オーソレ、何それ?

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昭和のターニングポイント4:満州事変はどう報道されたか

2005-08-04 00:04:57 | 歴史
ようやく満州事変シリーズの最終回です。満州事変とは直接関係ないかもしれませんが、現代に最も大きな教訓を与えてくれている事例だと思います。

当時の日本の全国紙は新聞社は朝日と毎日の2社のほぼ寡占状態であったが、満州事変前は朝日新聞はリベラル色が強く軍部に批判的であるのに対し、毎日(東京日日)は軍部に好意的と論調は異なっていた。ただし、満蒙問題に関しては、張作霖の爆殺事件があったことか、軍部に対する論調は厳しかった。

一方当時の情勢は、経済的停滞などで国民のフラストレーションが溜まり、景気のよい話題を望む機運が高まっていた。また中国での反日、排日運動の高まりからフラストレーションの向く先がナショナリズムに向かう素地が出来上がっていた。また松岡洋右満鉄副総裁(当時)の「満蒙は日本の生命線」演説が、効果的なキャッチフレーズとなっていた。

こういった情勢で満州事変が勃発した。もともと軍部に好意的ま毎日は満州事変勃発当初から軍部の行動を支持、軍部に批判的な朝日は軍事行動の拡大に慎重と当初2紙の論調は異なっていたが、その後朝日の論調が変化した。朝日は10月1日(満州事変勃発は9月18日)の社説で「満州緩衝国論」を発表した。つまり満州は独立した一つの国であるべきと軍部の主張にそった論調となった。満州事変勃発後、朝日に対して右翼の圧力があったと言われ、また朝日は満州事変に対する反軍的な記事により地方を中心に部数を落としたとも言われている。しかしながらこういった圧力に屈したり、大衆に迎合して論調を変えるというのはメディアの自殺行為ともいえるだろう。

いずれにせよ、報道により国民は久しぶりの「快事」と熱狂、今度は国民の歓心を得るために陸軍の快進撃を伝える報道合戦がエスカレートする。

ただし、軍部が満州事変前後に組織立って圧力をかけた形跡はなさそうだ。むしろメディア側が自発的に報道していた。統帥権干犯の林銑十郎中将が「越境将軍」と報道され国民から讃えられると、今度は「抜け駆け」が功績となり出世する。出世目当ての抜け駆けが許される雰囲気が軍部で醸し出される。

以後満州事変の報道により挙国一致体制の醸成へのメディアの効力を改めて認識した軍部は、報道に対して露骨に干渉を始めた。そして日中戦争からは新聞は内閣情報局に統制される。太平洋戦争に到っては「大本営発表」を垂れ流すプロパガンダマシーンと成り下がった。

つまり、メディア(といっても新聞とラジオぐらいですが)が報道規制もさほどなかった時期に、世論や軍部や右翼の歓心を買うため一斉に軍部寄りの報道を行い、軍部の動きをバックアップするとともに国民的熱狂を作り上げていった。このことこそ、実は最大のターニングポイントなのかもしれず、この時期のメディアには「戦争責任」が問われるべきなのかもしれない。

余談だが、最近でもNHKの番組改編問題が同じような「病根」を抱えているのかもしれないと考えさせられた。保守派議員の「意向」を受けNHKが自主的に番組の改編を実施した。単なる「意向」なのか予算をちらつかせた「圧力」なのかは定かではないが、むしろ「圧力ならぬ圧力」に自主的に反応する方が問題であろう。メディアは戦前を未だ克服できていないのではないか。一方この事件やJR事故の取材の報道側の姿勢にも反省点があるだろう、メディア側も襟元を正し報道姿勢を問われないように注意する必要がある。

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7 コメント

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大手マスコミは (kazu-n)
2005-08-04 23:56:06
昔も今も、基本的には何も変わっていないのでは?と感じる今日この頃です。未だに大本営発表の垂れ流しと大差ないことをやっていますし(笑)。



以前、某大手新聞社のワシントン支局の記者と話をする機会があったときにその話題を出したら

「この業界のことをろくに知りもしないで偉そうなこというな!これだから自称リベラルは困るんだ」

みたいなニュアンスのことを言われました。まあ、当の本人に向かってそういうことをいう僕も僕なのですが・・・。



記者の中にいろんな意見の人がいることはもちろん構わないわけですが、ああいう人がごろごろいるようでは日本の未来は暗いと思います。そのうち、第二第三の満州事変がきっと起きるに違いありません。



ところで、このあたりの歴史はおそらく多くの人たちが興味を覚える部分だと思いますので、今後も昭和に関する記事を是非お願いします。
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コメント&TBありがとうございます (toxandoria)
2005-08-05 00:19:09
コメント&TBありがとうございます。満州事変前後の事情が詳しく分かり、興味深く読ませていただいております。



以前に小生の記事で取り上げましたが(http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20050405)、再び、近年の日本ではヤクザ・暴力団などの影響力が増しつつあるようで不気味です(http://www.asyura2.com/0502/cult1/msg/805.html)。



いずれにせよ、いつの時代でも政治権力者が最も必要とするのは「一般国民の拍手」(別に言えば支持率)です。この事情はヒトラーのナチス・ドイツでも同じでした。そして、この支持率(一般国民の拍手)に大きな影響を与えるのがマスコミですね。



例えば、日経が嬉々として小泉首相に対する諂い記事を書いていることに驚いています(http://www.nikkei.co.jp/news/main/20050804AT2M0400E04082005.html)。もう少し書き方に工夫の余地があるはずです。



このように、近年はマスコミ人たちの自覚が落ちぶれつつあるようで大いに気がかりです。

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何か... (CLUBYY)
2005-08-05 02:07:22
こんばんは。

本読んでいて何か、それで最近になって朝日新聞社が狙われたりするのはこちらの批判等があってなのかと感じました。

仕事がなければもっとゆっくり沢山読みたいのに...

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お化け (U)
2005-08-05 20:45:31
こんばんは。

当時の映像の持つ効果は、絶大なものがあったろうと思うのですが、どのように利用されたものでしょうか。



だいぶ前ですが、『フォレスト ガンプ』がTV初放映された時、近所の子ども達が、俺も自衛隊に入る!と、興奮していました。大人は、それを見て怖いと・・・



スターウオーズなども、戦争の本質をかなり歪めたものではないでしょうか。広島、長崎で焼かれた子ども達に、あの世で上映したら、お化けがたくさん出る事でしょうね。
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コメントありがとうございました (o_sole_mio)
2005-08-05 23:15:39
>kazu-nさん

権力に媚びたり、大衆に迎合するジャーナリズムというものが国家に危機をもたらすと言えるでしょう。

ご指摘の通り、危機の芽が日本に広がっているのではないでしょうか。



昭和についてですが、満州事変について書いて、頂いたコメントからインスパイアされたものが1,2ありますので、また記事にしてみたいと思います。



>toxandoriaさん

早速コメントを頂きありがとうございます。

権力とメディアと大衆が適度な緊張関係にあるというのが最も健全な姿でしょうか。当時も今もそういった関係が崩れているような気がします。メディアへの風当たりがどうしても強くなってしまいがちですが、ジャーナリストとしてそれだけの矜持を持って頂きたいですね。



>CLUBYYさん

メディアが反権力の論調をはったときは、テロや弾圧の目標となります。ただし、当時のメディアに対してはむしろ圧力に対して必要以上に萎縮し、自己規制、自己検閲を敷いてしまったという指摘があり、一部の言論人も自己批判しています。



>U-1さん

以前から批判されている映像のプロパガンダですが、ナチスが有名ですが、日本でもプロパガンダ映画が戦時中は作成されており、特に満州国の国策会社、満映が有名ですね。スターウォーズシリーズは帝国の成立や兵士の制服に第2次大戦を意識した部分があると思いますが、確かに戦場のリアリティーというものはないと思います。
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この頃の歴史には多くの示唆がありますね (まさくに)
2005-08-07 23:59:49
こんばんは。先ごろ、浜口内閣前後のことを読んだり(小泉又次郎さんのことを書くので・・・)して、丁度この時期の日本の外交、軍部の暴走などを見て、ある種の「既視現象」と言うべき感覚を持ちました。双方の反中・排日運動やナショナリズム、中国権益に頼る日本(今の経済成長を当てにする状況と似てますね)、日清・日露戦争の再現の戦勝気分を求める国民、世界恐慌後の困窮・・・中国への百万人移民、中国への外国資本による投資の7割を日本が占めていた・・・等々



浜口―井上蔵相が小泉―竹中と似ていて、緊縮財政を断行するとか・・・そういうのも面白いですね。

石原莞爾の「世界最終戦論」が既にあった、というのも凄いと思いました。民主党の「東アジア共同体」構想が、似ているのも怖い気がします・・・まさか「五族協和」という訳ではないと思いますが・・・
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平成を映す鏡 (o_sole_mio)
2005-08-08 22:22:23
まさくにさん、コメントありがとうございます。



ご指摘の通り、昭和初期の状況は現在との共通性が本当に多いですね。他にも、一部の政治家、言論人、マスコミがナショナリズムを煽り、国民がそれを支持する構造や当時の海軍軍縮会議やリットン調査団と朝鮮半島の核を巡る6カ国協議なども類似性を感じます。特にこれらの要因に関しては、日本が気が付いたら国際的に孤立していたという村上龍さんの「半島を出よ」的シチュエーションになりかねないという危険も孕んでいると思います。



以前「世界最終戦争論」のサマリーのような本を読みましたが、石原莞爾はある種の天才ではないかと思いました。ただ組織の中では上手く立ち回れなかったようです。陸軍官僚機構の「秀才」達に知恵を授けた、ということで後世への影響は少なからずあったと思います。
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