少しマニアックな記事、『フランス建国記念日、’Le 14 juillet’(ル・キャトーズ・ジュイエ)に見るサヘル情勢』を書き進めている。
前回はパレードの開始から、栄誉礼、観閲飛行と続き、そしていよいよ分列行進に移る、というところ。
これからンボテ解説のもと、引き続き徒歩行進のパレードを見ていこう。名付けて『パレードの歩き方』、あ、失礼、それではパレードそのものだ、『パレードの見方』。
(リンク:France 2による中継。徒歩行進は0:31:46くらいから。)
徒歩行進の先頭を務めるのは、今回の目玉、マリ国軍だ。軍事介入を行なった仏軍、マリ軍の訓練にあたったEU軍をエスコートに従えて進むさまは、今回の作戦の構造をよく象徴している。特に仏軍は控えめに位置し、できるだけ表に出たくないという政治的配慮が行進部隊の配列にも現れている。
さてこのマリ軍。今回の部隊は緑のベレー帽(B�ret vert)を着用している。これはクーデター勢力、アマドゥ・サノゴ大尉影響下での国軍の象徴である。前大統領、アマドゥ・トゥナミ・トゥーレ時代の精鋭部隊はレッドベレー(B�ret rouge)だった。政変後の確執でグリーンベレーが主導を握り、レッドベレーは追われることとなった。今回の式典には政変勢力は招待しないとされているが、ここにマリ国軍がグリーンベレーで登場していることは、国軍内部事情を物語る。
本番前日、シャンゼリゼ通りでは、マリ軍の反復演練(訓練を繰り返すこと)が行われた(You Tubeにもその様子を報じるニュースがアップされている)。勝手のわからないパリのシャンゼリゼでの行進ということもあるのだろうが、そこには仏軍教官が前に出て教練にあたっている様が映し出されており、練度の低いマリ軍を訓練して前線配置するマリ本土でのオペレーションをそのまま再現しているようにも見える。確かに徒歩行進からはマリ軍の練度の高さはさほど感じられなかった。
(You Tube: 'Entraînement des soldats maliens, à l'honneur le 14 juillet' AFPより引用)
さて、パレードは引き続きマリ支援国際ミッション(MISMA)に参加した12の国のアフリカ軍の行進に移る。画面に大映しで現れる先頭正面に立つのはブルキナファソ軍だ。これはマリ問題仲裁、調整への貢献度を諮った配慮かと思いきや、「行進順序は外交的、儀礼的意味はなく、アルファベット順」とご丁寧に解説が加わる。確かにむかって右前からベナン、ブルキナ、コートジボアール・・。コンテクスト上、重要な説明だ。
先の14 juilletの記事でも触れた、参加の適否が一部から提起されたチャド軍も行進に含まれていた。チャド軍は今回の作戦ではきわめて大きな役割を果たし、そして70名が命を落とした。軍事的にはこのパレードにも堂々と参加する資格がある。他方、同国にはガバナンスの問題が依然大きく残っており、軍の影響も少なくない。こういった中で、チャド軍は過大にプレイアップされることも、参加が見合わされることもなく、12の軍の一つとして行進した。ここにフランス政府の慎重な配慮が反映されている。
(MISMAに参加したアフリカ12カ国の部隊行進。画面左上はトラオレ暫定大統領。)
MISMAに続き、7月1日付でマンデートがスタートした国連マリ安定化ミッション(MINUSMA)が行進する。12,600人が展開予定、うち約半数がMISMAからの移行だ。アフリカの他、中国、バングデシュなども派兵する。トラオレ暫定大統領、そして国連のバン・キムン事務総長が画面に映し出される。
MINUSMAの約半分は、MISMAから移行したアフリカ軍だ。しかし上記のマリの項でも少し触れたが、これらの軍は装備、部隊練度の点で国連の求める基準を必ずしも満たしていない。そういったこともあって、10月までは体制移行期間とされており、関係機関は準備を急ぐ。他方、先週開催された西アフリカ諸国経済共同体(CEDEAO/ECOWAS)サミットでは、議長国コートジボワールのA.ワタラ大統領から重要な発表があった。いわく、MINUSMAへの最大派遣国であるナイジェリアが、国内治安確保を理由に、「相当数(bonne partie)」の兵を引き上げざるをえないとのレターをECOWASに提出したとの由である。国連ミッション、課題山積の船出である。
(国連マリ安定化ミッション部隊の、徒歩行進)
そして満を持して仏軍、サバール作戦に参加した部隊へ行進へと移る。2013年1月よりマリに緊急展開し、最大で4,500人が派兵された。現在は半数強の撤退を終え、年末には1,000名あまりにまで縮小される。マリ北部の失地回復は達成されたが、局地的なテロやゲリラ戦の脅威を殲滅することはきわめて困難だ。今回のパレードの「凱旋」は、国際社会へのアピールと、連帯(solidarité)の要請でもある。
仏軍の行進には士気と規律が感じられる。さすが鍛えられた軍隊であるという印象だ。
(サバール作戦に参加した仏軍の行進。さすがに鍛えられた軍隊という威風だ。)
行進は続くが、アフリカとの関係ではこの辺までで見ておけば十分であろう。こののち、EU部隊、陸海空軍、憲兵隊などと部隊徒歩行進は続く。ちなみに徒歩行進の締めくくりは必ず外人部隊(Légion Etrangère)が務めることとなっている。ゆっくりとした歩調で、どっしり、堂々と行進する。そして快晴の青空のもと、巴里祭の祭典は延々と続く。。。
このように、軍事パレードをつぶさにみていくと、政治的、軍事的な意味で興味深い示唆がある。
最後に、アフリカを離れて『パレード学』がよくわかる蛇足を・・・とおもったが、長くなったので、ここから先は次回へ。
(番外編へつづく)
◆あわせて読む
祝・フランス建国記念日~'Le 14 juillet'にみるアフリカとフランス
軍事パレード学(前編)~14 juilletにみるサヘル情勢
前回はパレードの開始から、栄誉礼、観閲飛行と続き、そしていよいよ分列行進に移る、というところ。
これからンボテ解説のもと、引き続き徒歩行進のパレードを見ていこう。名付けて『パレードの歩き方』、あ、失礼、それではパレードそのものだ、『パレードの見方』。
(リンク:France 2による中継。徒歩行進は0:31:46くらいから。)
徒歩行進の先頭を務めるのは、今回の目玉、マリ国軍だ。軍事介入を行なった仏軍、マリ軍の訓練にあたったEU軍をエスコートに従えて進むさまは、今回の作戦の構造をよく象徴している。特に仏軍は控えめに位置し、できるだけ表に出たくないという政治的配慮が行進部隊の配列にも現れている。
さてこのマリ軍。今回の部隊は緑のベレー帽(B�ret vert)を着用している。これはクーデター勢力、アマドゥ・サノゴ大尉影響下での国軍の象徴である。前大統領、アマドゥ・トゥナミ・トゥーレ時代の精鋭部隊はレッドベレー(B�ret rouge)だった。政変後の確執でグリーンベレーが主導を握り、レッドベレーは追われることとなった。今回の式典には政変勢力は招待しないとされているが、ここにマリ国軍がグリーンベレーで登場していることは、国軍内部事情を物語る。
本番前日、シャンゼリゼ通りでは、マリ軍の反復演練(訓練を繰り返すこと)が行われた(You Tubeにもその様子を報じるニュースがアップされている)。勝手のわからないパリのシャンゼリゼでの行進ということもあるのだろうが、そこには仏軍教官が前に出て教練にあたっている様が映し出されており、練度の低いマリ軍を訓練して前線配置するマリ本土でのオペレーションをそのまま再現しているようにも見える。確かに徒歩行進からはマリ軍の練度の高さはさほど感じられなかった。
(You Tube: 'Entraînement des soldats maliens, à l'honneur le 14 juillet' AFPより引用)
さて、パレードは引き続きマリ支援国際ミッション(MISMA)に参加した12の国のアフリカ軍の行進に移る。画面に大映しで現れる先頭正面に立つのはブルキナファソ軍だ。これはマリ問題仲裁、調整への貢献度を諮った配慮かと思いきや、「行進順序は外交的、儀礼的意味はなく、アルファベット順」とご丁寧に解説が加わる。確かにむかって右前からベナン、ブルキナ、コートジボアール・・。コンテクスト上、重要な説明だ。
先の14 juilletの記事でも触れた、参加の適否が一部から提起されたチャド軍も行進に含まれていた。チャド軍は今回の作戦ではきわめて大きな役割を果たし、そして70名が命を落とした。軍事的にはこのパレードにも堂々と参加する資格がある。他方、同国にはガバナンスの問題が依然大きく残っており、軍の影響も少なくない。こういった中で、チャド軍は過大にプレイアップされることも、参加が見合わされることもなく、12の軍の一つとして行進した。ここにフランス政府の慎重な配慮が反映されている。
(MISMAに参加したアフリカ12カ国の部隊行進。画面左上はトラオレ暫定大統領。)
MISMAに続き、7月1日付でマンデートがスタートした国連マリ安定化ミッション(MINUSMA)が行進する。12,600人が展開予定、うち約半数がMISMAからの移行だ。アフリカの他、中国、バングデシュなども派兵する。トラオレ暫定大統領、そして国連のバン・キムン事務総長が画面に映し出される。
MINUSMAの約半分は、MISMAから移行したアフリカ軍だ。しかし上記のマリの項でも少し触れたが、これらの軍は装備、部隊練度の点で国連の求める基準を必ずしも満たしていない。そういったこともあって、10月までは体制移行期間とされており、関係機関は準備を急ぐ。他方、先週開催された西アフリカ諸国経済共同体(CEDEAO/ECOWAS)サミットでは、議長国コートジボワールのA.ワタラ大統領から重要な発表があった。いわく、MINUSMAへの最大派遣国であるナイジェリアが、国内治安確保を理由に、「相当数(bonne partie)」の兵を引き上げざるをえないとのレターをECOWASに提出したとの由である。国連ミッション、課題山積の船出である。
(国連マリ安定化ミッション部隊の、徒歩行進)
そして満を持して仏軍、サバール作戦に参加した部隊へ行進へと移る。2013年1月よりマリに緊急展開し、最大で4,500人が派兵された。現在は半数強の撤退を終え、年末には1,000名あまりにまで縮小される。マリ北部の失地回復は達成されたが、局地的なテロやゲリラ戦の脅威を殲滅することはきわめて困難だ。今回のパレードの「凱旋」は、国際社会へのアピールと、連帯(solidarité)の要請でもある。
仏軍の行進には士気と規律が感じられる。さすが鍛えられた軍隊であるという印象だ。
(サバール作戦に参加した仏軍の行進。さすがに鍛えられた軍隊という威風だ。)
行進は続くが、アフリカとの関係ではこの辺までで見ておけば十分であろう。こののち、EU部隊、陸海空軍、憲兵隊などと部隊徒歩行進は続く。ちなみに徒歩行進の締めくくりは必ず外人部隊(Légion Etrangère)が務めることとなっている。ゆっくりとした歩調で、どっしり、堂々と行進する。そして快晴の青空のもと、巴里祭の祭典は延々と続く。。。
このように、軍事パレードをつぶさにみていくと、政治的、軍事的な意味で興味深い示唆がある。
最後に、アフリカを離れて『パレード学』がよくわかる蛇足を・・・とおもったが、長くなったので、ここから先は次回へ。
(番外編へつづく)
◆あわせて読む
祝・フランス建国記念日~'Le 14 juillet'にみるアフリカとフランス
軍事パレード学(前編)~14 juilletにみるサヘル情勢