夜噺骨董談義

収集品、自分で作ったもの、見せていただいた品々などを題材に感想談など

秋景山水図 木島桜谷筆 その3

2015-04-18 05:51:25 | 掛け軸
頒布会でも売っていそうな作品・・?? ところがよく見ると作品には・・・・・。

秋景山水図 木島桜谷筆 その3
絹本着色軸装 軸先 共箱 
全体サイズ:横660*縦2190 画サイズ:横510*縦1270



木島桜谷の代表作品である「寒月」には入選した第六回文展についてよく知られているエピソードが二つあり、ひとつは評論記事を連載した夏目漱石に酷評されたこと。

もうひとつは・・横山大観が後年この受賞について、「審査員内で第2等賞内の席次を決める際、大観が安田靫彦の「夢殿」を第1席に推すと、木島桜谷の師である今尾景年が「寒月」(大正元年(1912年) 第6回文展2等賞第1席)を第1席にしないと審査員をやめると抗議し、その場で辞表を書いて提出したため、大観が妥協した。」と回想しているおり、師である今尾景年の過剰なまでの推薦があったことです。この推薦が反動となって画壇から嫌われたことがうかがわれ、結局はその後、熟達した筆技も過小評価されています。



夏目漱石が酷評した理由は定かではありませんが、桜谷の絵は西洋絵画的写実を取り入れたことによって生じる日本画らしさの欠如や矛盾、わざとらしさが鼻についたのが理由と考えられます。当時の漱石は、絵でも書でも作為や企みが感じられるものを嫌悪する性向があり、「寒月」のような技巧を重ねた作品は、漱石の好みとは合わなかったと推測されます。

しかしながら、明治30年代以降の日本画において、西洋絵画的な写実感の導入は重要な課題であり、先輩格にあたる竹内栖鳳が先鞭をつけ、桜谷の制作も同じ方向性の上に成り立っています。桜谷は「寒月」において、竹林を描くのに当時新たに開発された荒い粒子をもった岩絵具を用い、巧みな付立て技法で明暗・濃淡に微妙に変化をつける事で、日本画でありながらザラザラとした物質感を感じさせる油絵のようなマティエール(絵肌)と、劇的なリアリティの表出に成功しており、現在では高く評価さている作品のひとつです。

その後、昭和に入ると平明な筆意の作風となり、帝展にも変わらず出品を重ねます。昭和8年(1933年)の第一四回帝展を最後に衣笠村に隠棲、漢籍を愛し詩文に親しむ晴耕雨読の生活を送りました。しかし、徐々に精神を病み、昭和13年11月13日枚方近くで京阪電車に轢かれ非業の死を遂げます。享年62才でした。



桜谷は大正元年9月に京都近郊の田園地帯にあった衣笠村の土地を買得し、建物は翌年から大正3年にかけて順次建設されました。現在は「櫻谷文庫(おうこくぶんこ)」として遺されています。桜谷が当地に転居したのが契機となり、土田麦僊、金島桂華、山口華楊、村上華岳、菊池芳文、堂本印象、西村五雲、小野竹喬、宇田荻邨、福田平八郎、徳岡神泉などのそうそうたる日本画家が移り住み、「衣笠絵描き村」と呼ばれました。他にも、洋画家の黒田重太郎、映画監督の牧野省三も近くに住んでいました。それまでは四条派という言葉通り、洛中に居を構えることが多かった画家たちが、自然環境に恵まれ眺望に恵まれた衣笠村に移り住んだ事実は、近代の日本画家が求める表現、或いは日本画家に求められた職能の変化を物語っているといえます。



木島桜谷の画風は四条派の伝統を受け継いだ技巧的な写生力と情趣ある作品で、「大正の呉春」「最後の四条派」と称され、冴えた色感をもって静かに情景を表現してゆくのがその特徴となっています。



その作品からは対象への深い洞察・細やかな愛情が感じられ、観る者に安らぎや心地よさを感じさせる清らかな画風と言えるでしょう。



現在では展覧会出品作ですら多くが所在不明だそうです。



作品は初期、中期、晩期でガラリと画風が変わっています。初期は正統的な四条派の画風を受け継いだ絵を描いていますが、中期には琳派の画風を取り入れたり、西洋風の写実的な作品を描いたりしています。



晩期は南画風の文人画が多くなっています。



さて本作品がどの時期の作品かは当方では詳しくないので断定できかねます。解りやすい画題で「大正の呉春」と称されたことが納得できます。



遠景の朦朧たる描き方で「平明な筆意の作風で観る者に安らぎや心地よさを感じさせる清らかな画風」という表現がぴったりですね。




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木島桜谷:(このしま おうこく)明治10年生まれ、昭和13年没、(1877年~1938年)享年62歳。京都うまれ。名は文治朗、字は文質。別号に龍池草堂主人、朧廬迂人。今尾景年に学び、初期文展には「若葉の山」「しぐれ」「駅路の春」「寒月」と次々と名作を出品し、京都画壇の人気を一気に背負った感があった。ただし、晩年は詩書に親しんで世交より遠ざかった。旧帝展審査員、帝国美術院指定。「しぐれず屏風」(文部省蔵)は代表作。円山・花鳥・人物・特に動物の描写に妙を得ている。

  

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床の間があるなら・・、「床の間に季節毎の掛け軸を飾ってみるのもいいね。」と思わせてくれる、平明に解りやすい作品を描いている画家です。

床の間がなくても長めの額装にするのも一興かと思いますが、額が大きくなるので改装費用が高くなります。床の上に飾り板を置いて簡単な床の間にしてみるのが安上がりですね。お金をかけずにちょっとリッチな雰囲気を味わえるのが掛け軸です。

掛け軸そのものお値段は一万円くらいでかなりいい出来の作品が入手できます。



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