で、ロードショーでは、どうでしょう? 第1011回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』
遺族年金の権利を求めて立ち上がった同姓カップルの感動の実話をジュリアン・ムーアとエレン・ペイジの共演で映画化したヒューマン・ドラマ。
原作はアカデミー賞に輝いた短編ドキュメンタリー『Freeheld』。
監督は、『キミに逢えたら!』のピーター・ソレット。
物語。
00年代、ニュージャージー州オーシャン郡。
女性でありながら警察官という過酷な仕事を20年以上も続けてきたローレル。正義感が強く、地域社会のために身体を張ってきたその仕事ぶりで同僚たちからの信頼も厚い彼女だったが、警察という男社会の中で立場を守るために、自分がレズビアンであることはひた隠しにしていた。
そんなある日、ステイシーという若い女性と出会い、恋に落ちる。
やがて、ローレルとステイシーは郊外に一軒家を購入し、共に暮らし始め、パートナー登録をする。
満ち足りた日々を送る2人だったが、突然ローレルが病に倒れ末期ガンと診断される。
自分がいなくなってもステイシーが家を売らずに暮らしていけるよう、遺族年金を遺そうとするローレルだったが、異性パートナーには当たり前に認められる権利が、同性同士であることが理由で拒否されてしまう。
原案は、シンシア・ウェイド (ドキュメンタリー「Freeheld」)。
脚本は、ロン・ナイスワーナー。
お手本のような感じ。
紋切り型の部分はありますが、入門編としては見やすいです。
出演。
ジュリアン・ムーアが、刑事のローレル・へスター。
このアメリカのタフガール(チャーリーズ・エンジェル感)な雰囲気がいいです。
エレン・ペイジが、整備工のステイシー・アンドレ。
眼に出るのよね。
マイケル・シャノンが、相棒のデーン・ウェルズ。
このいかつい容貌での繊細さがお見事。
スティーヴ・カレルが、LGBT組織のリーダーのスティーブン・ゴールドスタイン。
コメディ・リリーフを体現しています。
ゲイ役は『ミス・リトル・サンシャイン』、『フォックスキャッチャー』でもやっているだけあって、強調しないで雰囲気だけそう見せるという繊細な演技でやっていて、今回も魅せます。
ジョシュ・チャールズが、郡政委員のブライアン・ケルダー。
トム・マッゴーワンが、郡政委員のウィリアム(ビル)・ジョンソン。
ほかに、ルーク・グライムス、ガブリエル・ルナ、アンソニー・デサンド、スキップ・サダス、ケヴィン・オルーク
ウィリアム・サドラー、デニス・ボウトシカリス、アダム・ルフェーヴル、ジャニーン・カスパー、メアリー・バードソング、ケリー・デッドマン、など。
スタッフ。
製作は、マイケル・シャンバーグ、ステイシー・シェア、シンシア・ウェイド、ジャック・セルビー、ダンカン・モンゴメリー、ジェームズ・D・スターン、ジュリー・ゴールドスタイン、フィル・ハント、コンプトン・ロス、ケリー・ブッシュ・ノヴァク、エレン・ペイジ。
製作総指揮は、ロバート・サレルノ、リチャード・フィショフ、アミート・シュクラ、テイラー・レイサム、アダム・デル・デオ、スコット・G・ストーン、ヒラリー・デイヴィス、スティーヴン・ケリハー、グレッグ・シェンズ。
大変だったんだろうなぁ、というのをこの人数から受け取れますね。
撮影は、マリス・アルベルチ。
プロダクションデザインは、ジェーン・マスキー。
衣装デザインは、ステイシー・バタット。
編集は、アンドリュー・モンドシェイン。
音楽は、ハンス・ジマー、ジョニー・マー。
音楽監修は、リンダ・コーエン。
主題歌は、マイリーサイラス『ハンズ・オブ・ラブ』 。
同性愛者の女性刑事が末期に恋人に遺族年金を残す権利を得ようと戦う実話の映画化。お手本のような映画ゆえ逆に突っ込みの弱さは感じるがみんないい人に描くことでイメージの戦いを挑んでいるのだろう。
イメージへの意識が強く、それを象徴するキャラさえ出てくる。キャラの見せ方は巧い。
プライドがあったのか政治的なものとして描いている。けど、そこは好み。
偏見の描き方の弱さにもそれが現れている。
本物のエレン・ペイジを上回るジュリアン・ムーアの芸がさすが。
本筋は刑事ものの構成を利用するなど技術が見どころ。
ベールを取る勇気を与える秀作。
おまけ。
原題は、『FREEHELD』。
フリーホールド(freehold)の意味は、(不動産または官職の)自由保有権と郡政委員(FREEHOLDER)とのダブルミーニング。
その過去形なんですかね?
短編ドキュメンタリーも同じタイトルです。
上映時間は、103分。
製作国は、アメリカ。
映倫は、G。
キャッチコピーは、「愛があなたを強くする。」
愛は遺産になりえるだよなぁ。
製作はやはり大変だったようで、7年の月日を要しています。
この7年の間に、プロデューサーでもあったエレン・ペイジは、自身が同性愛者であることをカミングアウト。
この映画製作の影響だそうです。
ネタバレ。
パートナーの意味を二つかけているのが、巧い。
刑事のコンビとしての相棒と生活を共にする伴侶。
どっちも命を預けているパートナーであり、自然に異性の視点を映画に持ち込めているし、行動を二つにして、物語を停滞させない。
愛情を大事にする伴侶と解決を大事にする相棒。
それは女性的と男性的な特徴を抽出してもいる。
整備工と刑事でどちらも解決を目的とする職業だけによりわかりやすい。
ゆえに、整備工側に店を移るときのタイヤ交換の技術を見せるだけでなく、整備工としての修理するシーンとハーレーに乗ってるシーンが欲しかった。
バイクの話はそこそこ出てくるからね。
好きなものを相手のためにどうしたか(乗るのをやめても、やめなくても)というシーンがあれば、ステーシーのスピーチがより効いたと思うなぁ。
エレン・ペイジの身長的に撮影が厳しかったのかもしれないね。
おいらなら、ローレルを車いすで海に行くシーンを入れちゃいそう。
ラストの味わいのために。
いい人ばっかりなのもなぁ。
メインの悪役も最後いなくなっちゃうし。もちろんあの4人に分担させることで、悪意を分散させているんでしょうけどね。
イメージの作り方が政治的に上手い。
こういう意識のある映画では必要な技術です。