『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

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『みちしるべ』道路交通工学を考える*道路交通容量について②**<2006.1. Vol.39>

2006年01月14日 | 基礎知識シリーズ

道路交通工学を考える

道路交通容量について②

世話人 藤井隆幸

3-1 交差交通について

 前回は単純道路の交通容量について考えてみました。しかしながら、実際の道路と言うのは、そう単純なものではありません。基本的には単純道路の交通容量の考え方がベースになりますが、現実の道路には交通容量を制約する様々なものが存在します。その代表的なものが、交差交通です。

 一般道路には信号機が沢山あります。西宮から三宮まで国道2号線を走ると、距離は20kmです。時速40km/hで走ったならば、30分で到達する距離です。しかし、現実には渋滞も無くスムーズに走れたとしても、40~50分はかかってしまいます。それは信号待ちをする時間と言うことになります。

3-2 阪神間の南北交通問題

 かつて阪神間南北高速道路の計画が、2度にわたり持ち上がったことがあります。行政当局の言い分は、阪神間では東西交通路は発達しているが、南北交通路が遅れていて問題だ。ところが、それは地理的・社会的・歴史的な必然であって、解消すべき問題ではないのです。

 神戸~西宮にかけては、瀬戸内海と六甲山脈に挟まれた、南北1~2kmの狭隘な平地が広がっています。その東西の端には神戸市と大阪市と言う、人口150万人と250万人の巨大都市が存在します。物流に於いても、神戸港・大阪港という巨大な物流発生源があります。当然、東西の交通需要は膨大になりました。

 阪神高速大阪湾岸線(交通容量15万台)・同神戸線(同10万台)・国道43号線(同8万台)・国道2号線(同6万台)・その他の県市道(同6万台)があり、東西の交通容量は45万台もあります。30~40kmの都市間に、これほどまでに交通容量を保持している地域は、全国的に見ても例が少ないのは当然です。

 一方、阪神間の南北の交通需要といえば、東西に比べれば1つ桁が少ないくらいでしかありません。従って、現在の南北道路交通路は、充分にあるというべきなのでしょう。一部の人の中には、南北で渋滞して困った経験から、不充分との意見もあるでしょう。しかし、それは自動車交通と言う無政府的(行政がコントロールしないから)な特殊性から、仕方の無いことなのです。南北が渋滞する時は、必ず東西も渋滞しているのです。

 これ以上、東西交通路を建設すると言うと、地域住民は暴動を起こして当たり前です。それくらい東西道路公害は凄まじい状態なのです。もし、南北交通路のキャパシティーを増やしたならば、必ず東西交通路の障害物となります。自動車交通と言うのは、交差側を有利にした分、必ず反対側の交通の支障になるというのが、厄介な存在なのです。

3-3 交差点の分析

 何故そうなるのかが、今回の主題というべきものです。例えば、下記のような交差点を考えていただきたい。


 左右の交通は、上下交通が無ければ時間交通容量は4000台(前号参照)あることになります。一方、上下の時間交通容量も4000台です。しかし、それぞれに対する交差交通を通過させるのには、信号機の設置が欠かせません。信号機が無くても交通事故になりにくい時間交通量は、せいぜい200台までです。双方の時間交通量が200台を超えてくると、信号が無くては危険極まりない状態です。

 そこで双方の道路に割り当てられる青信号の時間割合です。左右方向に6割、上下方向に4割とします。そうすると時間交通容量は、左右2400台・上下1600台に激減してしまうのです。今回は考察しないのですが、右折車があると、更に時間交通容量は激減することになります。

 左右の道路に、更に上下方向の道路が交差すると言うことは、左右の道路の交通容量をもう少し減らすことになるのです。

3-4 立体交差は交通容量拡大の効果はあるか

 そこで議論になるのが、道路の立体交差化です。実際に渋滞の酷い交差点を立体交差させて、渋滞を解消した例は多くあります。しかしながら、実際は立体化した方向を優先しただけで、その交差道路の交通容量は増えません。

 

 上図は立体交差化の典型的な模式図です。立体交差以前の時間交通容量は左右方向が2400台であったものが、4000台に増えることになります。しかし、上下方向の時間交通容量は、1600台から増えることはありません。

 左右方向の道路から、右行きの右左折車と左行きの右左折車をさばくために、それぞれ3割の時間帯の青信号を割り当てたとします。残る4割の時間帯に上下方向の青信号が割り当たられることになります。従って、立体交差後も交通容量は増えないことになります。

 ただし、立体交差以前は右折車の問題がありました。立体交差では左右の交通の、この問題が解決しますので、実際は効果があることに違いはありません。が、立体交差には莫大な敷地を確保しなければならず、建設費は膨大になります。一体、費用対効果の面では如何なのでしょうか。

 右折車対策としては右折レーンの設置があります。右折レーンの設置は、土地の確保も立体交差より遥かに少なくて済みますし、建設コストも工事期間も少なくて済みます。立体交差で渋滞を解決しても、次の交差点問題が発生します。一つの渋滞箇所を解決したために、新たな渋滞箇所が出来ると言うのは、阪神間では常識になりつつあります。

 それでも立体交差が必要なのか、考えてみる必要がありそうです。

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