軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

軌道エレベーターにとって小惑星が持つ意味

2013-05-06 21:28:47 | 気になる記事
惑星を袋でキャッチ NASA、移動技術開発へ
 米航空宇宙局(NASA)は10日、地球に近づく小惑星を捕まえて移動させる技術の開発に乗り出すことを明らかにした。今年2月にはロシアに隕石が落下し、1千人以上が負傷した。NASAのボールデン長官は「地球を守るのに役立つ技術になるだろう」と話している。 (略)
 どのような方法が最適かは今後検討するが、公表された動画では、無人の宇宙船から柔らかい素材の袋で小惑星全体を包み込み、動かす方法が採用されている。計画では2021年までに小惑星を月の近くまで運んできて軌道の安定する場所に置いておき、後から宇宙飛行士が試料の採取に向かう予定という。(朝日新聞デジタル 4月14日)


 小惑星を月まで移動させて有効活用するという構想だそうです。動画は面白いし実に興味深いのですが、そう簡単にはいかないだろうと思わずにはいられません。記事中に「どのような方法が最適かは今後検討するが(略)袋で小惑星全体を包み込み…」とありますが、いや問題はそこじゃないだろ。キャプチャする方法より重要なことがある。
 小惑星の持つ角運動量を変化させ、地球の公転と交差する軌道に乗せるのには、莫大なエネルギーが必要です。たとえ「小」なれども太陽の周りを回るだけの運動エネルギーを有する「惑星」なんですから! 一体それだけの運動量をどうやって与えるのでしょうか? 宇宙の話に不慣れな人は太陽系をつい平面で考えてしまいがちですが、軌道傾斜角の修正だって必要なわけで、核爆発を利用したって困難なのではないでしょうか。
 動画を最後まで見ると、月周回軌道に乗せる前に、いったん地球をぐるっと回ってから月に向かっています。これは地球公転軌道の前面に回り込んで、減速スイングバイをかけているのでしょう。プロセスとしては納得がいきますが、これで済むんですかねえ? とにかくも、計画実行時の技術水準次第といったところでしょうか。

 このアイデアや動画自体は、少なくとも現時点では単なる話題づくり以上のものではないのでしょう。私は決して否定してるわけじゃなくて、むしろ頑張って欲しいと思っています。というのも、小惑星を捕獲して地球近傍に持ってくるというこの構想、実は軌道エレベーターにとって重大な意味を持つかも知れないのです。軌道エレベーター初期の構想では、カウンター質量に小惑星を用いるというモデルがあったからです。
 軌道エレベーターのモデルのほぼすべてにおいて、末端にカウンター質量が設けられています。カウンターウェイトとかアンカー質量とか、呼び方はまちまちですが、ようは静止軌道を挟んで重さのバランスをとるためのオモリであり、下の方の質量を引っ張り上げる役割を果たしています。これを設けずに、ピラーの延長だけで軌道エレベーターを建造する場合は全長14万4000km程度ににりますが、近年のモデルではカウンター質量をやや強めに設定しているものが見受けられます。この部位の役割についてはこちらをご覧ください。

 小惑星を捕獲して地球近傍まで持ってきて、カウンター質量兼材料供給源としてとして使用する構想が昔はあったのですが、前段で述べたように、小惑星を地球周回軌道に乗せるなどというのは途方もないエネルギーが必要ですし、手ごろな小惑星が都合良く接近してくれるとも限らないので、現実的ではないせいか、この構想は近年は見受けられなくなってきました。
 しかし、もし本当にこの小惑星捕獲計画が有望なものであれば、軌道エレベーターの初期モデルの復権もありうるかも知れません。そういう意味では、この小惑星捕獲構想に期待したいところです。
 ちなみに、小惑星をカウンター質量として用いるのが一般的だったころは、「軌道エレベーター」と呼ばれることの方が多かったんですよ。その意味でも、小惑星を利用するモデルの復権には感慨深いものがありますね。
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 軌道エレベータ検討委員会始動 | トップ | 出ないのかCS7 »
最新の画像もっと見る

気になる記事」カテゴリの最新記事