カワウとのつきあい方~アメリカ・ヨーロッパの取り組みから考えるウの管理~

2015年08月02日 | 自然と人のかけはし
それぞれ多くの葛藤を抱えながら対応されている研究者が
直接語る言葉を聞くと、それぞれ愛おしい対象が関わる軋轢に心を痛め、
なんとかしようともがいている感情が伝わってきました。

///概略(記憶違いの言葉が混じるはずです。ご了承下さい)///

カワウとのつきあい方~アメリカ・ヨーロッパの取り組みから考えるウの管理~
2015/7/25@滋賀県立琵琶湖博物館

> 亀田佳代子(琵琶湖博物館)
> 日本におけるカワウ保護管理の現状と課題
カワウは、日本に暮らす他のウと違って、内陸の川や湖でも餌を取り、また樹上にも巣を作ることが特徴です。1960~70年台に大きく減少し、日本全体で3000羽以下コロニー5箇所までになりました。80年台から増えて分布も広がり、それに伴ってアユなど内水面漁業への食害や営巣地での森林景観悪化が問題となりました。90年台から様々な対策が取られるようになり、現在は2013年に環境省が策定した「特定鳥獣保護管理計画作成のためのガイドライン及び保護管理の手引き」がよりどころになっています。

> Linda R. Wires (アメリカ合衆国魚類野生生物局)
> アメリカ中央部のミミヒメウ管理の歴史的変遷と課題
ミミヒメウは、目の後ろに、上に立った飾り羽がある北米のウです。この鳥にちなんだ地名がつけられるほど目立って多い鳥でした。1970年代までに非常に少なくなり保護の対象でしたが、90年代に劇的に増えて分布も広がりました。人による魚類の乱獲や外来魚侵入、放流やナマズの大規模な養殖などで生態系が変わったこと等が原因と考えられます。それに対して水産資源への影響が懸念されて1998年と2003年に連邦規則が制定され、致死的な管理が行われ50万羽以上駆除されました。
管理の意思決定には科学的な証拠が必要とされておらず、社会的な価値観や憶測、信じこみが一番の動機になっていて、ウがスケープゴートにされています。人の心から発生した「被害」であるため、解決のためには社会学者と倫理問題の研究者が入ることが必要です。寛容さを増加させる方法の一つとして、「たくさんのウがいる壮観な景観を売り物にする」例が紹介されました。

> 坪井潤一(水産総合研究センター)
> 日本の内水面漁業における被害と対策
最も管理が進んだ山梨県の例です。カワウが問題になるのは、1kg3,600円もする放流アユが、直後にカワウに一網打尽にされてしまうからです。しかも放流時期がカワウの子育ての時期と重なるため、大きな投資である放流事業が、「子育て中のカワウに餌をやって増やしているだけ」に感じられるからです。そこで「毎月20日はカワウの日」、漁業者自身が日の出30分前から2時間カワウを数えて、どこにどれだけいるのか情報を共有しました。また駆除個体のお腹を調べてアユの割合がどれくらいか調べてカワウが食べたアユの金額を推定し、2012年の6.5%を放流個体の5%程度に維持するという目標を設定しました。春にアユの放流場所で集中的に追い払いを行い、また新規コロニーを除去するなど被害が少なくなるような場所にカワウの群れを管理する、という対策を行っています。

> Daniel D. Roby (オレゴン州立大学)
> アメリカ西部のミミヒメウ管理の最前線
北米西部のミミヒメウについては、管理が最近始まったところです。コロンビア川の河口にあるイーストサンド島は、安全で近くに魚が豊富なため、1989年には90つがい程だったのが2003年には1万3千つがいにまで急増しました。より北部のコロニーでは減少しています。サーモンはアメリカ人にとってQOLの象徴で、また絶滅危惧区保護法掲載のサケ科の稚魚の捕食圧を下げるためという理由で、政府機関がコロニーの1万1千羽をハンティングにより4年で駆除する計画を立てています。これは北米西部のミミヒメウの15%を駆除することになります。致死的でない代替法が実践されていて、コロニーの一部をフェンスで仕切り、繁殖できる場所を限定して追い払いをしたり、人口巣台やデコイなどで特定の場所に誘引したりしています。在来種でもコロニー性魚食性鳥類が被害の原因としてレッテル貼りされてしまっています。

> 山本麻希(長岡技術科学大学)
> 地域と広域 カワウ個体群管理の考え方
ここにいる多くの方が関わられた「特定鳥獣保護管理計画作成のためのガイドライン及び保護管理の手引き」についてエッセンスを解説されました。(トークが面白くてメモ出来なかった)
管理計画を立てる際には、「鵜的フェーズ」と名付けられた、各段階のどこにいるかをまず把握し、その後、段階を追って対策を進めることが大切。各自が勝手に追い払うと、分布が広がったり知らないところで被害が出て手に負えなくなります。1羽も殺さないとか絶滅させるとかではなく、「ほどほどにいることを目指す」。データを地図化してワールドカフェにより関係者の合意形成を行います。将来的にどこを残すかなどを共有します。

> David N. Carss (英国生態学水文学研究センター)
> ヨーロッパのカワウ管理システムと体制
カワウはEUでも法律で保護されていますが、各国や各国内でも解釈が異なります。INTERCAFE Projectなどで学際的なネットワークで解決を図っています。欧州議会前で1万人の漁師デモの写真を紹介されました。ヨーロッパでは内陸と大西洋岸に暮らす2亜種がいて、問題になっているのは内陸性の亜種です。広く移動する冬に軋轢が起きています。1月中旬の土曜日にヨーロッパ全体で3千人以上の調査員が参加して一斉カウントをして、2003年で675,835羽と集計されました。カワウについては、魚を減らすという学術的根拠はなく、カワウと魚に関する人間の社会文化的意義を理解する試みが必要です。大西洋岸では、カワウの食文化があります。またグリーンランドではフェザーで中間着を作っています。
カワウと人との問題ではなく、人と人との社会的問題であると思う。

コメントの中で印象的だったのは…

> 須藤明子
滋賀でのシャープシューティングで個体数を減らせたのは重要な一例。
ツールは持っている。自身を持って落ち着いて対応する。

(説明)滋賀での有害駆除について、過去は一般の狩猟者が散弾銃でカワウを撃っていたが、2009年から須藤氏ら専門家がエアライフルを使い高度な大量捕獲を行って、顕著にカワウを減らすことに成功した。

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募集ページ
http://www.bird-research.jp/1_katsudo/kawau/sympo.html