京都で呑む機会が約二年ぶりに訪れました。その貴重な機会に選んだのは教祖おすすめの「ごとし」です。
有り体に申しますと、最初からこの店を目指していたわけではありません。というのも、この暑さではたかが数分歩くだけでも只事ではなく、阪急電車の駅からなるべく近いところを選びたかったのです。かような観点から木屋町に狙いを定め、まず訪ねたのは
以前世話になった「
なゝ治」でした。ところが、そろそろ九時になろうかという時間帯にもかかわらず、まさかの予約満席という事態によりあえなく振られたのがことの発端です。
相当数の観光客が出ている状況から、繁華街は避けた方が無難と見て、多少の徒歩は止むなしと割り切り、次に目指したのが寺町二条の「
きのした」です。ところがこちらも祭りに出店するとかで、今日に限って臨時休業との張り紙が。気を取り直して近くの心当たりを訪ねると、今度は貸切営業との張り紙があり、事態は一挙に暗転しました。空前絶後の七連敗を喫した五年前の悪夢が脳裏をよぎる中、次なる選択肢として浮上したのが「ごとし」だったという次第です。
この店にも振られればいよいよ後がないという切迫した状況の中、明かりもまばらな路地裏をしばし歩くと、目指した場所に小さな置き行灯の明かりが見え、中をのぞくと少ないながらも空席はあるようです。意を決して暖簾をくぐると、品は少ないがそれでもよければとの断りが。加えて十時で閉店との条件付きです。しかし、この後に及んで四の五の言っている場合ではなく、全て承知の上で着席しました。酷暑の中を小一時間も歩かされ、三軒立て続けに振られた挙句、ようやく入った店も品不足とは何とも痛い結果ではありますが、ともかく最悪の事態だけは避けられました。
この店を初めて訪ねたのは
四年前の秋です。「居酒屋味酒覧」にはまだ掲載されておらず、知る人ぞ知る名著「ひとり旅 ひとり酒」を頼りに訪ねたのでした。その時以来の再訪だけに、記憶が不確かな部分はあるものの、まず感じたのは店内の雰囲気がごくわずかに変わったことです。年季相応の使用感が出てきた厨房に対し、客席、特にカウンター周りが真新しく感じられることからしても、最近改装されたのかもしれません。和装だった店主と女将も、それぞれTシャツ、エプロン姿に変わりました。
しかし、地酒を数種並べた細長い経木と、日替わりの魚を綴った横長二段組の品書きという組み合わせはそのままです。品が少ないとの予告通り、半分以上の品には縦線が引かれており、選べる品は限られます。しかし、酒をちびちびやるにはこれでも必要にして十分です。突き出しに加えて二品ほど選び、それを肴に燗酒二合をあおります。
酒については品数よりも内容重視ということか、山陰を中心に燗上がりのするもの数種に絞られており、獺祭だの寫楽だのといった流行の酒はありません。しかし、銘柄こそ限られてはいるものの、同じ銘柄につき生と火入、生酛と速醸など造りの異なる品を揃え、なおかつかなりの熱燗で供するといったところに一家言が感じられます。肴の品数が限られる状況でも、特に物足りなさを感じないのは、たらふく食うより酒をしみじみ味わうところにこそ、この店の真骨頂があるからなのかもしれません。東の「ふく郎」、西の「さきと」なる教祖の言葉を借りれば、東の「ぬる燗」、西の「ごとし」と呼びたくなる一軒です。
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ごとし
京都市中京区高倉通二条下ル瓦町543-1 EDU高倉1F
075-255-4541
1800PM-200AM(日祝日 -2200PM)
月曜定休
山陰東郷・玉櫻
突き出し(小鯵南蛮漬け)
鮎風干し
煮穴子炙り