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安保法案:侵蝕される学問分野

2015-08-09 20:03:07 | 戦争法案
「防衛省の研究委託 大学は軍事協力拒否の堅持を」という記事が今日のしんぶん赤旗のWeb記事に上がっていた。

「主張 防衛省の研究委託 大学は軍事協力拒否の堅持を」(しんぶん赤旗 8月9日)

>戦争法案をすすめる安倍晋三政権のもとで、大学などを軍事研究に動員する新たな制度が動き出しています。防衛省が今年度予算で大学・研究機関に公募している「安全保障技術研究推進制度」です。

>防衛省はこれまでも大学などの研究者と共同研究を行っていますが、その目的は基礎的技術の交流というものでした。今回の制度は、防衛省が新しい兵器の開発につなげるための具体的なテーマを設定し、大学などに研究を委託するもので、軍事目的が明瞭です。大学などを軍事研究の下請け機関へ変質させ、「学問の自由」をじゅうりんする、きわめて危険な制度です。

>日本の大学は、戦前、侵略戦争に動員された反省から、平和憲法のもとで「学問の自由」が保障され、「学術の中心」として発展してきました。日本学術会議は、「戦争を目的とする科学の研究には、今後絶対に従わない決意の表明」(1950年4月)を行い、多くの大学で「軍事研究の禁止」が確認されてきました。

>ところが、大学ではいま、この10年余の「大学の構造改革」によって、基盤的研究費の大幅削減が断行され、「教授が受け取る研究費は数万円。実験費、実習費など授業に必要な経費さえままならない」という深刻な事態も生まれています。そうした兵糧攻めの一方で、資金がほしければ軍事研究に手をだせと誘導するような、卑劣なやり方は許されません。



「安全保障技術研究推進制度」とは

公益社団法人 計測自動制御学会

防衛省 「安全保障技術研究推進制度」のお知らせ
平成27年度から防衛省では競争的資金制度である「安全保障技術研究推進制度」を開始します。
本制度は、防衛省が掲げた研究テーマに対して、広く外部の研究者の方からの技術提案を募り、優れた提案に対して研究を委託するものです。
得られた成果については、防衛省が行う研究開発フェーズで活用することに加え、デュアルユースとして、委託先を通じて民生分野で活用されることを期待しています。
制度の概要は以下のとおりです。詳細はホームページ外部リンクをご参照ください。

制度名
安全保障技術研究推進制度

担当機関
防衛省

制度の概要
装備品への適用面から着目される大学、独立行政法人の研究機関や企業等における独創的な研究を発掘し、将来有望な研究を育成するため、優れた提案に対して研究を委託する競争的資金制度

募集対象
国内において、以下の機関に所属する研究者または研究者グループ。
研究の総括的な責任者 (研究代表者)は、日本国籍を有すること。
・大学、高等専門学校又は大学研究共同利用機関
・独立行政法人、特殊法人又は地方独立行政法人
・民間企業、公益社団法人、公益財団法人、一般社団法人又は一般財団法人

研究費
1件あたり、最大3,000万円/年程度(間接経費別途)

研究期間
3年以内

公募期間
平成27年7月上旬~平成27年8月中旬

研究費削減に喘ぐ大学や研究機関につけ込んだ、まさに「経済的徴兵制」に並ぶ、政府の姑息なやり方である。
どれだけ応募があったのかはわからないが、取り敢えず今回は8月12日で応募が締め切られる。おそらく今後もこうした試みは恒常的に続けられることだろう。

「防衛省・安全保障技術研究推進制度(競争的資金制度)」(防衛省・自衛隊)
「安全保障技術研究推進制度」


だが、“忍び寄る魔の手”はこれに限らない。日本の軍国化に向けてもっと根本的なところでそれは行なわれつつある。
話は少し遡るが、

「国立大学の人文系学部・大学院、規模縮小へ転換 文科省が素案提示」(産経新聞 2015年5月28日)

>文部科学省は27日、全国の国立大学に対して人文社会科学や教員養成の学部・大学院の規模縮小や統廃合などを要請する通知素案を示した。理系強化に重点を置いた政府の成長戦略に沿った学部・大学院の再編を促し、国立大の機能強化を図るのが狙いで、6月上旬に文科相名で大学側へ通知する。


「人文系学部など廃止・縮小方針 学術会議が批判声明」(しんぶん赤旗 7月24日)

>日本の学者・科学者を内外に代表する機関である日本学術会議は23日、大西隆会長らが会見し、文部科学相が6月に国立大学に求めた人文・社会科学系学部・大学院の廃止・縮小の通知を批判する幹事会声明を発表しました。

>声明は、社会的な課題に応えるには、自然科学と人文・社会科学が連携し総合的な知を形成する必要があると指摘。▽大学が社会の要請に応える上で、具体的な成果をはかりやすい要請もあれば、長期的な視野で創造性の基盤を養うという役割への要請もある▽「グローバル人材」とは単に国際的競争力をもつというだけでなく、文化的多様性を尊重し世界の人々とまじわり貢献できる人材でなければならない▽文化・歴史の理解に基づいた判断力、批判的思考力の重要性―などを強調。

>人文・社会科学の軽視は、社会の知的豊かさを支える大学の役割を失わせかねず、大学教育全体を底の浅いものにしかねないと批判しています。



文科省はもっともらしい理由を並べてはいるが、その目的は教育分野を画一化し、あるいは分野を狭めることにより政府がコントロールし易くすること。それはまた、自由な学問追求を阻み、ひいては言論封殺などにも通じる。

また一方、

「国旗・国歌の実施要請 文科相、国立大学長に」(産経新聞 2015年6月16日)

>下村博文文部科学相は16日、東京都内で開かれた国立大学長会議で「国旗と国歌の取り扱いについて、適切にご判断いただきたい」と述べ、大学の入学式や卒業式で国旗掲揚と国歌斉唱を実施するよう要請した。

>下村氏は要請の中で「各国立大の自主的な判断に委ねられている」と述べており、大学側の今後の対応が注目される。会議終了後、記者団に対し式典での国旗掲揚と国歌斉唱が慣行として実施されていることを要請の根拠にあげ、一部の大学教授らによる反対を念頭に「大学の自治や学問の自由に抵触するようなことは全くない」とも述べた。

>学習指導要領には入学式などで「国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導する」と明記され、公立小中高校のほぼ100%が実施。一方、大学には指導要領が適用されず、文科省によると、国立大全86校のうち、今年3月の卒業式での国旗掲揚は74校、国歌斉唱は14校にとどまっていた。



いかにも“グロテスク”な「押し付け」である。本来、政府にはここまでの権限は無いはずだ。

そして更に、

「教職員の政治活動制限、違反者には罰則も 自民文科部会、18歳選挙権引き下げで提言」(産経新聞 7月2日)

>自民党文部科学部会は2日、選挙権年齢を「18歳以上」に引き下げる改正公職選挙法の成立を受け、「学校教育の混乱を防ぐための提言」をまとめた。教員らの政治活動を制限し、違反した場合には罰則を科すことなどが柱。高校生の政治参加への意識を高める新科目「公共」(仮称)の創設も盛り込んだ。月内に政府に提言を提出し、関係法令の早期改正を目指す。

>提言では、「学校教育に政治的なイデオロギーが持ち込まれることがあってはならない」と指摘。高校をはじめとする公立学校の教員らの政治活動を制限するための教育公務員特例法改正のほか、私立学校でも政治的中立性が確保されるよう政府に教育基本法の周知徹底などの対応を求めた。

>日本教職員組合(日教組)が組合出身の候補者を積極的に支援したりするなど選挙運動に関与してきた過去を踏まえ、組合の収支報告を義務付ける地方公務員法改正も盛り込んだ。



18歳選挙権 自民党「提言」・高校生の主権者権利踏みにじるもの しんぶん赤旗 8月9日

 来年実施の参院選から選挙権年齢が「18歳以上」へ引き下げられるのにともない、自民党が「学校教育の混乱を防ぐため」と称して「提言」を安倍晋三首相に提出しています。教員への統制を強め、新たに選挙権を持つ高校生の権利を踏みにじる危険な内容です。

 提言は「学校における政治的中立性の確保」を繰り返し、学校現場で“混乱が懸念される”として9事例を提示。高校生の政治活動は「学校内外において生徒の本分を踏まえ基本的に抑制的であるべきとの指導を高校が行えるように」と求めています。

 教育内容への介入も打ち出しています。「政治参加に関する教育を抜本的に充実」として、新科目「公共」(仮称)の創設や、学習指導要領の抜本的改定の推進などを示し、「(高校生が)一党一派に偏った政治的活動に巻き込まれることとは峻別(しゅんべつ)する必要がある」と指摘。政治的活動に一線を画すよう指導が必要としているのです。

 教員に対しては「政治的行為の制限違反」への罰則に言及。教員の「偏向を防ぐ具体的手立て」の確立を求めています。さらに「政治的中立性の確保」を理由に教職員組合の収支報告を義務付けることなどを求めていますが、これらは労働組合への不当な介入をまねくおそれがあります。

 提言は繰り返し「政治的中立性」を強調しますが、国が教育に対して果たすべき責任は、条件整備などによって教育の営みを支えることです。教育内容への言及や、教員への懲罰を科すことは、教員の思想・信条の自由や政治的自由を侵害するとともに、憲法が保障する「教育の自由」を侵すものです。

 そもそも「政治活動は基本的に抑制的であるべき」と指導せよと求めることは、主権者である高校生が当然持っている、思想信条の自由や政治的自由などの権利を踏みにじることになりかねません。

 制度改正の前に行われた「政治倫理の確立及び公職選挙法に関する特別委員会」(5月29日)でも参考人の早田由布子弁護士が、学校現場はすでに政治を語ることに対する萎縮が進んでいるとして「政治について自由に語られる場がなければ、子どもたちが多様な意見に触れ…自分の意見を養うということもできなくなる」と指摘しています。(北野ひろみ)

自民党が「18歳選挙権」に賛成した背景には、昨今囁かれている「若者の右傾化」があった。支持者が増やせるとの思惑があったのである。
ところがどうも世間の様子がおかしい。そこで慌てて“歯止め”としての「提言」を打ち出したという次第だ。


これらを踏まえ、だが、学者も研究者も学生も、決して「はい、そうですか」ということにはならない。

「安全保障関連法案に反対する学者の会」



アピール賛同者(学者・研究者)の数は8月7日9時00分現在で13,013人に達し、市民賛同者は27,793人に及んでいる。

学者100人記者会見(2015年7月20日)


今改めて、集まった学者諸氏は、実に的確な意見を述べている。
当記事冒頭の「安全保障技術研究推進制度」については、名古屋大学の池内了教授が語っている。


以前、拙記事で、
>憲法、法学、政治学とは関係のない学者が何を言うかと揶揄するようなおバカなNetの書き込みも見られるが、侮ることなかれ。例えば、かの『大阪都構想問題』の折、藤井教授や森教授を中心として集まった学者達の専門分野は多岐に渡った。どんな学術分野であろうが物事は全てに連鎖している。もとより「戦争法案」は日本という国全体の話である。
と書いた。

自民党の高村あたりは、憲法学者が安保法制を「違憲だ」と指摘したことについて、「学者の言う通りにしたら日本の平和が保たれたか極めて疑わしい」とアホなことを言ったりしていたが、ついては、かの小林節教授が記者会見の席上で「30年以上自民党の勉強会に付き合って最近感じるのは、意見が違うと怒り出す人が多い。意見が合うとプロフェッサーとなるが、意見が違うと「小林さん、あんたね」となる。すげえ、やくざだなあと。」そう述べていたのに象徴されるように、都合が悪ければ、連中はただ見ない、聞かないで一方的に排除するだけだ。既にここに民主主義はない。

もういい加減、思い上がるのもここまでだろう。国民は“本気”だ。
民意無視でやりたい放題の驕りは、必ずしっぺ返しを食らう。




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