大谷康子&横山幸雄 デュオ・リサイタル

  

クライスラー: 愛の喜び/愛の悲しみ/美しきロスマリン
モーツァルト: ヴァイオリン・ソナタ第25番 ト長調
シューベルト: 即興曲作品90の第2
横山幸雄: オマージュ・ア・ラフマニノフ~ヴォカリーズ
ショパン: 英雄ポロネーズ
フランク: ヴァイオリン・ソナタ イ長調、他
(2017年8月12日、大賀ホール)

 横山幸雄は、1990年ショパン・コンクール入賞など輝かしい経歴を持つ日本を代表するピアニスト。大谷康子は、都響コンサートマスターなどを経てソロ・活動を行う、海外オケとの共演も多いヴァイオリニスト。どちらもマスコミにもしばしば登場する有名人で、会場には多くのファンと思しき人が集まり、終始和やかな感じの演奏会だった。
会場は、音響的な理由から並行する壁面のない5角形の形をしていて、音響以外にも様々な配慮がなされているホール。

私のお目当ては横山幸雄で、普段はどうしても外人ピアニストに関心が向かうので、この日はこの著名な日本人ピアニストがどのくらい素晴らしい演奏をするのか楽しみだった。
結果は予想以上で、このピアニストの演奏にすっかり魅せられてしまった。最初はクライスラーの小品3曲で、伴奏を超えてヴァイオリンに被っているような印象を持ったが、次のモーツァルトは最初の音から目が覚めた。イン・テンポで音楽はどんどん進むが、1つ1つの音、1つ1つのフレーズに音楽性が宿っていて、立ち止まることのない音楽の流れがまぎれもないモーツァルトの世界を彫琢していった。
続くシューベルトの即興曲では、イン・テンポは変わらず、粒立ちのいい音と流れるような音の進行が、ロマンティックな時代の音楽を浮き彫りにしていた。ラフマニノフのヴォカリーズを基にした横山幸雄の自由なファンタジーでは、このピアニストの抒情志向が伺えて面白かった。一方で英雄ポロネーズは、力強い強打音が大きな聴かせ場を作った。

後半の中心は、私の好きなフランクのソナタ。イザイの結婚式のために作ったというこの曲は、抒情もあり瞑想もある前半が幸福感に満ちた終楽章へとつながるもので、人気の点でもナンバーワン、おそらく現在最もコンサート・ホールで取り上げられる機会の多いヴァイオリン・ソナタではないだろうか。横山幸雄も一番演奏しているのではないかと言っていたが、ピアノ・パートが難しいうえによく書けていて、演奏し甲斐があることも演奏家に好まれる理由だろう。やはりイン・テンポで音楽をよく盛り上げていた。
日本人男性ピアニストとして独立していくためには、このレベルでなければならないんだというため息のような感慨。ただ、どの曲もどの曲もひたすらイン・テンポで進むので、今振り返ると、少しくらいは立ち止まって驚かせてほしかったとも思う。満足感を超えた、びっくりするような感動だろうか。

大谷康子のヴァイオリンは、音が柔らくて暖かいことが特徴だ。この音色感は、特に女性の聴衆に好まれるのはないだろうか。ただ音量が大きいとされるグァルネリにしては、押し出しが控えめな感じを受けた。しかし耳をそばだてれば、ホールの良さも手伝って、磨かれた美しい音色がよく伝わってきた。大きなジェスチャーで盛り上げる一方で、全体としては、女性としてのきめ細かい音色の美しさと優しさが印象的だった。

夏のシーズンにこのホールの演奏会を聴くのも3年連続となる。中村紘子さんのピアノとトークなど、今となっては懐かしい。演奏者が聴衆に話しかけたり、休憩時間に外に出れたり、このホール独特の雰囲気も楽しみの一つだ。ノーベル賞のN教授など、今年も会場は華やかだった。

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