軌道エレベーター派

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なぜ月の裏側は見えないのか

2023-01-14 12:51:35 | その他の雑記
 アルテミス計画の本格始動で、今後月への関心が高まり、ニュースなどで話題は増えていくでしょうね。軌道エレベーターの話題は、そのおこぼれのような感じで、宇宙の話題のついでに触れられるケースが中心になるのではないかと予想しています。今回はその月について、天文学的な話を。

 月は常に同じ面を我々に向けていますね。これは27日と7時間43分という、月の自転周期と公転周期が一致しているからです。この自転と公転の一致を、地球と月だけの神秘的な出来事とか、何者かによる仕業のように、不思議な出来事として考えている人って結構多いようです。
 ですが全然そんなことはなく、火星の衛星フォボスとダイモスや木星の四大衛星など、太陽系の惑星と、主だった衛星の自転と公転の周期はたいてい同期しています。これは物理の当然の帰結であり、必然なんですよね。
 なぜこうなるのか。ざっくり言いますと、月の地球に向いている側がほんの少しだけ重いんです。

 太古、月の自転と公転の周期はバラバラでした。これが地球との間で潮汐による力のやりとりをして、少しずつ角運動量が減って現在の周期になった。このため、昔の月は今よりも地球に近い距離にありましたが、約38万kmにまで遠ざかり、現在も年間3cmくらいと少しずつ離れていっています。
 このプロセスにおいて、潮汐により月の(地球も)形状は自転しながら少し楕円になり、平衡に近づいたりというのを繰り返し、質量がわずかに偏っていきます。このため、偏った側の方が、少し強く地球に引っ張られます。

 この現象が積み重なり、気の遠くなるような長い時間をかけて、自転と公転の周期の一致に落ち着くまで続く。やがて重い側=現在の月の表側が、地球の側に向いて固定されたような、現在の状況になったということです。ちなみにこの状況がもっと進むと地球の自転も月の自転・公転と同期し、お互いに同じ面を向けあったままになりますが、それは100億年以上先のこと。
 というわけで、月が常に同じ面を向けているというのは当然であって、地球と月に限らず、二つの天体はすべからくこのようになる運命にあります。


 月の裏側がまったく観測されたことのなかった時代、そこには月面人が文明を築いているといった空想を、人々は膨らませていました。1930年代には三田光一という自称超能力者が、当時の科学技術では確かめようがないのをいいことに、「月の裏側を念写した」とかいってインチキ写真を公表したなんてこともありました。1959年のソ連のルナ3号以降、裏側の撮影画像がバンバン撮られるようになると「全然違うじゃねーか」と判明したわけですが。

 それもこれも、月の自転と公転の一致=裏側が見えないからですよね。こうした現象に神秘を見出すのを、人間が独りよがりな思い込みで、勝手に右往左往しただけと片付けることもできますが、人の心ってそういうもんです。
 しかも月は「秤動」といって、自転軸の傾きなどから裏側の半球のおよそ9%、裏側の端っこがほんの少しだけ見えることがあり、このチラ見だけでなかなか見えないというのが、また好奇心を誘います。
 物事にしろ人にしろ、他者に見せないミステリアスな隠れた一面を持ってこそ魅力が際立つというもので、太古から月が人類を惹きつけてきたのは、まさにこの影の部分があったからこそなんだろうなと思います。
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