一通りの用を済ませて、いよいよ待ちかねた松本の呑み屋街に繰り出しました。
以前から申しているように、自身にとって松本で呑むならここが一番と思うのが「
山女や」です。しかしこの店は、一番であると同時に、きわめて相性の悪い店でもあります。
三年前に初めて訪れ、その直後に再訪したまではよいものの、あとは満席と臨時休業で振られ続け、次に再訪したのはそれから二年近くも経った
去年の花見でのことです。その後お盆に訪ねたときは、またしても休業で振られました。そして、今回こそはと意気込んで乗り込むと、予約満席という無情の回答が。結果として、この店には二、三回に一回入れれば上出来というのがこれまでの戦績です。これさえなければ最高の店なのですがねorz
もっとも、たかが一軒振られたところで、勝手知ったる松本の呑み屋街ですから、慌てる必要はありません。
前回訪ねた「しづか」の暖簾を再びくぐります。
予約満席で付け入る隙もなかった「山女や」とは対照的に、広い店内は拍子抜けするほど閑散としています。しかし、ほどなくして四、五人の集団がテーブル席につき、次いで常連と思しき夫婦がカウンター席に座りました。こうなると、手持ち無沙汰に見えた厨房にも俄然活気が出てきます。酒場には適度な賑わいも必要と、今更ながら得心します。
二百人を呑み込む大店にもかかわらず、分厚い白木のカウンターで一人静かに呑め、むしろ家庭的な雰囲気がありありと感じられるのがこの店の貴重なところです。カウンターから向かって左の板場に店主、右の焼き台に若主人が立ち、大女将が右端のおでん舟を守って、気配り上手な若女将が接客をこなすという役割は前回と同様。しかし店内が慌ただしくなると、大女将が厨房に回って自ら焼鳥の串を打つなど、働く人々の一挙手一投足を眺めるだけでも楽しめます。
まずは手堅く焼鳥とおでんを選び、次いでわさびの花を肴に酒をちびちびやろうとしたところで、店主からさりげなく浸し豆の小皿が差し出されました。続いて注文した葱焼きを待つと、今度は沢庵、茄子と野沢菜を持ったお新香の小皿が。前回ここで食した野沢菜の瑞々しさが只者ではなく、今回もわさびの花との二者択一でかなり迷ったため、図らずも両方いただけたのは僥倖ということになるでしょう。これらであらかた腹が満ち、最後はなめこ汁で締めくくります。
終わってみれば、焼鳥以外全て野菜というのが冬の山国ならではでした。百花繚乱の海の幸に彩られる日本海沿いに比べて、ともすれば地味にも思える品書きながら、旅情を楽しむ向きにはむしろこの方がよいのです。ましてやそれらをこの店のカウンターでいただけるなら、他には何も要らないような気がしてきます。前回と同様、さすがと感服させてくれる名店でした。
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しづか
松本市大手4-10-8
0263-32-0547
1200PM-2300PM(日祝日定休)
岩波・真澄・加茂鶴
お通し(切り干し)
おでん二品
焼鳥二品
わさびの花
松本一本葱味噌焼き
なめこ汁
浸し豆・お新香(おごり)