リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

バッハのリュート組曲995タブ化メモ(8)

2009年03月25日 11時04分22秒 | 音楽系
あとバスのラインをどう演奏するかに関して、これは編曲の問題ではなく演奏上の問題でしょうが、バッハはマメに休符を書いていてそれをリュート上ではどう処理すべきなのかという問題があります。

例えばプレリュードのtres visteの部分のバスは、拍の最初に音があるだけのときは、付点8分とか、4分音符+8分休符ではなく、8分音符+8分休符+8分休符という風に全て書かれています。

このようにバッハがマメに休符を書いた、というのは実は当時のリュートのバス弦の響きが低い音に関してはあまり音の持続がなかったので、それをバッハが音符にしたにすぎない、だから実際の演奏に際しては別にわざわざひとつずつ消音をしていく必要などない、という考えることも可能です。これはもちろん当時のバス弦と同じ弦を使っているという前提がありますが。

このあたりは実は結構微妙で、リュートのガットをもとにしたバス弦の復元技術と関係してきます。私見ではまだ誰でも安心して使えるレベルにぼちぼち達しつつも、もう一歩というところだと思います。ヤコブ・リンドベルイなどはオリジナル楽器でアキーラ社のローデド・ガットのバスを張って演奏していますが、ローデド・ガットのバスであっても結構音は持続し、きちんと消音しないと、ピラミッド社の弦を使ったときと同様、バスのラインは音が濁ってぐちゃぐちゃになってしまいます。

ということで、私自身は、昔式の弦を使うとバスの消音は必要ないという考えは間違っていると思っています。以前(今も出てるかも知れませんが)ドイツの弦メーカーでガット芯の金属巻き弦を出していました。これはオリジナルの弦はこういった感じだということで出していたんでしょうが(実はガット芯の現代風金属巻き弦はヒストリカルではありません)、音は多分あまり持続のない音がオリジナルだろうと想定していたようで、ポコポコの音でした。あまりに持続音が短くて、音程感すら希薄な弦もありました。簡単に言うと使い物にならないということです。

バス弦に関しては、例えばヴァイスはこんな弦を使っていた、という物的文献的証拠がありませんので、当時作られていたいろんなタイプの弦(これは絵とか残っている断片的な弦からわかります)を作り実践検証していくしかありません。今のところ、アキーラ社が出している「ゆる巻き線」(open wound string)が一番いいのではと思っています。あと、「ある程度は」切れにくい細い高音弦も必要です。

ということで弦の話に深入りしますとキリがないのでこのあたりで止めますが、バッハが書いた休符は私としてはきちんと尊重して演奏しています。

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