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まさかさま・ファッション篇

2016年12月05日 15時40分19秒 | みりこん童話のやかた
森のお屋敷に嫁がれた、まさか様のファッションは

本家のご長男の嫁という強いお立場と、豊富な予算によって

遠慮なく繰り出される豪華版です。

最初のうちこそ、お祝いムードの追い風参考記録もあいまって

「素敵」「お美しい」などの声も聞かれましたが

黄褐色のお肌のまさか様を引き立てる衣装となると

なかなか難しいようでした。


いえ、まさか様がお悪いのではありません。

デザイナーが悪いのです。

お屋敷付きのデザイナーは、良家の子女しか取り扱いません。

良家の子女というのは、色白で上品なかたが多いため

デザイナーは、上品なかたをより上品に見せる‥

つまり最初から仕上がっているものに少し手を加える

ゲタ履き工法しか知りません。

ウルトラCで大逆転の実力は、培われていないのです。


まさか様のお肌に映える色は、イエローゴールドか

誰でも似合う白しかありません。

この二色はご婚約とご結婚の時に使われ

その後も、ここ一番のシーンで頻繁に使用されていますが

それだけで一生を過ごすわけにはいきません。

色とりどりの衣装をひねり出す義務があります。


似合わない色の時は、まさか様を白塗りにしてみたり

色の方はあきらめて胸元のデザインに凝り

お顔から視線をそらす撹乱法を用いたりして

試行錯誤を繰り返しますが、やはり今ひとつ。

村民も次第に飽きてきて

まさか様のファッションを賛美する声は次第に消えました。


療養生活が長くなりますと、お身体への負担が少ないということで

たまのお出ましは地味な色合いのパンツスタイルが多くなりました。

これがまた、似合わないだの陰気だの

訪問先をナメているだのと、ご評判はかんばしくありません。


「確かにパンツは、スカートよりも格下の装いですが

今のまさか様が安心できるお衣装は、パンツだけなのです」

自称・お屋敷ファッションウォッチャーのみりこんさんは言います。

この人、自分はイモなのに

人の着る物にはいちゃもんをつける、図々しいおばさんです。


そう言うと、このおばさんは怒るのです。

「何を言う!

私が子供の頃、ファッションのお手本はお屋敷だったのじゃ!

女の子のお出かけ着は、抑えた色調のアンサンブルに

帽子かヘッドドレスが当たり前だったのだぞよ!

今じゃそんな格好してたら笑われるぞ!

控え、控え〜い!」

まったく、嫌なおばさんです。


そのみりこんおばさんは言います。

「パンツスタイルのまさか様は

パートの面接を受けに行くおばさんそのものです。

どんなおしゃれも思いのままのご身分でありながら

働く庶民のスタイルに手を伸ばす。

遊び暮らしつつ、楽な衣装に走る。

そこが皆さんのシャクにさわるのです。


けれどもまさか様は、わざとやっていらっしゃるのではありません。

パンツスタイルは、おみ足の甲を隠蔽するためです。

私も太っていた頃に経験しましたが

肥満傾向で運動不足の方に多いムクミの問題です。


爪先の細いハイヒールだと、むくんだ肉が靴におさまりきらず

時間の経過と共に、甲の肉が盛り上がるのです。

それが週刊誌に掲載され、甲が注目されるようになると

早退を心がけるようになられました。

ムクミは時間との戦いですから

お出ましの時は、ひどくならないうちにお姿を消すわけです。


しかし今度は、この早退に非難が集中しました。

そこでまさか様は、ダイエットや体質改善よりも隠蔽を選択され

なるべくパンツを選ばれるようになったのです。


お召しになるパンツは、甲の肉が盛り上がって溜まる

靴の履きこみ部分が完全に隠れなければなりません。

絶対に甲が出ないデザインとなると、丈が長め、スソ幅が広めで

動いても揺れず、しゃがんでもめくれない

ハードな生地のパンタロン型に限定されます。

するとどうしても、昭和の古臭さが漂います。

猫も杓子も、厚底の靴に長めのパンタロンをかぶせて

足長に見せようとした、あの昭和です。


そこへシワの寄った、きつそうな上着を組み合わせ

アクセントにザンバラ髪を広げれば、だらしない印象は欲しいままです。

お金に糸目をつけずにおしゃれができるお立場にありながら

ファッションがコンプレックスの隠蔽で終わってしまうのは

もったいないことです」

みりこんおばさんは、残念そうに言います。


「とはいえ、コンプレックス隠蔽が

ファッションの第一条件になってしまうのは

お姑様が元祖です。

このお方について、あれこれ申し上げるつもりはありませんが

ファッションだけはいただけない。

長年の着道楽がいっこうに功をなさなず

珍妙なファッションのまま、とうとう半世紀越えです。


呉服界垂涎の見事な“なで肩”をお持ちで

和服の着こなしは素晴らしいのですが、お屋敷の正装は洋装。

お洋服やドレスは着映えがしません。

そこで編み出されたのが、巨大な肩パットのケープスタイル。


このケープスタイルは

ご主人である当主様よりも肩幅が広くなってしまうのと

上半身だけがいかつくなって全身のバランスが取れないため

不評で、憧れる者とていませんでした。

しかしこのような時はなぜか

“お屋敷の関係者によると‥”という文面で始まる週刊誌によって

麗しい言い訳が広められるのが恒例です。


ケープについては

“寒い時期にコートを着ると、脱ぎ着に手間どり

村民と触れ合う時間が少なくなってしまうため

コート無しでも暖かいケープをご考案された”

という理由が広められました。

それを聞いた村民は深いお考えに感動し、口をつぐんだものです。


なで肩隠蔽のためなんて、言っちゃダメですよ。

ましてやケープは、尊敬なさるローマ法王とお揃いのデザインだから

なんて、絶対言っちゃいけませんよ。


ちなみにお帽子についても、深いお考えが伝えられました。

ツバ広の大きなお帽子だと

村民にお顔を寄せてお話ができないからだそうです。

これを聞いた村民一同、あまりの思慮深さに思わずコウベをたれ

コミカルなお帽子に触れることは控えたものです。


お屋敷のご先輩にお帽子のかぶり方を注意され

それ以来、お帽子がどんどん小さくなって花笠に変貌した、とか

花笠はお屋敷のしきたりに無いから、誰も注意できない、なんて

言っちゃダメですよ!


ただしお帽子は小さくなっても、ケープの肩パットに阻まれて

お顔はなかなか寄せられません。

そこで、この名言が誕生したのです。

“心を寄せる”。

キャー!そんなこと、言っちゃダメダメ!」


「言ってないし!

全部、あんたが言ってんじゃん!」

村人たちのブーイングをよそに、みりこんおばさんは涼しい顔で

こう付け加えるのでした。

「隠れた共通点がある嫁って、かわいいもんらしいですよ」


どっとはらい。


この物語はフィクションであり

実在する団体や人物とは一切関係ありません。

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2 コメント

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Unknown (モモ)
2016-12-18 15:51:27
お屋敷の女性部二台巨頭のファッションに、そんな裏事情が!!!

確かに最近の伊勢神宮訪問のワンピはどうかと思いましたが…

高貴、というのも不自由なものですね。

あ、でも、前例にとらわれずに新たな道を切り開く、というのは、さすが先頭に立たれるお立場なんですね。

庶民としては、オーソドックスに小綺麗に…

あ、そのオーソドックスをお造りになられるのが森のお屋敷の方々、でしたね(^^)
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勇者認定! (みりこん〜モモさんへ)
2016-12-18 21:50:56
コメントしにくい内容だったのに
よくぞしてくださいましたね!
ありがとうございます。
モモさんの勇気と思いやりに感謝しております。

まさか様は仕方がないけど
トップの方のお洋服とドレスはね〜、あれはいかん。
昔、多くの人は洋装のことがわからなかったので
何を着ても喜んで喝采してた。
あれがいけなかったね。
見る方も着る方も、これが正しいと思い込んで
国際水準を満たせない独自のプロトコルが
できあがってしまった。
残念に思っています。
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