むじな@金沢よろず批評ブログ

台湾、国際情勢、アニメなどについて批評

李安(アン・リー)監督の映画「色,戒」を見る

2007-10-25 02:51:56 | 芸術・文化全般
台湾で話題になっている李安(アン・リー)監督の最新作《色,戒》(肉欲、そして警戒とでも訳せばよい?)を台湾での封切から1ヶ月になる24日にやっと見に行った。最近ちょっと寒かったのとばたばたしていたのだが、24日は比較的暖かかったので見た次第。
感想としてはなかなかよかった。これはもう一回見ても良いかも。10点満点では8点くらいか。
1940年前後の日本占領下の上海と香港を舞台に、上海出身の中国系作家・張愛玲の同名短編小説を映画化したもの。本来はあまり好きな作家と題材ではないし、さらに台湾南部出身で台湾意識も強いとはいえ外省人である李安が映画にしたところは、若干微妙なところがあると思ったが、民進党政権関係者も嫌っていないし、それほど中国色はないと判断して見たところ、確かにあまり中国色はなく、良い映画だった。
あらすじ。第二次世界大戦期間中、中国では汪精衛(汪兆銘)が南京につくった親日政権と、重慶にあった蒋介石の国民政府と拮抗していた。嶺南大学の女子学生だった主人公の王佳芝は香港で舞台劇団に所属していたが、その劇団は「愛国抗日」の時流にのって汪精衛政府の要員でもある易氏を暗殺しようと計画した。そこで一番肉感がある王佳芝が汪精衛政府の関係者だった麥夫人になりすまして、マージャンを通じて易夫人に接近、さらに色仕掛けで易氏を誘惑し、暗殺の機会をうかがうことにした。ところが、王は肉体関係を通じて徐々に易氏に愛情を感じ、易氏も暗殺をうかがう蒋介石系統との闘争に忙しい毎日で日常の癒しを王に求めるようになる。そして易氏は高額の指輪を王にプレゼントした。その指輪を受け取りに宝石店に入る二人。その周辺には易氏暗殺団の劇団員たちが配置していた。しかし易氏に愛情を持っていた王は土壇場になって易氏に「逃げろ」と警告、その意図を察知した易氏がすばやく車に乗り込み逃走。緊急配備の結果、王と暗殺団員はすべて逮捕され、処刑されることになった。

色仕掛けということで、最初はもろレイプ、途中から和姦だが、ともかくベッドシーンがけっこうの時間続く。しかも体位もいろいろ変えていたところが、芸が細かいw(ちなみに、マレーシアやシンガポールや中国みたいに表現の自由がないところはこの部分はカットされて上映されているらしい。ご愁傷さまw)。王を演じた湯唯はわりとセクシーだったので、見ていてちょっとあそこが張り詰めたのだが、しかしベッドシーンでは変な効果音は使っていないから、それほどいやらしくはない。

言語は主としてかなり標準的な北京官話。それと舞台の上海では上海語、劇団員が香港ということで広東語、それから日本語、英語も出てきて、フランス語も聞こえた。また、宝石店主は名前はハリード・サイードと、アラブ人っぽいが、インド人のヒンディー系俳優が演じていたようで、店員とは何語がわからないのを話していた。
言葉についていうと、易氏を演じたトニー・レオンは香港人であるためか、北京官話はあまり上手ではなかった。南方訛なら話せるのだろうが、南京政府関係者ということで標準音を使わないといけないから矯正されたようで、ぎこちなかった。
それから、ヒロインを演じた湯唯はほとんど新人に近い扱いだが、呉語圏の杭州出身のようで、上海語も若干訛があるようだが話していたし、さらに広東語や英語も使っていた。この点は日本人もそうだが、中国人の芸人もプロ根性があるのだろう。
ちなみに、日本語が登場したのは、2回。一つは王が学校で日本語を学ばされるシーン。もう一つは易氏が上海の日本式料亭に王を呼び出すシーンで、例によって料亭に来ていた日本軍人が通りがかりの王に「美人だね」といって手を出そうとする「スケベ日本人」が描写されていた。
とはいえ、日本語の時代考証まではしていないと見た。

感想。
「抗日愛国青年」の話なので、台詞では「中国は滅びない!」と舞台で絶叫してさらに観客が呼応するシーンとかもあるが、全体的に張愛玲の小説を原作にしているわりには、また李安自身が外省の背景があるわりには、それほど反日的でもないし、大中国主義的でもなかった。特に、「愛国青年」の暗殺団側を擁護しているようにも見えなかったし、最後のシーンではむしろ「売国奴」とされた汪精衛政権側の易氏が王という愛する女性に裏切れた苦悩も描かれていて、そういう点では公平だったといえるだろう。
李安自身、むしろ国際的な題材の映画をとってきた経緯もあって、そうしたものから吹っ切れているからかも知れない。
さらに、これは現代への皮肉でもあるのだが、当時の上海はかなりの国際都市で、多様な言葉が乱れ飛び、おしゃれな街だった点もうきぼりにされていた。
だからこそ見ていて、こういう疑問がわいてきた。つまり、「抗日闘争」で外国勢力をすべて追いだして人民中国を建設した戦後は、果たして上海という都市のあり方に限定してみれば本当によかったのかと。そもそも「外国勢力を追い出して中華民族の独立を達成した」結果、北京官話を元にした普通話が普及し、いまでは上海語すら衰退しているようだし、何よりもアラブ系も跋扈していた往時の国際性は失われている。
そういう意味では、当時の国際都市ぶりを描いたことは現代への皮肉かもしれない。撮影に多大な協力をした上海の映画関係者がその点に気づかずに協力していたのだとしたら、それこそ悪質食品、環境破壊、労働者搾取、少数民族弾圧が横行している現代中国社会の鈍感さを如実に示すものだといえる。

主要キャスト
梁朝偉 …… 飾 易先生(易默成)
湯唯 …… 飾 王佳芝/麥太太
王力宏 …… 飾 〓[廣におおざと]裕民
陳沖 …… 飾 易太太
朱〓[草かんむりに止]瑩 …… 飾 秀金
高英軒 …… 飾 黄磊
柯宇綸 …… 飾 梁閏生
阮鏘 …… 飾 歐陽靈文/麥先生
錢嘉樂 …… 飾 曹副官
樊光耀 …… 飾 張祕書
阿努潘・凱爾(Anupam Kher) …… 飾 珠寶店經理(特別演出)
〓[度の又を尺に]宗華 …… 飾 老呉


最新の画像もっと見る