菱沼康介の、丸い卵も切りよで四角。

日々の悶々を、はらはらほろほろ。

壁に耳あり。背中に刃あり。  『裏切りのサーカス』

2012年05月19日 00時01分17秒 | 映画(公開映画)
で、ロードショーでは、どうでしょう? 第302回。


「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」







『裏切りのサーカス』






トーマス・アルフレッドソンの『ぼくのエリ』に続く2作目。


凝縮と省略、観客を信頼した高等な知能ゲームの物語。

と書くのは簡単、これを撮り上げるのは並大抵のことじゃない。
おいおい、ここまで観客を信じられるのかと驚きを禁じ得ない。
日本でこれを・・・とか考えることさえ、はばかられるほどの抑制。
世界でもここまでストイックに語るのはよほどのことだ。


映画全体がモザイクタイルのようで、それは一つ一つが独立した絵でありつつも、全体で一つの模様を成している。

それを象徴するかのような壁紙や床の模様がそれ自体の美しさも伴って映し出される。
とくに、幹部の会議室の防音壁の美しさ。
画面配置とフォーカスのコントロールによって、その密度にも関わらず、スッキリと見やすいのだが恐れ入る。

撮影は盟友ホイテ・ヴァン・ホイテマ。
映像さえも凝縮されているかのようだ。

飾ったのは、マリア・ジャーコヴィクらの繊細な美術。

小骨さえ取り除くような細やかにつないだのは、これも盟友ディノ・ヨンサーテル。




原題は、『TINKER TAILOR SOLDIER SPY(ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ)』で、『キラキラ星』とかけられている。
ちなみに、意味は、暗号名で、詐欺師、仕立て屋、戦士、諜報員で、実際には、プアマン(貧乏人)とベガマン(どういう意味だろう?)の5人が二重スパイではないかと疑われる。
その二重スパイことモグラを探し出す金箔のスリラーでミステリー。


はっきり言って、映画の隅々まで見逃していなくても、ついていけないかもしれない。
プログラムの1ページ目には、ここを読んでおくとストーリーについていけます、というくだりがあるくらいだ。
それぐらい情報は説明的ではなく、確実にあるが見えない空気のように映画を満たしている。
映画を見ていること自体が、スパイ戦の実践に投入されたかのような緊張感に満たされた体験となる。
自分の脳みそが高速回転して、モーターのようにびりびりと音を立てるだろう。


視線一つ、小道具の配置一つが思惑を伝えている。
それは問いではなく秘密のようなもの。
秘密を暴くことの難しさ。
諜報とはそういう仕事。

それを見せてくれたのは、キャストの充実。
ゲイリー・オ-ルドマンの秘められた冷徹。
ジョン・ハート、コリン・ファース、トビー・ジョーンズ、キアラン・ハインズ、デヴィッド・デンシック、マーク・ストロングの内面の芝居がじんわりとにじみ出させる目の力、仕草。
ベネディクト・カンバーバッチ、トム・ハーディの若さが際立つ。





1カットさえ無駄がない、シミ一つさえ意図されたものと受け取らせる映画の美しさに浸れる。
なにしろ、イギリスのドラマ版は6時間近くある。
それが2時間にまとめられているのだ。
しかも、ただのダイジェスト版にならずに。
原作者のル・カレ自身がプロデュースしている。
 

まさに、人と闇を探るような、濃縮された静謐に浸れるスパイ映画。





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