賢吉は、叔父に貰った大根を五本束ねたものを背負っている。もう、勘付いていらっしゃる方もおいでかと思うが、これは姉弟の後を追う「小道具」にするために故意に持たせたものだ。
今回は、賢吉が仇討ちの姉弟を追って、塒を突き止めるまでの物語を進めてみよう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
仇敵(きゅうてき) 笹川仁左衛門の姿は見えないが、賢吉は、倉掛藤太郎と姉美代の姿を捉えた。恐らく、笹川も倉掛姉弟の名も偽名であろう。この三者が行き着くところは同じに違いないと、賢吉は確信した。
姉弟にかなり接近してしまった賢吉は、とうとう気付かれてしまった。
「お姉さん、大根は要りませんか、一本十二文です」
不審がられる前に、賢吉が声を掛けたのだ。
「要りませぬ」
つっけんどんな物言いが、武士の娘であることを明かしている。
「美味しいですよ」
「要らないと言ったら、要らないのです」
「お屋敷まで、お持ちしますから一本如何です」
「諄い、怒りますよ」
「すみません」
諦め乍らも、尚も付いてくる賢吉に、弟が刀を抜いて脅してきた。
「戻れ、我らに付いてくるな」
「俺も、こちらに戻りますので…」
「それなら、もっと離れて歩け」
賢吉は、仕方なく傍らの石積みに腰を掛けて休息する振りをした。先ほどから、賢吉は大根の葉を毟っては道の端に捨てているが、これは満更腹いせでもなさそうである。
やがて姉弟が、森の木に覆われた荒れ寺に入って行くのを賢吉は見届けた。こっそり忍び込んで様子を窺うと、やはり仇敵笹川と倉掛姉弟は仲間であり、親子のようであった。円く囲んだ人々の真ん中には、巾着や財布が置かれている。
「やはり、掏摸の集団だったか」
賢吉が小さく呟いたとき、何者かに肩を掴まれた。
「おい小僧、何をしておる」
賢吉は驚いて飛び退いたが遅かった。腕を取られて後ろ手に捩じ上げられた。
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次回からは、桐藤右近こと目明し右吉の登場である。
「猫爺式小説作法?」第一回
「猫爺式小説作法?」第二回
「猫爺式小説作法?」第三回
「猫爺式小説作法?」第四回
「猫爺式小説作法?」第五回
「猫爺式小説作法?」第六回
「猫爺式小説作法?」第七回
「猫爺式小説作法?」第八回
「猫爺式小説作法?」第九回
「猫爺式小説作法?」第十回(終)
今回は、賢吉が仇討ちの姉弟を追って、塒を突き止めるまでの物語を進めてみよう。
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仇敵(きゅうてき) 笹川仁左衛門の姿は見えないが、賢吉は、倉掛藤太郎と姉美代の姿を捉えた。恐らく、笹川も倉掛姉弟の名も偽名であろう。この三者が行き着くところは同じに違いないと、賢吉は確信した。
姉弟にかなり接近してしまった賢吉は、とうとう気付かれてしまった。
「お姉さん、大根は要りませんか、一本十二文です」
不審がられる前に、賢吉が声を掛けたのだ。
「要りませぬ」
つっけんどんな物言いが、武士の娘であることを明かしている。
「美味しいですよ」
「要らないと言ったら、要らないのです」
「お屋敷まで、お持ちしますから一本如何です」
「諄い、怒りますよ」
「すみません」
諦め乍らも、尚も付いてくる賢吉に、弟が刀を抜いて脅してきた。
「戻れ、我らに付いてくるな」
「俺も、こちらに戻りますので…」
「それなら、もっと離れて歩け」
賢吉は、仕方なく傍らの石積みに腰を掛けて休息する振りをした。先ほどから、賢吉は大根の葉を毟っては道の端に捨てているが、これは満更腹いせでもなさそうである。
やがて姉弟が、森の木に覆われた荒れ寺に入って行くのを賢吉は見届けた。こっそり忍び込んで様子を窺うと、やはり仇敵笹川と倉掛姉弟は仲間であり、親子のようであった。円く囲んだ人々の真ん中には、巾着や財布が置かれている。
「やはり、掏摸の集団だったか」
賢吉が小さく呟いたとき、何者かに肩を掴まれた。
「おい小僧、何をしておる」
賢吉は驚いて飛び退いたが遅かった。腕を取られて後ろ手に捩じ上げられた。
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次回からは、桐藤右近こと目明し右吉の登場である。
「猫爺式小説作法?」第一回
「猫爺式小説作法?」第二回
「猫爺式小説作法?」第三回
「猫爺式小説作法?」第四回
「猫爺式小説作法?」第五回
「猫爺式小説作法?」第六回
「猫爺式小説作法?」第七回
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「猫爺式小説作法?」第九回
「猫爺式小説作法?」第十回(終)