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仮想アイドルは現実のアイドルを駆逐するか

2016-01-11 19:14:41 | その他の雑記
 宇宙の話題じゃないですが、年末年始の気分が抜けないうちにこの話題を。。。昨年大晦日の紅白歌合戦に、『ラブライブ!』のμ's(ミューズ)が出演したんだそうで。直接観ていないのですが、どうやって出演したのかと思っていたら、声優さんのユニットが歌ったんだそうですね(アニメの上映もした?)。二次元アイドル?やボーカロイドなどが、一般の歌謡界・芸能界に進出してきているのですね。前置きが長くなりましたが、今回はこういう仮想アイドルについて。

 AKB48などの現実のアイドルは当然のごとく人気を博していますが、いずれ仮想アイドル(以降、アニメキャラやボカロなどの仮想のタレントをひっくるめてこう呼びます)のファンと勢力が逆転するのではないか、と私は思っています。「どう頑張ったって所詮は映像。現実のアイドルに叶うわけがない」とお思いの方も多いでしょう。かくいう私自身が昔。。。もとい人妻となった今でも松浦亜弥さんのファンでありまして、昭和生まれのせいか、やっぱり現実のタレントの方がいい。アキバでラブライブの看板などを見たことはありますが、セーラームーンかプリキュア? みたいなもんだとマジで思ってました。いまだに『アイドルマスター』とどう違うのかよくわからないし。
 しかしこれは個人的嗜好の域を出ない、根拠に乏しい感情論でしかなく、普遍化して主張できないと認めざるを得ません。「商品」としてのアイドルのコストパフォーマンスにおいて、「生身」が「仮想」に勝る点がほとんど思いつかないからです。
 仮想アイドルのメリットを、ファンと興業の立場から挙げると、

●ファンにとってのメリット
 加齢で容姿が変化することもないし、異性とスキャンダルを起こしたり、喫煙や飲酒、クスリその他事件を起こして裏切ることもない。引退して結婚するとかもない。とにかく堕落してファンを幻滅させることがまずない。

●興業サイドのメリット
 重要なのはこちらだと思う。ギャラを払わなくていい(声優さんをあてる場合のお金は別として)。休暇なしでいくらコキ使っても疲労しないし不満を言わない。学校に通う時間を設けなくてもいい。容姿を修正することもできる。養成学校に入れて育てる必要もない。マネージャーつけてスケジュール管理し、風紀に目を光らせる必要もない。口出したり収入でモメたりするような家族もなく、しがらみがない。いくらでも増殖させられて、同時に何か所でも出演できる。不人気になったら捨てればいいし、新しいのを生産できる。はっきり言うとただのデータだから人権に配慮する必要がないということですね。

 これを上回る生身のアイドルのメリットは何でしょう? 握手などスキンシップができる? ライブコンサートなどで生の姿が見られる? いずれ不気味の谷を越えて義体の技術が発達すれば、それもできるようになりますって。現に初音ミクはコンサートやってますしね。握手や生出演じゃなくても、それに代わる「その場だけの演出や特典」さえあれば、イベントとして成立するでしょうし。
 不思議なもので、現時点では芸能事務所が本気で仮想アイドルなをデビューさせても、ものすごく「痛い」感じになりそうな風潮があって、いまのところ仮想アイドルの誕生の場は、アニメやゲームなどの業界にしかないようです。しかしテクノロジーは発達する方向にしか進みません。これに支えられて、生身→仮想のベクトルも変わらず、しばらくの間は仮想アイドルファンの増殖は止まらないでしょう。そしてファンの人口が増えて、上手にマネージメントさえできれば、本業の芸能事務所がかかわってくる時も来るのではないかと思います。

 リアルの女の子たちの年齢は、毎年、着実に上がってゆく。いずれは引退し、結婚する。スキャンダルを起こして消えていく者もいる。あるいは清純派から脱却してヌード写真を発表したり、ドラマで汚れ役やったり──(略)

 初音ミクのライヴが何度も開催され、大成功を収めた事実は、リアル・アイドルへの遠回しな死刑宣告だった。(略)老いてゆく肉体を持つアイドルが、真に不老不死で永遠に処女のバーチャル・アイドルに勝てる要素はいったい何だ?

 あるファンが熱烈に彼女を愛していても、結婚できる可能性は限りなくゼロに近い。いやゼロと断言していい。それどころか、アイドルの結婚はファンにとって「裏切り」と映る……。(略)決して裏切ることがなく、いつまでも応援を続けられるバーチャル・アイドルの方がいいのではないか──(後略)


 上記は山本弘氏の『プロジェクトぴあの』(PHP社)からの抜粋です。仮想アイドルが現実のアイドルを駆逐していく様子を鋭く描写しているので紹介させていただきました。なお余談ですが、本作は以前紹介したことのある『地球移動作戦』の前日譚にあたる傑作ハードSFです。

 こういう仮想アイドルに慣れた世代が増えていくベクトルが反転する要素はなさそうで、いずれ勢力逆転の時が来るのではないか。ついでに言うと、世間の目を気にして公にしないだけで、実は二次元嫁を愛するオタクのサイレント・マジョリティーが存在するだろうとも思います。
 そして人間は多数意見に身をゆだねていると安心する生き物で、アイドルの嗜好についても、生身→仮想への民族移動が一定の閾値を超えると、他人の意見や価値観に引きずられる主体性のない人がズルズルついてくるものです。

 シニカルな言い方ですが、ブームというのは、他人の意見に引きずられる人間がいかに多いかということの表れです。評価の定まった価値というものは、主体性に欠けた人間の逃げ場でもあります。流行りものを肯定してもたれかかってれば、集団から浮き立つことを回避して自分を守れるからです。

 仮想アイドルの本格的台頭は、

● このまま仮想アイドルのファンが増え続け、中学校や高校など若者の集団の一つの単位の中で多数派になる
● 技術の発達で不気味の谷を越える
● 同じく技術の発達で、サンプリング以外で声優さんが不要になるほどの歌やお喋りができるようになる
● 芸能界が直接資本投下をするようになる
● アダルト分野に普及して、AVとかが作られるようになる

 ──といったことがターニングポイントになるのではないでしょうか。特に最後のポイントは、仮想アイドルの発達を影から支える、相当大きな力になりうるのではないかと。現実のAV女優さんはNGなプレイをさせたりとかね。さらに下世話なことまで言うと、アンドロイドのような義体が発達すれば、(変な言い方だが)人気の仮想アイドルを模したダッチワイフみたいなものもできて、性的な欲求まで満たされるようになるかもしれませんし。まあ現在のエロ同人誌も似たようなもんでしょうが。これでシンギュラリティポイント(人工知能が人間を超えるとされる転換点)を過ぎれば無敵になるのでは?


 もし、仮想アイドルが台頭する時代が来たとしたら、「アイドル志望の人間」はどうすればいいのか? やはり芸能界で脚光を浴びたい人はいつの時代でも一定数いるでしょう。これは消えない。そんな人たちのデビュー市場がなくなるか、極端に狭くなるという問題が生じるかもしれません。これに関しては、「それでも生身のアイドルがいい、いやむしろ欠点があるからこそ生身の方がいい」という意見も、消えずに存続するのではないかと思ます(特に女性はそんな感じがする)。CDよりレコードを愛する人がいるように。こういう市場が、生アイドルを目指す人の活路になるのかも知れません。
 ただしそれでも、現在ですらアイドルの画像に修正を加えることが可能であるのですから、生身と仮想の見た目の区別がつかなくなるほど技術が発達する時代が来たら、もはや何が現実かさえ曖昧になってしまうのではないかと思えるのです。
 以上は私的な見解ですが、施設案内のコンパニオンを映像やロボットが務めたり、将棋やチェスでコンピュータが人間のプロを負かしたりというように、デジタル化の台頭は、アイドル業界も例外なく襲っている、皮肉ですがこれは仮想ではなく現実です。

 長くなりました。昭和世代としては生身アイドルがまったくゼロになったら少し寂しいですが、人様に迷惑をかけさえしなければ、個人が何を好もうと自由だと思うので、この先どう転んでも仕方ないと言うしかない。こうした仮想現実的な状況がさらに進むとどうなるか、色々思うところもあるのですが、それはまた機会を改めたいと思います。
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