報告・くつきの森でセンペルセコイアに登る

2016年07月03日 | 林冠の世界~木に登る~
 センペルセコイアは、北米で100メートルを越える高さになる針葉樹です。樹皮がとても厚く、山火事にも耐えて生き残るそうです。森林公園くつきの森では、森林環境研究所の近くに数本あり、ユリノキやモミジバフウのように周りの木々から突き抜けて高く育っています。

 普段のツリーカフェで登らせて頂いているユリノキは、高さ17メートルまでロープで上がることが出来、高さは25メートルくらいだと思います。そこで周りを見ると、少し離れて同じくらいの高さに、三角形のセンペルセコイアがあります。何度も見ているうちに気になり、あそこに行ってみたい、と思いを募らせていました。

 ちょうど針葉樹に登るツリーイング技術の講習会があってスタッフをしてきたのですが、参加者の方々に練習の機会があれば、という思いもあり、よい機会なので【くつきの森でセンペルセコイアに登る】を企画しました。

 当日は出来るだけ木の上の時間と練習の機会を持ってもらいたく、前日にスローラインと下見を行いました。下の枝が非常に混み合っていて、何度か目標にスローパウチを投げるも手前に当たります。出来るだけ障害物の少ないルートを探して投げ、かかった枝からパウチを揺らしたりスローラインをつないだりして、荷重を分散させる支点になるようにスローラインを通します。手の届かない高いところでラインを操作する、これが頭と技をいろいろ使えて面白いところです。

 あとはロープを掛け、講習会でお伝えした通りのボトムアンカーをとってSRTクライミング。ボトムアンカーとは、かけたロープの一方の端を固定する支点で、木の根もとに帯紐を巻いて設置します。人に教えた後はスムーズに出来るような気がします。始めて登る木は特に慎重に、慎重に。木の様子、周りの様子に感覚を研ぎ澄ませて登っていきます。やはり樹皮がとても厚く、ふかふかしています。細い枯れ枝がいろいろな形で突き出していて、しばらく暗い環境です。両側は低めのモミの木で、その枯れ枝はずっと太く様々に折れています。

 生きた枝が出てきて、よいしょよいしょと枝をかわしながら登っていきます。枝を握るとじわっとへこんで柔らかく、緑の葉っぱもさらさらと柔らかです。枝は水平より僅かに下がって横に伸びています。ロープを掛けるときは気をつけなければいけません。適度に太さがあり、丈夫そうに感じますが、ところどころに枯れ枝があります。まっすぐ伸びている枝もあれば、途中で折れて急に伸びる向きが変わっていたり、他の枝と絡んだりしている枝もあります。

 いよいよロープがかかっている支点、トップアンカーに着きました。枝は健康か、しっかり幹についているか、ロープの位置は適切かなどと、慎重にチェックします。下から見上げているだけでは分からないことが多いのです。珍しく下から見ていたより安心感があります。ロープを少し持ち上げてみると、枝が少し凹んでいます。本当に柔らかい樹皮です。どれくらいで回復するのでしょう。

 ここで高さ約10メートルです。さらに上に登るために、短いロープで体を確保し、交互に架け替えて登っていきます。枝の間をくぐり抜けて慎重に、そしてロープのルートを意識しながら適切な支点となる枝を探していきます。徐々に視界が開けてきて、明るくなってきます。隣のモミの木は先端が近づいてきました。生き生きとした枝がたっぷり日差しを受けています。

 7メートルほど登って、隣のモミの木の頂上と同じ高さのところに新しいトップアンカーを決めました。スローラインにパウチをつけて下に下ろしていきます。出来るだけボトムアンカーや登るルートに枝などが干渉しないようにルートを微調整します。

 遠くを見ると、これまで登っていたユリノキが見えます。そして隣にある針葉樹のコウヨウザンや、ひときわ高いモミジバフウが見えます。今登っているセコイアも含めて、これらの木々は、この地に植えられてから40年程度しか経っていません。自分より少々年上な生きものたちが、なんと巨大になっていることか、そしてまだまだ成長初期に過ぎず、これからますます大きくなって、たくさんの生きものたちを育んでいくことに思いを馳せて、木を下りました。

 いよいよ企画当日。はるばる兵庫県から、先月のT-2講習会と、3ヶ月前のT-1講習会の参加者がお越しになりました。お一人は早速SRTの器具も購入されて、初使用です!用具をお貸しして、基本を復習しつつ、昨日かけたスローラインでSRTのセッティングを行いました。ロープを上げたり、ボトムアンカー用のミュールノットをお互いに見て作ったり。時間を十分とってセッティングを行います。

 T-1講習会のみの受講者が登れるように、私がDRTシステムのトップアンカーを設置しに上がります。昨日はDRT用の13mmロープで登りましたが、今はSRT兼用の11mmハイブリットロープを使います。器具の通りが良くてスムーズにアセンダーが動きます。色も黄緑でいい感じです。昨日よりだいぶ高いのですが、ガチャガチャあっという間にトップアンカーまで登ってしまいました。

 その下にDRT用のアンカーを設置してスローラインを下ろし、声をかけながら協力してロープに架け替えてます。樹下ではDRTシステムを組んで登り始め、同時に私は別の短いロープをかけて、それに移ります。4月以来のツリーイングとなる参加者は、楽しい、楽しいと笑顔で登ってきました。さすがに体力は使うので途中で休み休み、枝が出てくるところまで来ると、こうやって座ると落ち着くよー、と実演します。登ったことがないツリーカフェのお客様と違って、自分でシステムを操作して下がることが出来るので、好きな場所を自分で探して休めました。

 そして空いているSRT兼用ロープも使って、もう一人上がってきました。隣のモミの木を見ながら、これも登れる?と興味を示しながら少しずつ。もう一つかけた短いロープに移ってもらってから、一度私は下に下りました。

 参加者お二人は、持って上がったお弁当でお昼ご飯。前の講習会でも樹上でお昼を食べた強者です!私は地上で食後のコーヒーの用意をしてから登ります。高島市内で焙煎された新鮮な豆を挽いて淹れ、ポットに入れて樹上へ運びました。木の上のランチとコーヒーで長時間過ごせば、違った感覚になれると思っています。

 双眼鏡をお渡ししたら、「すごく見える!見ているところはどこだ?」と驚きながら、見えている木の実は何だろうと話したり、普段よく登るユリノキにかけていたスローラインを紹介したりしました。森の一点に留まりながら、さらに森を広く深く楽しめるツールだと思います。

 20mのメジャーの先にスローパウチをつけて、下ろして高さを測ると、3名でご飯を食べた腰の高さで17m。ロープ自体は20m以上の高さになっていました。木の先端は25mくらいでしょうか。これからまだまだ伸びるでしょう。

 アメリカで木登りに取り憑かれた人たちを描いた「世界一高い木」(リチャード・プレストン著 渡会圭子 訳 http://ec.nikkeibp.co.jp/item/books/P83630.html )という本があります。高さ世界一の木を探したり、木の上の豊かな生態系に魅了されたりした人たちが出会い、縁を深めていく物語です。そして、そこに登場するセンペルセコイアに名前がつけられて、木々の巨大さ、豊かさ、生きてきた時間の長さを様々に描かれています。私は以前この本を読んで、この木はどんな木なのだろうと心に残っていました。くつきの森のセコイアはまだ40年余りしか伸びていない若い木ですが、ふかふかの樹皮や柔らかな針葉、爽やかな香りなど、海の向こうのセコイアの森に思いを馳せることが出来ました。

 参加者お二人に感想を伺うと、木がとてもよかった・木の上で昼食とコーヒーブレイク!・ロケーションが良かった・少人数でじっくり技術を確認出来た等が好評でした。道案内など課題もありましたが事前の情報提供を十分行えば解決出来ることでした。今後は確実に行います。
 くつきの森には他にも様々な種類の木があります。同じ木に何度も登ると新たな発見もあります。ぜひ一緒に木の上で過ごしましょう。

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