（#472フランス映画「天井桟敷の人々」10からつづく）
パントマイム劇団の楽屋で、ナタリーとバチストの語り合いが終わり、フレデリックとガランスの語り合いが終わり、今度は大きな花とモントレー伯爵の登場である。
大きな花が持ち込まれ、ガランスが言う。
ガランス「誰かが死んだの？」
持ち込まれた花の後にガランスに惹かれているモントレー伯爵が現れる。
伯爵 「ええ、そのようです。自分を信じて疑わぬ思い上がった男をあな たが殺しました。」
ガランス「何か怖いわ。」
伯爵 「でも代わりに新しい男が生れ命を捧げに参りました。」
ガランス「何をお望み？」
伯爵 「御意のままに。
私はあなたの囚人ですから私の所有するものは相当な量ですが、あなた の足もとに捧げます。」
（ガランスの手にキスをしようととしてガランスに拒まれる。）
伯爵 「これは失礼。
これほどの熱い想いは初めてなのです。 でも口について出るのは陳腐 な言葉ばかり。しかし大切なのはあなたのお返事です。
一言で人生が変わります。
明日にもパリで評判の美しい貴婦人たちが唇をかんであなたに嫉妬する はず。極上の宝石に豪華な馬車も」
ガランス「馬は怖いの。」
伯爵 「そうおっしゃらずに。」
ガランス「いらないわ。結構よ。」
伯爵 「せめて希望を持ちたい。」
ガランス「なら勝手に話していれば。
熱い想いを陳腐な言葉で語るのね。
ダイアモンド、馬、それに馬具、結構なことね。
お気楽な人生。
天から授かるならありがたくいただくわ。
でもあなたは言った、『一言で人生がかわります。』
まるで私の人生がつまらないものみたい。
でも楽しい人生よ。
突然やって来て財産目録を並べるなんてあきれるわ。私を見初めたとし ても。
私が誰かに愛されていたら？」
伯爵 「あり得ません。愛されるのは美しすぎます。美しさは難しいこの世へ の侮辱なのです。
人が美しさを求めるのは美を消し去り忘れ去るためなのです。」
ガランス「女たらしなの？」
伯爵 「どうか誤解なきよう。私は真剣です。
あなたをお守りしたいのです。」
ガランス「守る？」
伯爵 「そうです。
私は変った。自分をもてあましています。
あなたを見て以来、子供じみた夢に浸っています。
年をとったせいか、雷に打たれたからか、打ち砕かれてしまったよう です。
中味のないこの紙のチキンもそうです。
（と言って、紙チキンを板ドラムにぶつける。雷の擬音が鳴る。）
ガランス「鳴らしたら３ドルの罰金よ。」
伯爵 「申し訳ないことを。ご無礼をお許し下さい。」
雷の音を聞いて座長が現れる。
座長「雷を鳴らしたのは誰だ」
ガランス「私よ。」
座長「３フランの罰金だ。」
ガランスはモントレー伯爵に言う。
ガランス「３フランスの貸しよ。いつでもいいわ。働いて食べるから。」
伯爵 「それが事実なら結構ですが。
ではこれで。失礼をお許し下さい。
その美しさに我を忘れました。
自己紹介を忘れていました。
モントレー伯爵です。」
（と言ってガランスに名刺を渡す。）
伯爵 「持っていてください。
いい災難に見舞われるかも知れません。
私の助けが必要なことがあれば、身も心も投げうってあなたの力になり ます。
どうかこの言葉をご信頼下さい。」
と言ってモントレー伯爵は楽屋から去る。
入れ代わりにバチストが楽屋に入ってくる・
モントレー伯爵の言葉は如実にその頃のそのような立場の男が言うであろう言葉を発している。そして何も持っていない、ガランスのような立場の女性にして、何と見事なガランスの受け答えか。
しかし、この後、ガランスは思いがけない災難から自分の身を守るために、モントレー伯爵の渡してくれた名刺を使わないといけない羽目になるのである。そこで形式上二部作になっているこの映画の第１部「犯罪通り」が終わることになる。
そして第二部「白い男」では。ガランスはすでにモントレー伯爵夫人になっている。
その前に、この楽屋に入って来たバチストの荒れ振りを次回で紹介せねばなるまい。
（つづく）
画像；映画「天井桟敷の人々」より（モントレー伯爵はガランスを賛美する）
パントマイム劇団の楽屋で、ナタリーとバチストの語り合いが終わり、フレデリックとガランスの語り合いが終わり、今度は大きな花とモントレー伯爵の登場である。
大きな花が持ち込まれ、ガランスが言う。
ガランス「誰かが死んだの？」
持ち込まれた花の後にガランスに惹かれているモントレー伯爵が現れる。
伯爵 「ええ、そのようです。自分を信じて疑わぬ思い上がった男をあな たが殺しました。」
ガランス「何か怖いわ。」
伯爵 「でも代わりに新しい男が生れ命を捧げに参りました。」
ガランス「何をお望み？」
伯爵 「御意のままに。
私はあなたの囚人ですから私の所有するものは相当な量ですが、あなた の足もとに捧げます。」
（ガランスの手にキスをしようととしてガランスに拒まれる。）
伯爵 「これは失礼。
これほどの熱い想いは初めてなのです。 でも口について出るのは陳腐 な言葉ばかり。しかし大切なのはあなたのお返事です。
一言で人生が変わります。
明日にもパリで評判の美しい貴婦人たちが唇をかんであなたに嫉妬する はず。極上の宝石に豪華な馬車も」
ガランス「馬は怖いの。」
伯爵 「そうおっしゃらずに。」
ガランス「いらないわ。結構よ。」
伯爵 「せめて希望を持ちたい。」
ガランス「なら勝手に話していれば。
熱い想いを陳腐な言葉で語るのね。
ダイアモンド、馬、それに馬具、結構なことね。
お気楽な人生。
天から授かるならありがたくいただくわ。
でもあなたは言った、『一言で人生がかわります。』
まるで私の人生がつまらないものみたい。
でも楽しい人生よ。
突然やって来て財産目録を並べるなんてあきれるわ。私を見初めたとし ても。
私が誰かに愛されていたら？」
伯爵 「あり得ません。愛されるのは美しすぎます。美しさは難しいこの世へ の侮辱なのです。
人が美しさを求めるのは美を消し去り忘れ去るためなのです。」
ガランス「女たらしなの？」
伯爵 「どうか誤解なきよう。私は真剣です。
あなたをお守りしたいのです。」
ガランス「守る？」
伯爵 「そうです。
私は変った。自分をもてあましています。
あなたを見て以来、子供じみた夢に浸っています。
年をとったせいか、雷に打たれたからか、打ち砕かれてしまったよう です。
中味のないこの紙のチキンもそうです。
（と言って、紙チキンを板ドラムにぶつける。雷の擬音が鳴る。）
ガランス「鳴らしたら３ドルの罰金よ。」
伯爵 「申し訳ないことを。ご無礼をお許し下さい。」
雷の音を聞いて座長が現れる。
座長「雷を鳴らしたのは誰だ」
ガランス「私よ。」
座長「３フランの罰金だ。」
ガランスはモントレー伯爵に言う。
ガランス「３フランスの貸しよ。いつでもいいわ。働いて食べるから。」
伯爵 「それが事実なら結構ですが。
ではこれで。失礼をお許し下さい。
その美しさに我を忘れました。
自己紹介を忘れていました。
モントレー伯爵です。」
（と言ってガランスに名刺を渡す。）
伯爵 「持っていてください。
いい災難に見舞われるかも知れません。
私の助けが必要なことがあれば、身も心も投げうってあなたの力になり ます。
どうかこの言葉をご信頼下さい。」
と言ってモントレー伯爵は楽屋から去る。
入れ代わりにバチストが楽屋に入ってくる・
モントレー伯爵の言葉は如実にその頃のそのような立場の男が言うであろう言葉を発している。そして何も持っていない、ガランスのような立場の女性にして、何と見事なガランスの受け答えか。
しかし、この後、ガランスは思いがけない災難から自分の身を守るために、モントレー伯爵の渡してくれた名刺を使わないといけない羽目になるのである。そこで形式上二部作になっているこの映画の第１部「犯罪通り」が終わることになる。
そして第二部「白い男」では。ガランスはすでにモントレー伯爵夫人になっている。
その前に、この楽屋に入って来たバチストの荒れ振りを次回で紹介せねばなるまい。
（つづく）
画像；映画「天井桟敷の人々」より（モントレー伯爵はガランスを賛美する）
