雑文の旅

猫爺の長編小説、短編小説、掌編小説、随筆、日記の投稿用ブログ

猫爺のエッセイ「猫爺式小説作法?」第六回

2015-12-02 | エッセイ
 賢吉は、叔父に貰った大根を五本束ねたものを背負っている。もう、勘付いていらっしゃる方もおいでかと思うが、これは姉弟の後を追う「小道具」にするために故意に持たせたものだ。
 今回は、賢吉が仇討ちの姉弟を追って、塒を突き止めるまでの物語を進めてみよう。

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 仇敵(きゅうてき) 笹川仁左衛門の姿は見えないが、賢吉は、倉掛藤太郎と姉美代の姿を捉えた。恐らく、笹川も倉掛姉弟の名も偽名であろう。この三者が行き着くところは同じに違いないと、賢吉は確信した。
 姉弟にかなり接近してしまった賢吉は、とうとう気付かれてしまった。
   「お姉さん、大根は要りませんか、一本十二文です」
 不審がられる前に、賢吉が声を掛けたのだ。
   「要りませぬ」
 つっけんどんな物言いが、武士の娘であることを明かしている。
   「美味しいですよ」
   「要らないと言ったら、要らないのです」
   「お屋敷まで、お持ちしますから一本如何です」
   「諄い、怒りますよ」
   「すみません」
 諦め乍らも、尚も付いてくる賢吉に、弟が刀を抜いて脅してきた。
   「戻れ、我らに付いてくるな」
   「俺も、こちらに戻りますので…」
   「それなら、もっと離れて歩け」
 賢吉は、仕方なく傍らの石積みに腰を掛けて休息する振りをした。先ほどから、賢吉は大根の葉を毟っては道の端に捨てているが、これは満更腹いせでもなさそうである。
 
 やがて姉弟が、森の木に覆われた荒れ寺に入って行くのを賢吉は見届けた。こっそり忍び込んで様子を窺うと、やはり仇敵笹川と倉掛姉弟は仲間であり、親子のようであった。円く囲んだ人々の真ん中には、巾着や財布が置かれている。
   「やはり、掏摸の集団だったか」
 賢吉が小さく呟いたとき、何者かに肩を掴まれた。
   「おい小僧、何をしておる」
 賢吉は驚いて飛び退いたが遅かった。腕を取られて後ろ手に捩じ上げられた。

  ・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 次回からは、桐藤右近こと目明し右吉の登場である。

   
   「猫爺式小説作法?」第一回
   「猫爺式小説作法?」第二回
   「猫爺式小説作法?」第三回
   「猫爺式小説作法?」第四回
   「猫爺式小説作法?」第五回
   「猫爺式小説作法?」第六回
   「猫爺式小説作法?」第七回
   「猫爺式小説作法?」第八回
   「猫爺式小説作法?」第九回
   「猫爺式小説作法?」第十回(終)


最新の画像もっと見る