リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

ハンス・ホルバイン「大使たち」

2019年05月30日 22時27分27秒 | ウソゆうたらアカンやろ!他【毒入注意反論無用】
○経新聞の文化欄コラムで新シリーズの登場です。題して「十七世紀オランダ市民と絵画十選」。この欄は鬼門ですが(笑)、17世紀のオランダ絵画とくればまたリュートが出て来て、間違った解説が・・・そうならなければいいのですが。10日間楽しませて頂きます。

今年のバロック音楽の旅13シリーズはいつもと異なり第1回が9月ですが(例年は6月です)、ぼちぼち下調べをということで、第2回のレクチャー「名画を聴く!」の絵を選び始めました。

選ぶ絵は、楽器が描かれているとか合奏している様子が描かれているなど、音楽が関係している絵です。それらを鑑賞しつつ、この絵の音楽はこんな感じですという具合に進めていくふうに考えています。そこでまずは、ハンス・ホルバインの「大使たち」を選んでみました。



この絵はロンドンのナショナル・ギャラリーに収められています。現物をナショナル・ギャラリーで見たことがありますが、とても大きな絵で、多分人物は等身大くらいだと思います。そこに弦が切れたリュートが描かれています。この絵の詳細はレクチャーで語ることにしますが、描かれているリュートのことについて少し書いてみましょう。

楽器は6コースのいわゆるルネサンス・リュートで、1コースはシングル弦、他はダブル弦、ダブル弦のうち2,3コースはユニゾン、4コース以下はオクターブで張られています。切れている弦は4コースのオクターブ弦(f4)です。ペグ・ボックスには当然ながら切れている4コースオクターブ弦は描かれていません。1コース(g4)が一番切れやすく、4コースオクターブはそれほどではないとは思いますが、細い弦には違いないので、まぁそういうこともあるでんしょう。

念のためWikipediaで調べて見ましたら、ナント「・・・10本の弦のうち1本がなぜか切れてしまっているリュート・・・」とありました。

ウソゆーたらあかんやろ!

6コースリュートですので、弦は11本です。1本くらいどーでもいいんちゃう?と思われるかもしれませんが、こういうものは正確に書いてなければなりません。とりあえず修正しておきました。現在はきちんとなっています。

ウィキペディア「大使たち」

でも実は「10本弦のリュート」になっているのは、注6にある千足伸行先生の論文(1968)からの引用です。この論文を見てみますと、10本弦のリュートになっています。これだけならまだしも、そこから論を展開して、リュートの10本の弦と十戒との相関関係にまで言及しています。こうなると1本の違いが大きな意味を持ってきます。あららどうしましょう。描かれているリュートは11弦ですので、先生の論考は根底から崩れてしまいます。この先生って偉い方なんですよね。お若いときの著作とはいえ、やっぱりお伝えするべきかな?それとウィキの記事本文と脚注が一致しなくなるので、どうしたものか。

さてナショナル・ギャラリーは入場無料ですので、ロンドンにもし行かれることがあったらぜひ行ってみるといいと思います。絵に一杯まで寄れますので、画面手前に書いてある骸骨のアナモルフォーズもきちんと骸骨として見ることができて納得です。弦も数えてみて下さい。(これらはロンドンまで行かなくてもナショナル・ギャラリーのHPにある絵ファイルから確認できます)



リサイタル

2019年05月28日 00時15分36秒 | 音楽系
リサイタル「バロックリュートの時代中川祥治リュートリサイタル元年」が無事終わりました。今回はバロック・リュートの全時代を俯瞰するという趣向で、フランスの初期のものから、疾風怒濤のコンチェルトまで取りそろえました。5月としてはまさかの猛暑日でしたが、70名を超える多くの方にお越し頂き誠に有り難うございました。東は東京、横浜、西は大阪、東海地方は、伊勢、鈴鹿、浜松と、遠方の方にもお越し頂きました。



プログラムは、

ムートン/シャコンヌ
ゴーティエ/組曲ニ短調(プレリュード、メサンジョーのトンボー、カナリー)
ガロ/アルマンド「幸薄き女」
ロイスナー/組曲ヘ長調(アルマンド、クーラント、サラバンド、バレイ、ジグ)
4人の作曲家による組曲ハ長調(デュピュ/プレリュード、ガロ/テュレンヌ大元帥のトンボー、エモン/クーラント、作者不詳/ガヴォット、ガロ/シャコンヌ「彗星」)

休憩の後、ヴァイス/ソナタニ短調、コハウト/コンチェルトヘ長調

コンチェルのバックには、時本さなえ(Vn1)、鈴木崇洋(Vn2)、波多和馬(Vc)の各氏に参加を頂きました。リュートコンチェルのCDは結構出ていますが、ライブの場合はバランスを取るのがとても大変です。今回は写真のように立奏で、バックの弦楽器よりは少し前に出て演奏しました。録音を聴いてみましたが、なかなかいいバランスで録音されていました。でも実は立奏や前に出るという小手先だけで、コンチェルトのリュートと弦のバランスが取れるようになるという甘いものではありません。バックの弦の方には随分無理な注文を聞いて頂きました。リュートソロがあるところでは、普段の演奏では使わないような領域の音量で演奏しなくてはならないので、とても大変だったと思います。ホント感謝です。

他の曲も立奏でしたが、終演後来場頂いた方からはとてもよく響いていたとのお言葉を賜りました。音がより高い位置からでるのでよく通り、体の自由もきくので立奏はなかなか優れものです。

今日は久しぶりに少しのんびりさせて頂きました。昼前には先日発表されたMazda3を試乗してきました。(笑)夕方には近所の温泉に行ってのんびりと次のリサイタルのことを考えていました。ちょっと気が早いか。

フランスバロック音楽のエスプリ

2019年05月12日 20時30分12秒 | 音楽系
昨日は桑名六華苑春のミニコンサート「フランスバロック音楽のエスプリ」でした。バロック・リュートだけのコンサートですが、「フランスバロックリュート音楽のエスプリ」だとちょっと長くなるので、短縮版のタイトルで。(笑)

フランスの曲、それも初期中期ばかりだとどうしても渋い曲が多くなりがちですが、渋い曲はそのまま渋く、ちょっと派手目の曲もそのまま派手目にというコンセプトでプログラムを組んでみました。

曲目は:


シャルル・ムートン ( 1626-1692 ) 作曲
シャコンヌ

エヌモン・ゴーティエ ( 1575-1651 ) 作曲
プレリュード、メサンジョー氏のためのトンボー、カナリー

ドュビュ(17世紀中頃)作曲
アルマンド

ジャック・ガロ(17世紀後半)作曲
サラバンド「8時の曲」、アルマンド「幸薄き女」

エヌモン・ゴーティエ 作曲
クーラント「男殺しの麗人」、ムートンによるドゥブル

ジャック・ガロ作曲
アルマンド「トゥレンヌの大元帥のためのトンボー」、シャコンヌ「彗星」

ちょっとキャッチーなタイトルの曲もいくつか選んで、それをトークのネタにしてコンサートを進めて行きました。26日のリサイタルの前半とはほとんどタブらないようにしたのですが、リサイタルの曲をこっちの曲に変更するのもありかななんて考えたりもしていますが、どうしましょう。

楽譜は例のiPadで読むというのはもう昨年のこのコンサートでデビューしました。今回は立奏でやってみました。実はリサイタルも立奏で行う予定です。というのもコハウトのコンチェルトのときはリュートは立奏、バックは座奏にした方がバランスがよく取れる(=リュートの音がよく聞こえる)のではと考えたからです。リュートの立ち位置もバックより1メートル以上前に出ます。リュートが立奏=音が高い位置から出る、+2歩前へ、つまりより高くより前へで音量バランスの問題は解消です、多分。もちろんバックのヴァイオリン2人とチェロ1人の方にはリュートに合わせて相当注意深く演奏していただく必要がありますが、リハーサルの感じではリュートが音量を落としていっても問題ありませんでしたし、六華苑のライブでもとても音がよく通っていたと一番奥で聴いてらした方がおっしゃっていました。

さて六華苑のライブですが、秋にも予定しています。10月27日(日)14時です。オーボエの大山有里子さんにお越し頂いて、テレマンなどの作品を演奏する予定です。このコンサートは入場無料です。(六華苑の入苑料は必要です)

バロック音楽の旅13ホームページ

2019年05月10日 21時04分38秒 | 音楽系
バロック音楽の旅13講座のホームページを開設しました。この講座は全6回で、2回が座学、4回がコンサートです。Wix.comの無料ホームページ作成ツールで製作いたしました。このツールなかなか便利で使いやすいです。昔のホームページビルダーなんかはなんとなく素人臭く感じにしかできなかったんですが、このツールを使って作るとなんとなくそれっぽいものがたちどころに出来上がります。

PC用とスマホ用が同時に編集できますので、今回は特にスマホで見るとサマになるように作りました。このスマホサイトから直接申し込みができるようにしてあります。あとQRコードも作りました。


bit.do/tabi13

URLは短縮ツールで短縮してあります。このツールも無料。最近のブラウザはhttp://wwwなしで行けるみたいです。この程度の軽いサイトなら、みんな無料でできてしまうんですね。

受講料の決済はPayPalでの決済をお薦めにしておきましたが、まぁ年配の方はちょっと苦手かも知れません。お暇な方は一度覗いてみて下さい。


最強の弦?

2019年05月03日 22時07分11秒 | 音楽系
リュートを弾き始めてとっくに40年を過ぎてしまいました。下手すりゃ50年に届いてしまいます。その間いろんな弦を試してきました。自分の中のリュート史は弦の歴史でもあります。

26日のリサイタルにむけてフレットも弦も一新しましたが、今は以下のような弦の組み合わせでバロック・リュートを弾いています。

1コース→ナイロン(ガムート社製)
2,3コース→ナイルガット
4、5コースと6~13コースのオクターブ弦→フロロカーボン
6~13コースのバス弦→ローデドナイルガット

張力は、1、2コースが3.5キロ前後、ユニゾン弦、バス弦は3キロ前後、オクターブ弦はバス弦の85%くらいです。12,13コースはバスライダー保全のために10%くらい低めです。

せっかくのリサイタルだし、5月といういい気候の月なのでガットを使うということも考えましたが、コンチェルトではパワーが欲しいし、1コースや2コースのケバをいつも管理するのも面倒なのでやめました。

合成樹脂弦が切れないといっても細いナイルガット弦は、力学的な切れやすさから言えば、ガット弦よりよく切れます。といいますか、ガット弦が切れるのは、ケバが出てほつれてきて切れるのであって新品のときは細い弦であってもとても丈夫です。一方細いナイルガット弦は新品でも手で引っ張れば切れます。そもそも強度がないのです。2,3コースにナイルガットを使っておきながら、1コースにナイルガット弦の0.42あたりを使わなかったのはそういう理由からです。音色的にもちょっとキンキン気味でよくありませんし。

1コースのナイロン弦はガムート社製です。ガムート社はガット弦のメーカーですが、実はいいナイロン弦も作っています。音もクリアでそしてなにより精度がとてもよろしい。ピラミッド社のナイロン弦は精度が悪いのが多く、ひどいときだと8本目にしてやっと使えるのが出て来た、という経験があります。ガムートのナイロン弦はほぼ一発合格です。

フロロカーボン弦を使っているのは、温度に対する感受性からです。このフロロカーボンの替わりにナイルガットを使うという方法もありますが、太いナイルガット弦は温度の変化に対して、他の素材と反対の動きをします。すなわち、部屋の温度が上がると他の素材(ガットも含みます)は音程があがるのに対してナイルガット弦は音程が下がります。気温が下がる場合はその逆です。ガット弦やローデドナイルガット弦は気温変化による音程変化の度合いは少ないですが、ナイルガット弦はとても大きいのです。

ということで、切れにくい、気温の変化による音程変化がより少ないということを考えて上記の組み合わせにしています。6~8コースあたりのオクターブ弦がちょっと出過ぎる感じもしますが、耐久性と安定性のメリットはそれを補って余りあります。