「This Crazy Town」(石原江里子:ボーカル&ピアノ他)



 国立音大ピアノ科を卒業後、ロンドンのギルトホール音楽院ジャズ科で勉強し、そのままロンドンで音楽活動を行うジャズ・ボーカリスト兼ピアニスト石原江里子の3枚目のアルバム。石原のピアノと、現地での演奏仲間と思われるギターとベースとのトリオを中心に、適宜サックスとドラムスを加えて、スタンダード9曲とオリジナル4曲を演奏している。タイトルの「This Crazy Town」とはロンドンのことで、2曲目のオリジナルの曲名だ。「このヘンな街」とでも訳せるだろうか、ロンドンの土地と人に対する愛着を歌っている。

ピアノは、ジャズのイデオムが身についているので、一つ一つのフレーズがちゃんとスイングしている。バリバリ弾くタイプではないので派手さはないが、どの曲もよく弾き込まれているようで安定感がある。透き通ったきれいな声とイギリス英語は、ヘビーな声でのアメリカ英語のようなジャジーな雰囲気はないが、どの曲も十分に大人の雰囲気を持っていて、非常に上質な時間が過ごせる。端正な歌い方だが、むしろそれがこの演奏の最大の個性かもしれない。
日本人離れした国際派と言うよりは、ロンドンというローカルな場所で活躍する日本人ミュージシャンといったところだろう。面と向かって聴くよりは、クラブのような場所でウィスキー・グラスでも傾け、親しい人と話をしながら聴き流すのがおしゃれだ。

私もロンドンに2年間ほど住んでいたことがあるので(ロンドン大学大学院の学生でした)、ロンドンの音楽事情については多少の土地勘がある。ロンドンはフィルハーモニア管弦楽団(ダントツで一番いい)、ロンドン交響楽団、ロイヤル・フィルハーモニック管弦楽団などオーケストラのコンサートが充実していて、料金も比較的安い。オペラもコベント・ガーデン王立歌劇場(原語上演、オケはイマイチ)、イングリッシュ・ナショナル・オペラ(英語上演)と2つのオペラ・ハウスがある。その他、ミュージカルや演劇など、娯楽には事欠かない。ただ、ジャズは知らなかった。なんでも中心部のソーホー地区などにクラブがいくつかあるらしい。

ロンドンは東京と比べると「町」というより大きな「村」だ。中心部の大きな通りでも、裏通りに行くと人が住んでいる。時間もゆっくりと流れる。何かの機会にニューヨークから来たようなミュージシャンを聴くと、リズムが鋭く、いかにも競争社会を生き抜いて来たような、という印象を持つことがある。ロンドンには、もう少し中庸やマイペースや情緒を重んじるようなところがあって、ロンドンの魅力のエッセンスもそこだろう。
石原のホームページには「親に反対されながらも...」「さして才能もない私が...」の語が見える。このCDからは、自分の生き方を自分で決めている一人の日本人ミュージシャンの感じ方の機微が、音楽とともに伝わってくる。
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のだめカンタービレ(二ノ宮知子:作画)



「のだめカンタービレ」は、音楽大学を舞台にした女性向けコミック。大変な人気で、この秋からフジテレビ系列で上野樹里主演でドラマ化されるという。私の会社に音楽大学出身の女性がいて、その女性が面白いから読めと言って貸してくれるので、私は第1巻からまとめて全部読んでいる。(作画者は音楽とは無縁の人のようだ)。
両親が和太鼓のファンだという以外に音楽との接点がない海苔農家に育った「のだめ」こと野田恵は、上京して桃ヶ丘音楽学園ピアノ科に入学、そこで先輩の千秋真一と知り合う。9巻まではここでの学園生活で、10巻からはひょんなことからパリのコンセルバトワールに入学したのだめ(自称千秋の妻)と、指揮者コンクールを経て、パリのとあるオーケストラの指揮者になる千秋(のだめはガールフレンドですらないと主張)のコミカルな生活が描かれる。

私も音大出身の友人がいて、学生時代は時々は音大にも出入りし、学園祭などは裏方の手伝いなどもしたことがあるので、音大の雰囲気はある程度は知っているが、授業の中身までは知らない。職場のその女性に聞くと、このコミックで描かれている通りだという。さらにパリ編に入ると、指揮者コンクールの予選・本選の手順や、常任指揮者への就職活動など、興味深いことが次々と描かれているので結構面白い。
全体にコミカルな会話が多く、結構笑える場所もある。例えば、指揮者コンクールの予選でうまくいかなくて落ち込んでいる千秋に、ライバル陣営の女性が辛辣な言葉を浴びせると、先輩の心情を思いやったのだめは怒って、「ナメクジに塩をふるようなこと言わないでくだサイ!!」と大声で言い返す。そばで呆然とした千秋が「だれがナメクジだ・・・」とつぶやく、等々。

パリで音楽を学ぶというのは、やはり多くの日本人女性の夢のようだ。日本人のレベルも相当に上がっているのだから、テレビドラマの方は是非その筋の人々も満足させる内容にしてほしい。そしてその本格志向と素晴らしいストーリー展開で、日本のみならずアメリカでも多くの観客を魅了した日本映画の大傑作「Shall we ダンス?」のような夢のあるものにしてほしい。
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