むじな@金沢よろず批評ブログ

台湾、国際情勢、アニメなどについて批評

NHK「JAPANデビュー」第1回、どこが「反日媚中史観」よ?

2009-04-19 17:08:30 | 台湾言語・族群
私が留守にしている間に放映されて、現在一部日本の台湾関係者の間で話題になっているNHKスペシャル「JAPANデビュー」、第一回「アジアの”一等国”」。親日的といわれる台湾に残る日本植民地統治の傷跡ということで、旧制中学出身のエリート、原住民パイワン族、廟に関係する庶民などから証言を集めて、日本の近代化と台湾統治の負の側面を描いたものだ。
これに対して、日本の親台右翼「台湾の声」一派は、またぞろ「反日自虐左翼史観で、台湾を反日国家だという印象操作を行い、親日的な台湾と日本人を離間させようという工作を行った悪質なものだ」という批判を展開、インタビューを受けた元医者・柯三氏が後で「私が言ったことの一部だけを取り上げられ、不本意だ」と言ったことを嵩にして「当人も怒っている。NHKは謝罪しろ」などといきまいている。
それを右派の週刊新潮も取り上げて、大騒ぎになっている。
ほかにも右翼ではない何人からも「問題がある」と聞いていたので、これはよほどの媚中自虐史観(たとえば、南京虐殺を中国の誇大宣伝の受け売りで30万人あるいは100万人虐殺した式の誇張、捏造した反日宣伝の類)wなのかと思って、たまたま友人が録画していたため、土曜日夜にDVDを見た。半ばワクワクしながらw。

■英仏の野心も紹介し日本の植民地化を相対化
しかし、何のことはない。NHKのこの手の番組にしては、むしろマトモなくらいで、歴史観も言うほど日教組的、中国的な左翼自虐史観ではなく、戦後の謙虚で奥ゆかしい日本人が普通に持っている程度の中庸的な反省史観、「親日的といって、日本を手放しで絶賛しているのではなく、アンビバレントで、心の闇や傷もある」という至極当たり前な指摘をしているに過ぎないのだ。
それどころか、日本が台湾などの植民地を持った過程として、フランス、イギリス、ドイツなども台湾を狙っていた当時の情勢も紹介、さらにフランスの歴史学者の言葉で、「日本自身が植民地になることを免れるために、植民地を持つべきだという考えを当時の指導者が持った」という解説をしていた。
その後も、フランスのアルジェリア支配の同化主義、イギリスのインド支配の差別主義なども紹介しており、当時が帝国主義の時代だったことを想起させ、日本が植民地を持ったことは相対化されている。つまり植民地を持ったことそのものは、悪いなどと言っていない。
どちらかというと、自虐ではなく、むしろ弁解的で、本当の左翼自虐史観の人間が見たら「右翼史観だ」といわれても不思議ではない流れなのだ。
これは、私自身も台湾にいて、すんなり理解できる背景説明だ。
さらに「親日的といわれる台湾で残る植民地時代の傷跡」という点をウヨクは「台湾が実は反日と言いたいのだ」などと言いがかりをつけているが、私が見たらそういうニュアンスや意図は感じなかった。むしろ「親日的というと、台湾人が日本をすべて絶賛してくれると甘えてはならない。そこには当然、負の側面だってある。親日という言葉を日本人の都合で解釈してはならない」と言いたいのだと思う。別に台湾が親日的であることそのものを否定しているわけではない。ただし日本人が期待する親日と台湾人の親日では意味が異なるということだ。

つまりぜんぜんおかしくはないのだ。

■ウヨクは台湾独立派を理解していない
で、友人に借りたDVDには、予告編も入っていたのだが、それによれば、このシリーズは3年企画という大型なもので、幕末の開国以来の日本の世界におけるあり方を検証し、今後の自画像、方向性を探る、といったものだそうだ。それだったら、ポストモダン、近代化への反省と検証という視点になるのは当然であって、そうであれば、台湾支配も批判的に検証することになるのだ。
媚中だという批判があるが、登場しているのは、歴史学者の周婉ヨウをはじめ、みんな独立派ないしは本土派というべきであって、日本批判といっても、あくまでも台湾を主体にして述べたものであって、どこにも中国の影や中国に媚びたものはない。
まして末尾のほうで、台湾人元日本兵の老人たちが、台湾軍の歌を歌ったり、「われわれは(日本という)国に尽くしたのに、戦後は見捨てたのは台湾人をバカにしている」と戦後いまにいたるまでの日本人の不当な無責任と無関心を問題にしているシーンも流している。右翼がいうように、この番組が中国に媚を売ったものなら、こんなシーンはカットされたはずだろう。中国が一番いやがるのが、戦後の日本の台湾への介入なのだから。
これを「本土派の人にわざわざ反日的なことを言わせることで、台湾人を反日とイメージさせ、国民党や中国に媚を売った反日左翼媚中史観」などといっている人は、台湾の民主化以降形成されつつある台湾独立派の台湾主体史観というものの存在を知らないらしい。
そもそもウヨクにとっては、少しでも日本批判があると気に入らず、それがそのまま反日媚中につながってしまうらしい。まるで北朝鮮と一緒だ。
ウヨクにとっては、台湾が親日であるのは、日本統治をすべて絶賛し、中華的なものをすべて拒絶し、ひたすら日本がすばらしいといってほしいという単なる「媚日」であって、本当の意味での親日ではない。よき友人であるには、耳の痛いことや欠点の指摘も必要だ。
何でも言い合える仲こそが、「親」というべきであって、日本批判が許されないというなら、それは友人ではない。
台湾人は日本人にとって、あくまでも外国人だ。経過してきた歴史と視座がまるで違う。
それを踏まえないで、勝手に日本人側が「あるべき親日像」を設定し、それに当てはまらないものを批判も含めて排斥し、「媚中左翼」だというのは呆れる。そんなことでは、アジアでは反日しかいないことになってしまい、日本はアジアで孤立するだけだ。

■台湾人は親日だ、しかし媚日ではない
台湾人が親日だというのはその通りだ。しかし、それは台湾人が言うところの親日なのであって、日本人の期待にそっくり当てはまるわけではない。
情緒的親日の日本語世代の老人だって、ある瞬間、日本統治時代への恨み言を連ねる場合もある。いや、その世代同士で台湾語(と日本語のちゃんぽん)で話しているときは、学生時代に意地の悪かった内地人の教師や同級生の悪口で盛り上がっていたりする。
しかし台湾人が親日になったのは、日本語世代にとっては、戦後の中国国民党の支配がより悪質で、低劣だったからであり、若い世代にとっては戦後平和的で民主的な体制を維持し、経済大国にもなった日本に惹かれているのだ。
しかも台湾と韓国が、親日と反日に大きく明暗を分けたのは、韓国が戦後米軍の直接支配を受けて、当時最富強国だった米国の物量作戦の影響を受けて反日になったのと対照的に、台湾は国民党支配だったことだ。台湾も米軍に直接支配されていたら、きっと反日になったに違いない。そういう意味では日本人は蒋介石に感謝すべきかも知れないのだ。
したがって日本統治をすべて絶賛してほしいと思っている日本のウヨクは単にバカなだけだ。
台湾人は日本人ではない。日本人はオランダやスペインや清帝国や中国国民党の支配を受けたわけではない。愚劣な国民党にすらいとも簡単に騙され買収され、蜂起してもつぶされてしまった台湾人と大きく違う。
つまり日本人ウヨクと台湾人では、「親日」「愛日」といっても視座も背景も違う。

■台湾人を親日ではないという日本の左翼も台湾の実態を知らないバカ
その点では日本の左翼と中国人も同罪である。
日本の左翼のブログで、この問題を取り上げているものには、「それ見たことか、台湾が親日だというのは嘘だ」と喧伝しているのが笑える。
不条理日記 2009年04月13日 台湾は親日なんて誰が言ったのか?
台湾に住んだことも来たこともないで、空想で物事を考えているから、こんな妄言が出てくるのだ。
左翼にとっては残念なことかも知れないが、台湾は親日的だ。マレーシア、インドネシア、フィリピン、シンガポール(民間人)、パラオ、パプアなども親日的だ。バングラデシュ、イラン、レバノン、シリア、エジプト、イラク、それからブラジル、ベネズエラ、キューバなども親日だ。
世界では親日国家のほうがはるかに多い。
しかし、親日だからといって、日本のすべてをすばらしいというわけではない。台湾、マレーシア、インドネシアは、日本の支配の歴史にも肯定的だが、それはあくまでも日本人が反省して謙虚にしているから、「そんなことはない。中国、イギリス、オランダに比べたら、日本のほうがはるかに良かった」といってくれるのだ。もし日本人が恩着せがましく「日本は良いことばかりした」などといったら、「強制労働や慰安婦など、ひどいこともしたぞ」と反撃を受けるのがオチだ。
中東や中南米の親日も、対米戦争を行ったこと、戦後の復興と繁栄を評価しているのであって、日本の対米追随外交には憤慨する。
そういう意味で、世界の多くにある親日は、ウヨクが期待する「すべて絶賛」の媚日でもないが、かといって左翼が期待するような「実は反日」ではないのだ。
いや、左翼もウヨクも、「親日=すべて礼賛」という用語の定義をしている点では瓜二つで、それに該当しなければ「反日」といっている点では同じなのだ。いずれにしても島国根性のひとりよがりがそこに見える。ウヨクも左翼も日本人に必要なのは、異文化社会をでもまれる経験であり、それによって日本人の市場のイドラを相対化することだろう。

■台湾の実態を知らない中国人もバカ
中国人も、台湾の実態を知らないくせに、一部の外省人だけを見て、「台湾人は中国人」だの、「台湾も祖国大陸と同様に抗日精神を強めるべきだ」などといっているが、これも日本人以上にバカである。
台湾人に中華思想がないわけではない。しかし、そうでない部分のほうが実は大きい位置と割合を占めている。
中国人の悪いところは、漢人の文化や血統を少しでも受け継いでいる人間を見ると、すべて中国だけの基準で、相手の思想や文化を飲み込めると判断する点だ。
しかし、台湾人は顔を見ればわかるが、福建や広東の人間ともちがう顔つきの人間が南部を中心に半分以上はいる。宗教的慣習や料理の調理法などは漢文化そのものに見えるが、ビンロウを噛む習慣、さらには人間関係で和をとうとび、過ちを叱責、追及されたり、追い込まれることをメンツがつぶされたと考えたり、計画性がなく、記憶力が悪く、ドタキャンを平気でするところなど日常生活の部分では、台湾人ははるかにマレー的である。
しかも、台湾人は即物的で、主観的には漢人に近いと考え、人間関係のあり方など抽象的な面に気づかない点も、実はマレー的なのである。漢人なら、もっと抽象思考に強いはずだ。
台湾人には中華的な面はあるが、実は3割しか占めていない。あとは5割くらいがマレー的、2割くらいが日本的であったりする。
3割だけを10割であるかのように過大評価して、台湾人も中国人だなどと妄想する中国人は、国際的視野がないだけである。


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