MBAで教える「交渉術」

MBA留学先での「交渉」の授業内容を配信。といっても最近はもっぱら刺激を受けた本やMBAについて。

<21-1>交渉準備のイロハ

2005-11-04 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
実際に交渉するとなると、多くのヒトは(特に日本人は)「とりあえず交渉の場に出て相手の出方をみよう」と思うようです。
臨機応変に、相手の出方に応じて柔軟な対応を考えたほうが有利に思えるからかもしれません。

しかしながら、実際に交渉のプロが準備ゼロで現場に出ることはほとんどありません。
やむを得ない場合を除いては必ずしっかりとした準備がされるべきであり、まず準備段階で勝負の半分が決まると言っても過言ではないのです。
では、どんなことを準備したら良いのでしょうか。
今回からは、筆者が習った交渉準備の7つのステップを題材に、どう交渉を準備したら良いか考えてみましょう。

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-交渉の準備といっても、何をしたらいいんだろう?

実際に交渉に出る局面を考えると、こんな疑問が頭に浮かぶかもしれません。

とりあえず分かっている情報をまとめて、大体どんなことを要求しようか考える。
筆者も交渉術の授業を受講する前はおおよそこんな感じの漠然としたイメージを持っているだけでした。
準備をどうするか、は一見シンプルですが非常に重要なトピックともいえます。
ネゴシエーターの基本ともいえる交渉準備について、筆者のビジネススクールで教えていた枠組みを考えていきましょう。

ここで紹介する枠組みは、7つの要素から成ります。
慣れないうちは特に、それぞれの要素について、必ず紙に落として準備することが重要です。
そして準備に対しては、交渉そのものと同じくらいの時間をかけるのが一つの目安です(それほど交渉では準備がカギとなるのです)。

では、実際の準備に即して順番に手順を一つずつ見ていきましょう。

0. 状況整理

まず7つの要素に入る前に、基本的な状況整理をします。
ここで重要なのは2つのポイントについて、網羅的に考えておくことです。

第一に、誰が交渉の関係者なのか、すべてリストアップすることです。

この場合、明らかな交渉相手だけではなく、その背後にある利害関係者を、間接的な関係しかない存在も含めて洗いざらい書き出します。
また、中立的な存在であっても、交渉に何らかの関心がありうるのなら、一緒に書き出しましょう。
出来るなら、こうしてリストアップした登場人物について、誰が誰に対してどんな関心を持っているか、絵にしてしまう方が分かりやすいでしょう。
こうして登場人物を網羅的にリストアップすることで、頭の整理になることは勿論です。しかしプロはさらに一歩進めて、そのリストを元に仮想アライアンスの可能性を考えるといいます。
具体的に言うと、今は敵側のバックについている存在でも、問題の捉え方によっては味方に抱きこめるかもしれません。
あるいはそもそも今回の直接の交渉相手を動かすには、別の第三者が交渉相手にプレッシャーをかける事こそが肝になるかもしれません。
要は、交渉を誰と、何について行うのが最も良いのか、「この相手と交渉するんだ」という枠から離れて、別の選択肢も考えることに意味があるのです。
個別の交渉戦術を離れて、誰と、いつ、何について交渉すべきなのか、全体設計を考えるわけです。

第二に、何が争点なのかも網羅的にリストアップします。

ここでは交渉を問題解決と捉え、どちらが有利か不利かもとりあえず置いて、純粋に問題を書き下して見ます。
この段階では、どう交渉するか、とかどちらが有利か、を考慮する必要はありません。
単純に「このまま話し合いに入ったなら、どこで意見が食い違いそうか」をアイデア出しすれば良いのです。
これら二つを整理してみることで、交渉がおかれた現状が以前より明確になっているはずです。

いよいよ、7つの要素の準備に取り掛かります。

1. Interest(利害関心)

状況の整理ができたら、各登場人物の利害関心について、ここでもう一歩深く考えておきます。
自分側、相手側、さらに直接交渉には参加しない関係者に分けて、それぞれが「こうなったらいいな」と思っているであろう事を推測し、箇条書きにするのです。
ここで重要なポイントは2つあります。

第一に、箇条書きの項目が多く分かれば多く分かるほど交渉が有利になります。

つまらないと思うことでも、できるだけ多く書き出しておくべきです。
なぜなら、Interestが多く分かっていればいるほど交渉で戦術の幅が広がるからです。
何となれば、Interestが分かっているということは、譲歩しても良いと思うポイント、魅力を感じてどうしてもこだわるポイントを把握できることにつながります。
それらが分かってしまえば、どこで妥協すれば相手が合意しても良いと思うか(またはその逆)、推測することができます。

第二に、相手やその他の関係者を一枚岩と考えず、できるだけ細かく分けて考えておくべきです。

実際の交渉では、異なるバックグラウンドから様々な交渉人が集まってチームを組むことがあります。
例えば国際企業間の交渉では、本社の人間と現地法人の人間が一緒にチームを組んで、地元企業と交渉することもあるでしょう。
こうした場合、例えば本社と現地法人で微妙な利害の対立がある可能性もあります。
あらかじめそうした温度差が明らかになっていれば、交渉相手はそこをついて揺さぶりをかけることもできるのです。

(第21回続く)

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