マレーシア マイセカンドホーム  -シニア世代の海外ロングステイ-

マレーシアにロングステイする”マレーシアマイセカンドホームプログラム”の情報と解説のブログ。最新更新 2017年4月

住宅購入能力からみたマレーシアの住宅販売市場を説明する

2016年09月01日 | マレーシアの住居知識と情報

【はじめに】

(マレーシアの)新聞には時々、住宅・住宅開発に関する事情解説や問題を論じた記事が載ります。今年(2016年)中頃の不動産関連記事の中に次のような一節がありました:
中央銀行Bank Negaraは次のように指摘している、「住宅市場では供給面での不釣り合い状況がある、これは是正されなければならない。なぜならば、クアラルンプール圏のような都市圏における住宅の価格は、購入可能と思われる範囲を超えている状態が続いているからです。」

「デベロッパー側は価格RM 50万以下の住宅が購入可能な範囲であるとみなしているようですが、普通の人たちにとってこの購入可能な価格はRM 30万以下に抑えられるべきなのです。」

当ブログはマレーシアマイセカンドホームに参加することに興味あるまたは参加したい、定年・引退後の居住地候補の一つにマレーシアを考えている、といった方々を対象としています。

従って今回掲載した記事を書いた狙いは、住宅不動産の購入案内でも、ましてや不動産投資の手引きでもありません。読者の皆さんに、マレーシアの新規不動産市場の姿を多少でも知ってもらうことで、国民の住宅購入能力と新築住宅価格を通してマレーシアの実際の住事情をつかんでもらう一助にしていただきたい、という期待です。

上質紙に印刷された立派な住宅パンフレットで紹介されている最高級コンドミニアム(マンション)、数百万リンギット(邦貨で1億円ぐらい)もする豪邸は、マレーシア庶民階層には縁のないものです。
数からいえば圧倒的大多数となるマレーシア人大衆層が購入できる新築住宅は価格 RM 30万位までの物件にほぼ限られる。
これがマレーシアの住宅市場における実際の姿であり、すぐに変わりそうにはない実状です。

なお、”私は日本で億円クラスの住宅に住んでいるから、マレーシアでもそういう住宅に住むつもりだ”という方も中にはいらっしゃるでしょう。ただ当ブログはそういう方は最初から読者対象に想定していません。

それではある新聞の不動産関連記事から抜粋して紹介しましょう。 なおこの goo ブログには表作成機能が付いていません。そのため、下記の数字を羅列した箇所では、横項目と縦項目の位置関係をきちんと表示しずらく、どうしても幾分ずれてしまっています。ご了承ください。

【所得が住宅取得能力に釣り合っていない】

2015年第3四半期時点での国内の平均住宅価格 RM 31万2千
住民の所得を基にして算出された、購入できる範囲の住宅価格における最大値は、この平均住宅価格を大幅に下回ります。

以下の統計は中央銀行Bank Negaraからの出典です。数字の通貨単位はリンギットマレーシア(RM)。下位、中間、上位は所得階層を示す。

                      平均収入額者、 下位40%、  中間40%、  上位20%
平均所得額                6,141         2,537       5,662      14,305
実質所得額 (可処分所得、注1)             5,128         2,244       4,781      10,581
総消費支出額                                 3,578          2,027               3,629           6,899

実質所得の10%を預金に回す(仮定)           513            224             478            1,058  

注1:所得税、老後用の公的積み立て金(EPF)、公的な障害保険料納付金(Socso) を差し引いた額をいう。

【Intraasia のコメント】

ここでは世帯所得階層を下位の40%、中間の40%、上位の20%に区分化した際における、それぞれの平均所得額が示されている。 こういう統計は中央値の方が平均値よりも実態をより良く現すのであるが、この統計では平均値だけが使われている。

全体の平均所得額は一般的なマレーシア大衆社会の実態からかなり離れている。下位区分層の月収が RM 2500程度に過ぎないなかで、平均月収がRM 6千強にもなるというのは、上位区分層の所得によって平均値が大きく上方に引き上げられていることがわかります。
下位層の世帯は実質所得 RM 2244で、総消費支出が RM 2027、つまり実際に預金に回せるのはたった RM 217ということになる。これではたとえ住宅ローンが組めたとしても、年間返済額は最大でも約RM 2600、購入できる住宅の価格帯は極めて限られてくる。

中間層の世帯は実質所得 RM 4781で、総消費支出が RM 3629、理屈的には毎月の余剰金がRM 1150ほど出ることになる。ただ自家用車保有率が非常に高いことから(しかも複数台数保有の世帯は珍しくない)、自動車ローンの返済もあることが普通なので、この余剰金額を全て住宅ローン返済に回すというシナリオは現実味が薄い。

そこで毎月の住宅ローン返済額の上限をRM 800とみれば、年間返済額はRM 1万程度だ。この額で”2015年第3四半期時点での国内の平均住宅価格 RM 31万2千”の住宅を購入するには、30年ローンでも無理であり、もっと長期になる。マレーシアの公定金利は日本のような超低金利ではないので、銀行の住宅ローン金利が年利 5%を割ることはまず期待できない。

【中央銀行Bank Negaraが想定した住宅購入モデル】

中央銀行Bank Negaraはまた上記の統計を基にして、収入と住宅取得能力が変数である2つの住宅購入想定モデルをあげている。そこで次にそれを紹介しておきます。数字の通貨単位は RMです。

想定モデル A:毎月預金をしない、及びなんら住宅ローンを受けていないケース

                                 平均収入額者、 下位40%、  中間40%、  上位20%
住宅ローンの返済に回せる毎月の剰余金額            1,550            217          1,151         3,682
借りられる範囲の住宅ローン                      321,122        44,931      238,590     763,015
購入できる住宅の上限値                                     356,803         49,923      265,100     847,795

想定モデル B:実質月収の10%を預金する、及びなんら住宅ローンを受けていないケース

                          平均収入額者、 下位40%、 中間40%、 上位20%
住宅ローンの返済に回せる毎月の剰余金額     1,037        不可能           673         2,624
借りられる範囲の住宅ローン             214,868     不可能      139,530      543,752
購入できる住宅の上限値                             238,743       不可能     155,034      604,169


マレーシアの住宅価格帯別住宅ローン総額 
(この表の出典は全国不動産情報センターが発行する2015年不動産マーケットリポートからです)

住宅の価格帯      2014年       2015年
低価格帯                   RM 34億6千万    RM 26億9千万
中の下位価格帯   RM 292億3千万      RM 235億6千万
中価格帯      RM 679億5千万    RM 615億3千万
中の上位価格帯   RM 1694億7千万   RM 1656億
高価格帯      RM 1兆2187億    RM 1兆4231億
総合計       RM 1兆4888億    RM 1兆6765億

【Intraasia のコメント】

想定 A は一切預金せずに剰余金の全てを住宅ローンに回すということになる。不要不急のお金の一部を預金の形で何らかの緊急時用の蓄えとするのはごく普通ですから、この想定はあまり現実的ではないように思える。想定 B は一定割合を預金に回した後で残りを住宅ローンに当てるという意味ですね。

低所得者層はそもそも住宅ローン自体を利用することが難しい。つまり銀行は、上記の所得階層下位40%の実質所得平均値 RM 2200程度の人たちが住宅ローン申請しても、まず審査で合格にしないはずです。
そこでローン申請の合格者はごく少なく、さらに合格しても低価格住宅ゆえに借入金額は多額とはならない。ということから、低価格帯の住宅ローン総額が他の価格帯のそれにくらべて非常に少ないことが見て取れる。

一方高価格帯の住宅ローン総額が非常に多く、必然的に全体に占める割合が際立って高いことが目立ちます。

上掲の住宅価格帯別住宅ローン総額の表は、こういう視点を持って捉えなければなりません。低価格帯では総額がごく少ないから需要もごく少ない、と見るのは間違いです。

低所得階層が住宅購入できる機会は、国などが不定期に政策として設ける、特別な住宅購入補助プログラムを利用する場合が多いようだ。例えば PR1MA(一つのマレーシア、住宅プログラム)など。
こういうプログラムはいわば住宅福祉政策と言えるものであり、民間金融機関の経済原理がら多かれ少なかれ乖離している。

所得階層における中間層40%の平均をみると、想定 Bによれば購入できる住宅の上限値は RM 15万5千、となって RM 30万の住宅には程遠い。想定 AでようやくRM 30万に近づき、それでも RM 26万5千だ。

ということは所得階層下位40%の世帯、及び中間の30%前後ぐらいの世帯では、購入できる住宅の上限値が RM 30万に満たないということがわかる。

結論的にいえば、2015年第3四半期時点での国内の平均住宅価格 RM 31万2千の住宅を購入できるのは、全世帯の3割程度にすぎないということでしょう。 ましてや価格 RM 50万の住宅購入が可能な世帯は上位20%の世帯に限られるということになる。

【住宅購入能力からみた住宅販売市場の実情を知る】

読者の皆さんが、近い将来どこかで目にするかもしれないまたは既に目にされたことがある、立派な住宅パンフレットやマレーシア何々案内・紹介本に載っている最高級コンドミニアム(マンション)や豪華住宅は販売価格が最低でもRM 60,70万リンギット以上の物件であり、それが入手可能なのはマレーシア国民の1割強程度に過ぎないということです。

不動産ビジネスを展開する人たち、そういうビジネスから恩恵を得る人たちの説明文句は、あたりまえながらその立場が反映されている。それはそれで結構でしょう。 だからこそ皆さんはいわば消費者の立場として知識を持っておくべきです。

別に住宅に限りませんし、マレーシアだけにも限りません。外国に関して、その国の通貨で表示された価格を単純に円換算して、その実際の価値を判断することは止めましょう。
現在のマレーシアにおいて、例えば販売価格 RM 30万の住宅の住宅市場における価値及びマレーシア人が与える住宅評価は、決して円換算した価格を当てはめた住宅のそれではありません。

読者の皆さんがマレーシアに暮らされる場合、多くの方は賃貸住宅に住まわれることになるでしょう、一方比率は少ないながらも購入される方もいらっしゃいます。そういう場合、今回この記事で書きましたことを住宅を捉える観点の参考にしていただければなと、思っています。



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