている。止むを得ない事情の場合も無いことは無いが、大抵は意味不明の移動である。そして、必ずと言ってよいほど、移動後のデータは下がっている。

 それにしても、毎年環境省がまとめている全国のデータは、一進一退を繰り返している。もしも、測定局の移動が無ければ、どのようになっているのだろうか。毎年測定局数は増加してきている。それらの増加した測定局の位置は、適切な場所になっているのであろうか。測定局のデータを無意識に受け止めていると、それはとんでもないことである可能性がある。

4-6 まとめ

 自動車排ガス測定局は、サンプル大気の吸入口が如何になっているかで、そのデータを判断しなければ、実態がつかめなくなってしまうということである。測定局は連続的に測定しているのであるから、経年変化を知るのには便利である。しかし、一点だけのデータしか測定できず、万能ではない。

 そこで提案したいのであるが、NO2のカプセル調査を実施する際は、測定局とリンクさせて行うことが重要である。そして、測定局の弱点を克服し、面的な汚染状況を掌握することが肝心である。

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