雑文の旅

猫爺の長編小説、短編小説、掌編小説、随筆、日記の投稿用ブログ

猫爺のエッセイ「猫爺式小説作法?」第九回

2015-12-07 | エッセイ


  猫爺の連続小説「賢吉捕物帖」第八回
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更に進むと、森の木々の間から灯りが見えた。右吉と幹太は灯りを目指して森に入ろうとした時、幹太が何かに躓いて転びそうになった。
   「右吉親分、足元に大根が…」
   「そうか、あの荒ら家に賢太が掴まっているらしい」
 近付いて荒ら家の中を覗いてみると、大勢で酒盛りをしている。賢太はと見ると、隅の柱に縛り付けられて居眠りをしている。
   「泣いているかと思えば、賢太のヤツ船を漕いでいやがる」
   「さすが長次親分の息子だ、肝が据わっていますね」
 さて、踏み込もうにも多勢に無勢である。しかも、刀を持った武士も居る。右吉は、刀を持っていない。右吉は何を思ったか、懐の十手を幹太に渡した。
「幹太は、その辺に隠れて待っていてくれ」と、単身で荒ら家の中へ入っていった。
「旅の途中で日が暮れてしまいました」
「それがどうした」
 酒に酔った浪人風の男が、腰に刀をぶっ込んで出てきた。
   「提灯をお借りしたいと思いまして…」
 聞き慣れた声に、賢太が目を覚ました。
   「嘘をつけ、旅支度はしておらんじゃないか、お前目明しだろう」
 男は、いきなり右吉の懐に手を突っ込んだ。十手を隠し持っているのではないかと疑っているようだ」
   「いえ、武家の下働きでございます」
 男は、右吉の懐から巾着を掴み出して紐を解いた。
   「チッ、しけてやがんの、たったこれだけかい」
 男が巾着の中を覗いたとき、右吉は素早く男の刀を抜き取った。刀が手に入れば酔った男の十人や二十人など右吉の敵ではない。縛られた賢吉のところに走り寄ると、縄を切った。
   「賢吉、表で幹太が待っている、呼んで来い」
 右吉は叫ぶと、刀の峰を返して構えた。
   「刀を隠し持っているところをみると、貴様たちはただの掏摸集団ではなかろう、拙者が退治してやる」
 右吉は、刀を手にすると武士に戻る。
   「刀を捨てろ!」
 そのとき、右吉の後ろで男の声がした。
   「捨てぬと、このガキの命はないぞ!」
 幹太を呼びに行った筈の賢吉が、男に羽交い絞めされて首に匕首を押し当てられている。賢吉が、少し暴れでもしたら、刃が喉笛を引き裂く。右吉はあっさりと降参して、黙って刀を自分の足元へ投げ捨てた。男は、賢吉を羽交い絞めにしたまま右吉の傍まで摺り足で近寄り、右吉が捨てた刀を蹴り離した。
 蹴った瞬間、男の持った匕首が賢吉の首から少し離れたのを右吉は見逃さなかった。男の匕首を持つ手首を、掌底でしたたかに打ち据えた。
   「あっ!」
 男は、思わず匕首を落とした。賢吉は、そのまま逃げるかと思えば、男の方に向き直って、男の下腹を力任せに蹴り上げた。その間に右吉は刀を拾うと、男が蹲るのを確かめ、賢太に「行け!」と目で合図をした。
賢吉は幹太を呼びに走ろうとしたが、幹太は騒ぎを聞きつけて荒ら家に入ってきたところだった。
   「賢吉、大丈夫か、首に血が滲んでいるぞ」
   「大丈夫です、親分が助けてくれました」
 右吉に対していた男が、また一人ドタンと倒された。
   「幹太、倒れているヤツ等を縛れ! その隅に荒縄がたくさん有る」
   「よしきた」
 幹太に手伝って、賢吉も倒れている男たちの手足を縛った。

 最後に三人残った。右吉はこの集団の頭目と思しき浪人に向かって刀を中段に構えている。賢吉と幹太が見ていて、右吉が苦戦をしいられているのが分かる。浪人が相当の腕を持った手練れなのだ。
 右吉は、対している浪人に打ち込む隙がなく、手古摺っている。賢吉は、右吉に助勢する術もなく、焦りが出てきたとき、浪人に隙が出来た。
   「娘に、手をだすな!」
 浪人の視線の先を見れば、幹太が娘を縛ろうとしている。その浪人の声を聞いて、弟らしい少年が幹太の背中に刀を振り下ろそうとしている。
   「危ない!」
 賢吉は、咄嗟に懐の巾着を取り出すと、少年の顔をめがけて投げつけた。

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 「下手の横好き」というが、猫爺はこんな乱闘の描写が好きだ。現実では出来っこないので、フィクションの世界で自分が「池田の亥之吉」になったり、「佐貫慶次郎」になったり、「桐藤右近」になって暴れるのである。

   「猫爺式小説作法?」第一回
   「猫爺式小説作法?」第二回
   「猫爺式小説作法?」第三回
   「猫爺式小説作法?」第四回
   「猫爺式小説作法?」第五回
   「猫爺式小説作法?」第六回
   「猫爺式小説作法?」第七回
   「猫爺式小説作法?」第八回
   「猫爺式小説作法?」第九回
   「猫爺式小説作法?」第十回(終)
   

   


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